真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「異常交尾 よろめく色情臭」(2009/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:田山雅也/撮影助手:邊母木伸治/照明助手:八木徹・斎藤順/編集助手:鷹野朋子/応援:関谷和樹/スチール:津田一郎/効果:梅沢身知子/タイミング:安斎公一/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション/出演:鮎川なお・山口真里・柳之内たくま・なかみつせいじ・真田ゆかり)。
 ゴシップ誌『GON』ならぬ『MON』を歩き読みしながら、頻発する美女による噛みつき事件とやらの与太記事に半信半疑の薄ら笑ひを浮かべる会社員・平田進(なかみつ)の前に、妖艶な黒いドレス姿のユリ(真田)が現れる。ユリから平田にモーションをかけるや、チャッチャと別所にて濡れ場に突入。平田が絶頂に達したところで、ユリが美しい歯並びも露に男の首筋に牙を剥く。ユリは、吸血鬼であつたのだ。倉庫のやうにマネキン人形が林立する、ウィズ香が濃厚に漂ふ一室にユリが帰宅すると、赤いドレスの妹・セン(鮎川)は何物か人血の代替物で飢ゑを凌いでゐた。奔放に狩りを楽しみ永遠の命を謳歌するユリに対し、姉との間に何事か深い因縁の存在も匂はせるセンは、人の血を吸ふ宿命と、そして“終りのない”生命にも、強い疑問を抱いてゐた。真田ゆかりが、過去最高とも思へる空前のクール・ビューティーぶりを咲き誇る他方で、主演にして初見の鮎川なおは案外といふか何といふか、止め画(ゑ)に比して実際に動くところは若干落ちる。この人あるいはこの鬼達は結構タフな吸血鬼で、日傘なりサングラスで軽く武装した程度で、フレキシブルに日中も活動してみせる。そんな訳で日向の駅前、路上の似顔絵描き・佐伯優介(柳之内)と出会つたセンは動揺する。その昔センは耕作(柳之内たくまの二役)と許婚の仲にあつたが、自らを抱く耕作を捕食しかけたセンは、自身の運命に戦慄し耕作の前から姿を消す。一旦その場はセンから立ち去つた後、判り易過ぎる大病フラグを立てる優介は、その後別の女と結婚したものの、終にセンを忘れることは出来なかつた耕作の孫であつた。一方、ユリから吸血鬼に感染し、その割には土気色の顔色に仕種は知能も低さうに唸り声を上げる、と演出上はゾンビのやうな平田の前に、今度は肉感的な芹沢泰子(山口)が登場する。ピンクにしては意外と珍しいのではないかとも思はれるが、地下駐車場に舞台を移し再び泰子主導で平田は事に及ぶ。平田に細首に喰らひつかれさうになつた泰子は、迎撃に転じ短剣のやうな大きさの十字架を突きつける。抵抗に遭ひクロスを失ひつつ、泰子は取り出した銃で平田に銀製の杭を撃ち込み始末する。人類の脅威に対抗する吸血鬼ハンターである泰子は、後始末は別働隊に指示しその場を立ち去る。
 ざつと近作を振り返つてみても、異星人臓器提供者の残存記憶だ、肉体間の人格入れ替りに更には人造人間だと、ファンタ系ピンクの地平を軽やかに爆走する渡邊元嗣が今回選んだモチーフは、ハンターまで動員する姉妹ヴァンパイアもの。そこから大アクションを展開してみせて呉れとは、望みはするもバジェットを酌んでいひはしないが、ユリと泰子が、薄暗い地下道に於いて逢着し対峙するソリッドなショットに漲る緊張感などは比類なく、今作のハイライトと推したい。特に新味のある展開でもないものの、悲劇的なラストも逆説的に温かく締め括る、終りなき生命の継続に疲れたセンの視座も、決して有効に機能してゐないではない。さうはいへ、流石に六十分に欲張り過ぎた感は否めない。最終的にはほぼ中途で投げ出されたまゝの点と、昨今の風潮から照らし合はせるとどうしても通俗的に思へなくもない、優介の難病ギミックなどはいつそ不要でもなからうか。加へて工夫を欠いたメソッドを見せられるに至つては、殆ど笑へないコントだ。人からの吸血を忌避するセンが、代りに口にする赤い液体の正体は兎も角、数度触れかけられながら、過去に姉が妹に犯した罪の内容が結局語られず仕舞ひに済まされてしまふのは、流石に積極的に頂けない。ネーム・バリューは兎も角、どうやら目つきに難があるらしき主演女優の陰に身を引いて、折角の真田ゆかりの超絶が些か喰ひ足りない心残りがある意味最も大きいか。詰まらないといふほど悪くはないのだが、痒いところに手も届かない一作ではある。

 尤も、改めてこの期に及んで気付いたが、風間今日子の穴をさりげなく埋めた感のある、山口真里のポジショニングが実は非常に頼もしい。


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