真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「欲望の酒場 濡れ匂ふ色をんな」(2010/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『STAGE』/撮影:長谷川卓也/照明:ガッツ/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:福島圭悟/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/ビデオ編集:大場一魅/現場応援:田中康文・内藤和之/協力:阿佐ヶ谷『ロフト』・鎌田一利・原田なつみ・森山茂雄/挿入歌『暗い海の底に』『海』作詞・作曲:桜井明弘 『風のいろ』作詞:五代暁子・作曲:大場一魅 『STAGE』作詞:桃城姫香・作曲:大場一魅 singing girl:佐々木麻由子/出演:佐々木麻由子・日高ゆりあ・鈴木メイ・野村貴浩・久保田泰也・竹本泰志・甲斐太郎・牧村耕次/Special guest star:なかみつせいじ・倖田李梨・原田浩史・松本格子戸/Special thanks:はっしん・JP・katsu・hide・ZAN・電撃チャック・こうげつ・美麗・だいさく・白木努・浅倉茉里子・若林美保・鷹野朋子・松岡由記臣・ひろぽん・岡輝男・志賀葉一・阿佐ヶ谷ロフトAスタッフの皆様)。ポスターに名前が載るのは、ビリング頭から倖田李梨まで。
 桜井明弘がギター伴奏する―原田浩史が、桜井明弘の俳優部名義―阿佐ヶ谷ロフトAのステージ、往年の人気歌手・斑鳩洋子(佐々木)が、かつてのヒット曲「暗い海の底に」で観客を魅了する。斑鳩洋子の音楽性といふのはザックリいへばシャンソン・ベースの歌謡曲なのだが、何はさて措き第一に特筆すべきは、佐々木麻由子の歌が普通に歌手としても通るほどに、といふのも通り越して半端でなく上手い。兎にも角にもこの時点で、ピンク映画初の本格歌謡映画を志向したといふ試みはひとまづ成功を果たしてゐよう。Special thanks勢は概ね出演エキストラとして、ロフトAの客席要員。因みに志賀葉一といふのは、清水正二の別、あるいは本名義である。事件化した所属事務所の倒産によりアメリカに逃亡してゐた時期すらあつた洋子は、現在は当然の如く大絶賛肉体関係にもあるパトロン・大沢(甲斐)の支援の下、歌手の志望も捨て―といふ設定の割には少々若くもある―洋子のマネージャーを献身的に務める高岡尚也(野村)とともに、要はドサ回り的な風情で津々浦々の小さなハコで細々とライブ活動を続けてゐた。終演後、洋子の大ファンだといふOLの山岸アスミ(日高)は、洋子に花束を直に手渡す夢が叶ひ感激に顔を輝かせる。
 クレジット順に配役残り、感動的に曲と合はないリズム感―これは撮影の問題かも―と、濡れ場に際しては喘ぎ顔の下品さとが酷い鈴木メイは、ロフトAの店員・レンカ。三番手?の介錯役は、何となく高岡が務める。そこかしこに違和感を感じつつ観てゐたところ、どうやらこの人は支那人らしい。確か、洋子のライブの客席には見当たらなかつたやうな気がする美麗が、もしかすると大陸ルートで鈴木メイ―といふ名義自体から、実は正体不明でもあれ―を連れて来たものなのかも知れない。久保田泰也は、アスミの彼氏・壮介。一旦竹本泰志を飛ばして牧村耕次は、洋子の前に現れる芸能ゴロ・橋本。洋子にストリップ舞台の仕事をオファーし、激昂させる。熊本出身となるとネィティブの筈にしては、九州弁での台詞が逆にあまり達者ではないなかみつせいじは、渡米する洋子から生まれたばかりの赤ん坊を引き取る代りに、絶縁を言ひ渡した兄・山岸健一。姿を見せない健一の妻・ミチコの声は、山ノ手ぐり子あるいは五代暁子、ではなく新居あゆみがアテてゐる、コメント欄を参照されたし。倖田李梨はアスミの友人、松本格子戸だけが、何度観ても何処に登場してゐるのか判らない。
 生き別れた母と娘、決して男と女の仲には至らぬ男女のドラマも絡め、歌を頼りに舞台の上で戦ひ続ける一人の既に若くはない女シンガーの姿を描いた物語は、一歩間違へれば演技よりも上手い勢ひの佐々木麻由子超絶の歌唱力にも支へられ、基本線として頑丈に見応へがある。芝居パート―などといふのも屈折した物言ひだが―にあつては自殺行為に近い大胆にも、結構衝撃的なスッピン顔を晒してのけた女優根性も光る。対して、その癖ポスターは何故か一人で全面を飾りはするものの、一年後は何処で何をしてゐるのだかグラグラまるでハッキリしないレンカの存在はいつそ丸々不要で、アスミ篇も相方が久保田泰也では、基調シリアスな映画の中で心許ない軽さも否み難い。尤も、そのやうなあれやこれやは取るに足らない瑣末と捻じ伏せるだけの比類ない決定力が、歌だけでなく佇まひまで含め斑鳩洋子のステージングからは迸る。劇映画的には必ずしも兎も角、音楽映画として文句なく買へる一作。少なくとも個人的には、突破に成功したのはよしんば一点だけともいへ、かういふコンセプトの明確な映画は清々しいと好むところである。

 オーラスの回想シーンに登場する竹本泰志は、事故で夭折した天才トランペッター・阿川薫。洋子の夫であつたかどうかは厳密には不明ながら、<アスミの父親>である。敢て前時代性も要求される大仰な色男を、何気なく好演してみせる貫禄は流石。髪型を少し弄るだけで二十年の歳月を易々と飛び越えてみせる佐々木麻由子も、依然昭和の香りを漂はせる大女優ぶりを特筆するまでもなく披露する。今作も、といつたいひ方が適当なのかどうかはよく判らないが、とまれ神戸顕一の姿は如何なる形に於いても見当たらない。


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