真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「触る女 車内で棒さぐり」(1989『痴漢電車 朝から一発』の2009年旧作改題版/企画:《株》旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・福本淳/照明:秋山和夫・田中明/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/助監督:毛利安孝/制作:鈴木静夫/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:林こずえ・山岸めぐみ・秋本ちえみ・直平誠・芳田正浩・小多魔若史・米田共・中村憲一・山崎邦紀・山本竜二)。出演者中、芳田正浩は本篇クレジットのみ。代りにといふか何といふか、ポスターには高橋達也とかいふ名前が見られる。この辺りのフリーダムさは、一体何から生まれて来るのか。何気ない、新題のソリッドさは推しておきたい。
 セックスと金とにだらしない彼氏・コーイチ(直平)との生活に疲れた数奇頼子(林)に、藪から棒にもほどがある、あるいは爆発的に棚牡丹な話が転がり込んで来る。頼子の前に現れた弁護士・真田(山本)によると、アメリカに在住する頼子の大叔母(全く登場せず)が、頼子に日本円で二十億もの遺産を相続させるとのこと。当然そのためには条件があり、それは再従兄弟の大三郎と結婚した場合に限るといふものであつた。頼子には面識のない大三郎の所在は確認されてをらず、手懸りは私鉄沿線に出没する痴漢グループと行動を共にしてゐるらしいといふ情報と、特徴的な一つの目印。数奇一族には割礼に似た奇習があり、三才の時に、男女とも性器に星型の入墨を彫つてゐた。頼子の小陰唇の内側にあるのと同様、大三郎の亀頭にも星のマークがある筈だつた。それはどうでもいいが、いやよかないが話を聞いてゐるだけで果てしない激痛を覚える。二十億中一億の成功報酬を約した親友の涼子(山岸)を伴ひ、痴漢電車に果敢に突入した頼子は、肉を切らせて骨を断つべく痴漢されつつ痴漢師の一物を調べて回る。
 物語を痴漢電車に入線する画期的な力技も兎も角、今作に際して個人的に最大の収穫は、同年三作前の「痴漢電車 やめないで指先」にも登場するもののその際には叶はなかつた、痴漢師軍団の面々の特定に概ね辿り着き得た点。小多魔若史・米田共・中村憲一の三人がどれがどの人なのだか判らなかつたのだが、内藤忠司に鼻髭を生やした感じの小男にして、今作に於いては一味のリーダー・オタマジャクシ先生が、本職はマンガ家でもある小多魔若史。元々器用な人なのか中々以上に、腰の据わつた俳優部ぶりを披露する。残る二人に関しては中村憲一が寡黙な若い男で、米田共が最年長の年配の男。初登場時には涼子に電車痴漢する一方頼子に口内射精してしまひ、後にオタマジャクシ先生を二人に紹介するグラサンは、山崎邦紀。実はオタマジャクシ先生以外のメンバーは、それぞれの住居最寄り駅の駅名をコードネームとして呼び合ふのだが、そこは地方民の哀しさよ、上手く聞き取れなかつた。映画前半までに登場する痴漢は、オタマジャクシ先生と山崎邦紀に、中村憲一。
 男性自身に星印を持つ顔の判らないターゲットを、クロスカウンターを放ちながら痴漢電車の車中に探す。正しく愉快痛快、かつ大胆不敵な物語ではあるが、正直二つ目の無茶に関しては、破天荒も度が過ぎ底が抜けてしまつた印象も強い。なかなか大三郎に辿り着けない頼子に、オタマジャクシ先生が助言を与へる。野外プレイをする者があれば痴漢は必ず覗きに来る―そしてその場でマスもかく―ので、その際に確認すればいいのだといふ。そこで涼子がハニー・トラップを仕掛けた上、頼子がこれまでに貸した金の即時一括返済もちらつかせ、コーイチに新宿公園で青姦を展開させるなどといふ、正しく無理難題を呑ませる。清々しく三番手の秋本ちえみは、コーイチが新宿公園に連れて来る女。ここで集まつた痴漢はオタマジャクシ先生に山崎邦紀と、中村憲一は退場し、新たに米田共と芳田正浩の計四人が参戦。後に頼子相手にミッチリ絡みもこなす芳田正浩は、ナニに黒子があるだけの早とちりされる男。今回初めて気付いたが、この人若い頃は、今でいふと嵐の二宮和也のセンだ。
 閑話休題、流石に神宮決戦への導入に際しては、何を斯様に大掛かりで面倒臭い真似をせねばならぬのかと、些か立ち止まらざるを得ない。ここでさういふ野暮を言ひ出したくなる気分になつて来るのも、そもそもはといふか有体にいへば、当時の評価はさて措き、三人の女優陣が如何せん弱いのだ。主演の林こずえは首から下の柔らかさうなムチムチぶりは申し分ないものの、首から上は正直曲がつてゐる。脇を固める山岸めぐみの垢抜けないロリータ感は洗練度が頗る低く、残念ながら時代を全く超え得る類のものではない。純然たる濡れ場要員たる秋本ちえみはルックスは三人中最も纏まつてゐる一方、プロポーションの方はといへば少々寂しい。更に三つ目の荒業を炸裂させつつ最後は意外にイイ話へと強引に落とし込むラストまで含め、冷静に頭で考へてみれば起承転結の構成としては実は抜群の強度を誇つてはゐるのだが、主力装備に不足があるだけに、娯楽映画の秀作になり損ねた一作といへよう。

 「やめないで指先」の更にその先を行き、エンド・マークは通例の“FIN”ではなく、“・わ・”→“・わ・り”→“お・わ・り”→“・わ・”→“お・わ・”→“お・わ・り”などといふ、まどろつこしい割には、少なくとも今の目からすれば甘酸つぱく無駄の多い終り方を仕出かしてみせる。


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