◉くすぐったい

2018年9月19日
僕の寄り道――◉くすぐったい

ぼんやりとしてしまった年寄りの身体をくすぐってもくすぐったがらない。
「母さんくすぐったくなくなっちゃったね」
と拘縮したからだをさすってやりながら妻が声かけしている。

ぼんやりとした年寄りだけでなく、しっかりしている自分たちですら、子どもの頃くすぐったくてたまらなかった場所を、くすぐられてもくすぐったくなくなったのはなぜだろう。

病院「時間外入口」前のくすぐったい造形の枝ぶり。

ひとは自分をくすぐることができない。それは自分が自分をくすぐることを自分で予測してしまうからだ。統合失調症むかしでいう精神分裂病では、自分で自分をくすぐることができるという。自分で自分をくすぐるというより、自分をくすぐっている自分を判別できないからだ。

自分だけでなく他人にくすぐられてくすぐったくなくなったのも予測によるものだろうか。このひとは自分をくすぐろうとしていると予測できてしまうからくすぐったくないという説明は完全に正しいだろうか。

年寄りに「くすぐりますよ」と声かけしてこちょこちょしてもくすぐったがらない。だが声かけせずにからだをさわったり、視野にはいらない角度から突然おおきな声で話しかけると、びっくりしてひどく怒ることがある。年寄りも静けさを予測している。

年寄りでなくても、ひとは突然くすぐられたらびっくりするし、相手によっては怒ることもあるだろう。予測できるからくすぐったくないのではなく、くすぐったいのは他人にくすぐられると予測するからくすぐったいということもあるだろう。

だから子どもにむかって「くすぐっちゃうぞ〜」と言いながらくすぐる仕草をすると、くすぐられる自分を予想しただけで「きゃっきゃ」と身をよじってくすぐったがる。自分も子どもの頃はそうだった。そして少しずつくすぐったさという不思議な感覚を忘れて老人になる。

(2018/09/19)


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