◉ 千朶木書房開店

2019年2月18日(月)
◉ 千朶木書房開店

人間五十歳を過ぎると収集癖がつくという。そういう井伏鱒二がチラシを集めていると書いていた(井伏鱒二「引札」)。チラシのことを引札といい、江戸時代には配符といって蒐集家もいたらしい。

現在四十枚ほど集まったという引札を三枚ほど紹介しているけれど、森鴎外の三男森類(もりるい 1911ー1991)が団子坂上、旧居観潮楼跡の一角をつかって 1951 年に開いた古書店千朶木(せんだぎ)書房の開店告知があった。

観潮楼跡の斜め向かいに 9 年ほど住んでいたので、団子坂上にあったという古書店のことは知っていたけれど、その開店チラシが読めるとは思わなかった。千朶木書房の命名は斎藤茂吉だが、千朶万朶圧枝低(せんだばんだえだをおさへてたる)の千朶であり、千駄木はそちらの文字をあてるのが正しいのだろう。「愛情にあふれ、行文の妙を内輪に矯める程度にして、余裕のある堂々たる文章」と井伏が評する文章の書き手が誰かは知らない。森類の詩歌友だちと書いてある。

三枚目のチラシにある、鰻を焼いて昼の商売を始めるという「はせ川」は、京橋にあって井伏以外に坂口安吾や檀一雄など文士の溜まり場になっていた店のことだろう。と、思って目次を見たら「はせ川」と題した随筆があって、小林秀雄、大岡昇平、林芙美子、永井龍男など錚々たる面々が常連として登場する。引札は、しっかりもののおかみさんがいた様子がよくわかる秀逸な文章になっているけれど、どうやら久保田万太郎が書いたものらしい。

(2019/02/18)

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