裏山


D850 + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM

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Mrs.COLKIDの実家の裏に小高い山がある。
そこに入っていく道は、地図にも載っておらず、地元の人にしか知られていない。
途中何ヶ所か斜面が崩れて、道に石がごろごろしている場所があり、夏は植物がせり出して道の半分を覆っている。
道は狭く車がすれ違える箇所は限られる。
公道と呼ぶには少々危険なので、一般の車が入ってきたら問題が起こるであろう。

実家に行ったら、天気が悪くなければ、なるべく山の頂上まで行ってみる。
(雨風の強い日は怖くて行けない)
地元の人が時折通る程度で、それ以外には滅多に人の行かない天国のような場所である。
頂上近くに開けた場所があり、朝早くか夕刻には遠くに富士山が見えると義父が言うので、日が沈む前にちょっと行ってみた。

高台に2、3台車が停められる場所がある。
そこに着くと小さい車が1台停まっており、その横にテントがひとつ張ってあった。
隣に車を停めると、テントから男性が出てきた。
ちょっと写真を撮らせてくださいと挨拶した。
僕と同年代の男性で、車は福島ナンバーであったが、言葉には訛りは無く、どちらかというと都会派のように見えた。
聞くとこの場所が好きで、時々泊まりに来るのだという。

僕の車のナンバーを見て、なぜこの場所を知っているのかと、いぶかしげな顔をする。
すぐ下に妻の実家があり、時々ここまで来るのだと言った。
実家のある地名まで伝えると、やっと納得した様子であった。
どうやらここは、皆が秘密にしている、とっておきの場所のようだ。

「こんなところは他にないですよ」
と男性は言った。
あちこちをキャンプして回ったが、キャンプ場はファミリー向けになってしまい、騒がしくてどうしようもないという。
ひとりで孤独を楽しむ本当のアウトドア派には、人の大勢集まるキャンプ場なんて到底納得できないらしい。

動物が出ないか聞いてみると、イノシシは多いという。
寝る前に線香花火を2、3本焚けば、火薬の臭いを恐れて寄ってこないという。
イノシシの本能に、銃に対する恐怖心が刷り込まれているらしい。
またイノシシとクマは食物が近いせいか縄張りが重ならず、イノシシがいるとクマはいないという話も聞く。
いずれにしてもこの山系にはクマはいないから安全だと男性が言った。

「ここは木を切ってしまったから、こんなに見晴らしがいいんですよ。あと10年もすれば、この景色はもう拝めなくなります」
男性はそう言いながら、夕食の支度を始めた。
朝には雲海を見られることもあるという。
たしかにこの景色をたったひとりで楽しみながら過ごすなんて贅沢な時間である。
残念ながら今日は霞がかかっていて、富士山は見えなかった。
僕は数枚写真を撮って、男性に挨拶をしてその場を去った。
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