キーホルダー


D810 + AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G

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ドイツで国内線に飛行機を乗り換えるとき、手荷物が引っかかった。
かなり厳しい検査で、ボディチェックも念入りであった。

ゲートをくぐり抜けるだけのものとは違い、筒状のカプセルのような部屋に入れられる。
その中で両手を挙げた格好で立たされ、周辺をセンサーのようなものがくるりと回って身体の内部を検査する。
その後、パーテーションで囲まれた四角いエリアに入れられて、今度は検査官が身体を触ってボディチェックをする。
まあテロのことを考えたら当然であろう。

身体のチェックのほうは、問題なくパスした。
その後、X線検査装置から出てきたパソコンや時計、カメラなどの荷物を受け取った。
ところが肝心のリュックが、いつまで経っても出てこない。
何やら揉めているようだ。
モニタを見つめる検査官の女性が、ドイツ語で話しているのが聞こえる。

制服を着た若い大きな男が来た。
僕の前に立ち、こちらを見下ろしながら、リュックの中に問題があると言う。
何が引っかかったのだろうと思ったが、男がキーと言うのを聞いてピンときた。
弾丸のキーホルダーだ。

20年位前に買った、アメリカのアルボ・オヤラのキーホルダーである。
ニッケルメッキをした.45ロングコルトの弾丸にキーリングが付いている。
よくあるアクセサリーではあるが、火薬を抜いてあっても、実弾であることに変わりは無い。

今までこのキーホルダーが空港で引っかかったことは一度もなかった。
それゆえ、これは大丈夫なのだろうと思い込み、最近は思い出すこともなかった。
現に出国の際は何のお咎めも無かった。
それがドイツ国内で引っかかった。

若い金髪の無表情な男であった。
今回のように、問題が大きくなる可能性のあるケースで出てくる担当官のようだ。
僕のキーホルダーを片手に持ち、青い冷たい目で.45ロングコルトの銃弾をじっと見つめている。
いかにもドイツ人といった顔立ち。
感情の見えない冷たい表情から、国境で秘密国家警察に検問を受けているような気分になった。

「だめだ。これを外せ」
え・・駄目なの? 長く使っている愛着のあるものなのに・・・
「だめだ」

ため息をつきながら、硬いキーホルダーのリングから、キーをひとつずつ外そうとした。
すぐに
「キーを外す必要は無い。リングから弾だけ外せばいいんだ」
と言われた。

弾丸部分を外して、無表情な男に渡した。
「OK、行っていい」
男はそれを持って、ツカツカと向こうに歩いていった。

僕はパソコンなどの荷物をリュックに戻した。
リングだけになってしまった哀れなキーホルダーも、リュックのポケットにしまった。
あの無慈悲な男とは、友達にはなれそうもない・・・

その場を立ち去ろうとした時、向こうの方で、ガーンと硬い物が落ちるような音がした。
あいつめ、僕の弾丸をゴミ箱に放り込んだな・・・
投げ込んで、ニヤリと笑ったあの男の顔を想像しながら、僕は乗り継ぎのゲートに向けて歩き始めた。
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