靴磨き4


D810 + AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G

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昨日の続き。

5.ワックス(その2)

ワックスを指に巻いた綿に少量取り、革の表面に円を描くように塗り込んでいく。
ここで重要になるのは、ワックスの粘度だ。
固形の硬い状態のままで塗ると、かさついてゴソゴソする。

缶の中のワックスの状態を見て、乾燥しているようなら、先にワックスに水を僅かに(1、2滴程度)垂らし、少しゆるめてやる。
しかし垂らし過ぎるとクチャクチャし始める。
ネチッとした粘度を程よく保った状態にするために、水の量を加減してやる必要がある。
(乾燥した状態の方が好きな人もいて、缶の蓋を開けておいて乾かしてから使う場合もあるようだ)

表面に鱗状の模様が描かれていくが、そこに程よい粘りと輝きがあり、ヌルリとした粘着性の感触が残るのがいい。
途中粘度が変化してきたら、また水をわずかに与えて調整する。
プロの場合、革の種類や磨く工程に応じて、硬さをきめ細かく調整している。
普通の水でもいいが、僕はブートブラックのポリッシュ・ウォーターを使っている。
また綿の布は、ここではあまり交換せず、ひとつの面をある程度使い続けたほうがいいようだ。

一通り表面を塗り終えたら、今度は指にポリッシュクロスを巻き、それを水で湿らせる。
数滴たらす程度でよく、使う前に必ず一度表面を布などにこすりつけ、余分な水分は落としておく。
巻きつけは例によって慎重に行い、ネルの表面が平らになるようにする。
これで塗り込んだワックスの上から擦るように磨くと、ワックス表面が硬化し、次第に独特の艶が出てくる。

ネルではなく、靴の表面に塗りこんだワックスの上に、直接水滴を垂らす人もいる。
それぞれのやり方があるようだ。
僕の場合は、革に直接水を垂らすのはためらいがあり、もっぱらネルの表面を湿らせる方式をとっている。
水のやり方は注意が必要で、多くやりすぎると革の表面に染みが出来て取れなくなるので、慎重に行って欲しい。
磨いている時に表面に水が残るようでは、濡らし過ぎだと思う。

全体を磨き終えたら、せっかく艶が出始めたところであるが、もう一度上からワックスを塗り込む。
そして再度ネルで仕上げる。
これを何度か繰り返して、コーティングの層の厚みを増していくのだ。
塗っては仕上げ、塗っては仕上げを4、5回行う。

コーティングが厚めになったところで、一度強めに表面を磨くと、艶がもう一段滑らかになる。
ここで重要になるのは、靴がしっかり固定され、動かないことだ。
地面や机の上に靴を置き、上から強めに磨くと、急激に「鏡面」が出来上がっていく。
磨くネルの方も、磨かれる靴の方も、とにかくしっかり固定されることが重要だ。

磨き方を段々とソフトにしていき、最終的な仕上げは、湿らせたネルで軽く表面に触れる程度の弱さで行う。
硬い金属を研磨する時の仕上げと同じ要領だ。
この頃になると、手で触れただけで曇ってしまうほどデリケートな仕上がりになっている。

プロにお願いすると、最後に柔らかいブラシを部分的に使い、微調整することがある。
一部分だけが極端に輝くのはおかしいので、本体部分とワックスした部分が違和感無くつながるように、光沢にグラデーションをつけるのだ。
革の質によって、このグラデーションが上手く出る場合とそうでない場合があるようだ。

こうして鏡面仕上げが出来上がる。
僕がやると、時間にして30分くらいかかるが、専門家や上手い人なら、もっと短時間で完成させてしまうだろう。

靴磨きは、それぞれの人に独自のやり方がある。
ここに書いたことは、僕が勝手に開発した方法で、もっと上手いやり方もあるはずだ。
また僕の靴磨き法自体も、今後どんどん変化していくだろう。
あくまでひとつの例として、参考にしていただければと思う。

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