落し物


D3 + AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED

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ホテルでビュッフェ形式の朝食をとっている時のこと。
食べ物をお皿に取る為に、皆が何度となく席を立ったり座ったりしていた。

斜め前の席に日本人の男女が座っていた。
60歳くらいの風采の上がらないおじさんと、妙にピシッとした服装で決めた40歳代の華やかな女性であった。
非常に不自然なカップルである。

二人が席を立った直後、隣の席にいた中国人の男性が急に立ち上がり、歩いていく女性を追いかけて引き止めた。
床を指差して何か伝えている。
何事かと思って見ると、椅子の背にかけてあったおじさんの上着の内ポケットから、何かがバサバサと床に落下している。

・・・全部一万円札だ!
大量の一万円札が床にばら撒かれている。
軽く百万円以上あるぞ。

女性は慌てて戻り、同行のおじさんを呼び戻した。
しゃがんで床に落ちた札を拾い集めようとするが、大量にあるため、まるで落ち葉を熊手でかき集めているように見える。
まだ上着の中に残っているらしく、さらにパラパラとお札が舞い落ちてくる。
それを無言で拾い集める女性。

周りのお客さんは、唖然としながらその様子を見つめている。
室内がシーンと静まり返った。
女性の服装が立派なだけに、その姿は余計に不思議なものに映った。

拾い終わった女性は、冷静を装い、声を荒げることもなく「気をつけないと・・」とおじさんに話している。
さすがのおじさんも、少し気まずそうな顔をしていた。

二人が再度席を立つと、たちまち周りの席でヒソヒソ話が始まった。

「あー、ビックリした」
「本当の奥さんならもっと声を上げて注意する。あの二人は夫婦の関係ではない」
「あの女の服装と化粧は「おみず」に違いない・・・」
「愛人を連れて旅行に来ているのだ」
「それにしてもあんなに大量の現金をポケットに入れて歩くか?」
「カードを使えないから現金を持ち歩いているのだ。愛人旅行の証拠だ」
「一体どういう職業の人なのだろう?」

声をかけた中国人男性のみが、現金を見慣れているのか、自分の席で平然とした顔でパンをかじっていた。
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