酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

出でよ!日本のアサンジ~ウィキリークスが志向するもの

2011-11-01 19:10:57 | 戯れ言
 都内のネットカフェで更新している。ここ数日、パソコンが入院したと思ったら、洗濯機が壊れ、トイレの水が溢れた。おまけに携帯電話まで不調になり、通話できなくなる。祟りなのか天罰なのかはともかく、自重、自制、自粛を決意した。とはいえ、煩悩多き身にたやすいことではない。ネットカフェの通路でシャンプーの香りがする難民女子とすれ違うと、「うちの方がここよりましだよ」と声を掛けたくなる。もちろん、実行には移さない。

 帰省中、録りだめした「デモクラシーNOW!」をまとめて見た。その殆どがウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジがに出演した際のもので、今回はエイミー・グッドマン(進行役)の単独インタビューと、スロベニアの哲学者スラボイ・ジジェクとの対談の回を中心に記したい。だが、最も大切なのは、現在の日本――とりわけ3・11後――に照らしてウィキリークスの意義を論じることだ。

 米軍ヘリによるイラク民間人虐殺の生々しい映像の公開により、ウィキリークスの名が世界に轟いた。音声と合わせて見れば、ヘリ乗務員が司令部に逐一報告した上での蛮行であったことが確認できる。ウィキリークスはイラクやアフガニスタンにおいて多くの民間人が組織的かつ秘密裡に殺された事実を明るみに出す。アサンジいわく<人類史上の際立ったアーカイブ>が、<世界最大のテロ国家=アメリカ>の姿を浮き彫りにした。

 アメリカ政府や民主党のウィキリークスへの対応には凄まじいものがある。かつてモンデール大統領候補の選挙参謀を務めた民主党顧問ボブ・ベッケルは「アサンジの非合法的射殺」を訴えた。アメリカの公務員は「家庭でもウィキリークスについて話すな」と通達されている。石原都政下の教育現場を連想させる薄ら寒い状況といえるだろう。アメリカの同盟国イギリスでもウィキリークスへの支持は高く、欧州では諜報機関によるアサンジ暗殺の可能性は低いという。

 当のアサンジは「ウィキリークスは反戦主義者でも平和活動家ではない。良心的な内部告発者によって権力の濫用をチェックし、民主主義確立の一助になることを目指している」と語っている。同時に「ウィクリークスの活動の基本は小さなことの積み重ねで、抽象や類推からスタートすることは決してない」と自らの方法論を述べていた。

 話は逸れるが、俺は雛の頃から肉親の情でミューズを応援している。怪鳥に成長した彼らは、全欧では数年前から、全米でも最もチケット入手が困難なバンド(ロッキンオン誌)になる。メジャー嫌いの俺がいまだ彼らに興味を失わないのは、そのメッセージ性ゆえだ。2日で16万人を動員した昨年のウェンブリー公演は、今年の暴動の予行演習かと思えるような光景でスタートしたし、「1984」をモチーフに21世紀型管理社会の恐怖を描いた前作「レジスタンス」は、ジジェクの発言に符合する部分が大きい。

 <人々を解放し、世界を活性化させる>のはインターネットのプラス面だが、ジジェクはマイナス面を強調する。<情報は権力によって掌握され、公共空間が支配者と手を結んだ企業によって民営化されていく>と警鐘を鳴らしている。空間支配の典型はグーグルで、辺見庸氏は死刑廃止デーの講演で、被災地の映像について「グーグルなのかスパイ衛星なのか」と違和感を提示していた。小泉政権のブレーンだった岸博幸氏も、グーグルの危険性を繰り返し語っている。

 情報戦の局面で権力の壁はあまりに強大だが、ウィキリークスは秘策を用意していた。米軍の内部文書公開に際し、ニューヨーク・タイムズ、英ガーディアン、独シュピーゲルと共同戦線を張る。3紙と〝共犯関係〟を結ぶことで認知度が高まり、自らの安全を担保することにも繋がる。欧米の主流メディアはウィキリークスを許容し、ウィキリークスは主流メディアのフィルターを壊し、急進化させた。

 残念ながら、日本はこの流れの埒外にある。3・11以降、東京新聞以外の日本の記者クラブメディアは大本営発表を垂れ流し、噛み付いたフリージャーナリストの発言を封じようとした。大地震と原発事故をもってしても何も変わらぬ日本のメディアは、クチクラ化し、既に死んでいる。希望は自由報道協会だが、「出でよ! 日本のアサンジ」と叫びたい。

 録画を見て感じたのは、アサンジがメディアにとって初心というべき倫理、怒り、公正と自由の希求に衝き動かされていること。ツールは日々進歩するが、世の中を変えるのはアナログ的な感性、価値観、情念だと確信した。恋愛やアートにも敷衍できる真実だと思う。

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