酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ジャーナル・フォー・プレイグ・ラヴァーズ」~死者を甦らせたマニックス

2009-05-15 03:24:43 | 音楽
 ブログを始めた年(04年)まで、NMEやQマガジンの年間ベストアルバム(10枚)は発表される時点(年末)で殆ど購入済みだった。その後、ロックへの関心が一気に薄れ、現役ファンを引退した。

 新陳代謝を繰り返し、新世代が既成勢力を駆逐してきたロック界だが、最近は死臭が漂うようになった。21世紀に入って、シーンを揺さぶるムーヴメントは起きただろうか。ハイパー資本主義のしもべになり、以下の<A>~<F>に忠実なバンドだけが、トップとして生き残っている。

<A>次回のアルバムまで最低でも3年のブランクを空ける
<B>その間、広告代理店が中心になって、売るため戦術を練る
<C>米民主党や英労働党の掌で踊る範囲で、良心的言動や慈善に努める
<D>スタジオでの厚化粧で、ipod向きの人工的で草食系の音を完成させる
<E>興行主、チケット屋、フェス主催者との打ち合わせで発売時期が決まる
<F>メディアに歯の浮くようなお世辞を書かせる

 お人良しの俺でさえ、大掛かりのトリックに騙されなくなる。ロックの魅力は微分係数の煌きと瞬間最大風速の勢いだ。キャリア10年を超えて最高傑作を発表したバンドなんて、キュアー、レッチリ、グリーンデイぐらいなのだから……。

 昨日(14日)、発売されたばかりのマニック・ストリート・プリーチャーズの新作「ジャーナル・フォー・プレイグ・ラヴァーズ」を購入した。90年代後半、“UKの国宝バンド”と称されたマニックスは、売り上げに基づく番付で後退したものの、着膨れした他のバンドと一線を画している。

 90年代で最もダウナーなアルバムを挙げるなら、ニルヴァーナの「イン・ユーテロ」とマニックスの「ホーリー・バイブル」だ。前者はカート・コバーン、後者はリッチー・エドワーズの心的風景を形にした作品で、カートの自殺は世界に衝撃を与え、リッチーの失踪(生死不明)はマニックスの音楽に陰影を刻んだ。

 本作は「ホーリー・バイブル」以来、4人で制作したアルバムになった。リッチーが遺した散文や詩を歌詞にし、プロデューサーには「イン・ユーテロ」のスティーヴ・アルビニを迎えた。鋭く繊細なリッチーの世界観をエッジの利いたサウンドに乗せ、アルビニ独特のスタジオライブのアナログ一発録り……。マニックスは素裸になって原点に戻った。

 ライナーノーツに掲載されたニッキーの楽曲解説も興味深い。UKニューウェーヴを意識して音作りをしたようで、ジョイ・ディヴィジョン、キュアー、エコー&バニーメン、スージー&バンシーズを聴き込んだ人はノスタルジックな気分に浸れるだろう。

 イントロに日本語が流れたり、曲の中にリッチーの肉声(恐らく)が被さったりと工夫も凝らされている。決してキャッチーではないが、虚飾を排した歌詞と音はロックに飢えた若者を強く揺さぶるはずだ。資本主義が曲がり角に立つ現在、時代の風もマニックス向きに吹いている。キューバ公演を実現させたマニックスは、一貫して新左翼を支持してきたからだ。

 マニックスの新作だけでなく、タワーレコードで久しぶりに衝動買いをしてしまう。他のアルバムは聴いていないが、感想は近いうちに記すつもりだ。満足できたら、数年ぶりにロックファンに復帰するかもしれない。



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5 コメント

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期待しています (iwai/hizmi)
2009-05-15 07:11:52
いつもブログ拝見させて頂いてます。
マニックスの新作は期待しています。
「イン・ユーテロ」と「ホーリー・バイブル」は
聴き倒した2枚でした。80年代ならスミスと
ジョイ・ディヴィジョンでしょうか。

自分も2000年代に入ってからのロック・シーンには
興味が余り持てないです。
マニックスにしても決して若手ではないのに、
怒りを鋭く表現する事で突出してしまう辺りが
今のシーンの辛さなのかも知れません。
Unknown (かれん)
2009-05-15 08:49:44
マニックスは何故か今まで縁が無く未聴です。
他のマイミク様も絶賛されていて気になったのでまた聴いてみます♪

そういえば来日もするんですね。
コメント、どうも (酔生夢死浪人)
2009-05-15 16:16:50
 iwai/hizmiさんへ。

 早速、ブログを読ませていただきました。これからも頻繁に伺いますのでよろしく。

 マニックスの新作は、期待に値する作品です。文中に記したように、シンプルで生々しく、荒っぽいけど繊細なバンドの魅力をアルビニが引き出している。虚飾を捨て試行錯誤するバンドの姿勢に、ニール・ヤングに近いものを感じます。

 スミスの1st、ジョイ・ディヴィジョンの「クローサー」は繰り返し聴きました。人工的ポップが蔓延する中、過去のダウナーなアルバムが新鮮に感じられます。

 かれんさんへ。

 全部聴くのも面倒だと思うので、マニックスの一枚ということで「ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ」(98年)を挙げておきます。リッチーの不在を背景にした抒情に溢れる作品で、オアシスの2ndに匹敵するクオリティーの高さです。

 7月1日には「エヴリシング・マスト・ゴー」(96年)発表直後のツアーを記録したDVDも発売されます。3000円を切る値段なので、初期をまとめて知るためには最適の一枚になると思います。

 フェスのために来日するようですが、単独でないと厳しいかな。
ジャケがすごいですね (マル)
2009-05-16 00:29:24
マニックスの新作ですが、ジャケットがすごい独特ですね。今までの彼らにはなかった感じのジャケですね。

今回はネオサイケ寄りの音なんですか?
ジェームスがバニーメンのかなりのファンらしく
頻繁に影響を口にしていますから、その辺なんですかね?
僕も聴いてみたいです。

瞬間最大風速の勢いですか。確かに仰る通りの
表現ですね。バニーメンなんか5年であっという間に
閃光の如く輝いて消えていきましたもんね。
ネオサイケというより (酔生夢死浪人)
2009-05-16 04:22:07
 ネオサイケというとカラフルなイメージはありますか、今回のマニックスはモノクロームです。イントロがジョイ・ディヴィジョンとかキュアーっぽい曲もあります。

 エコバニが早く燃え尽きたのは、ブレーンがいなかったことも理由のひとつかもしれない。絶頂期の煌きは群を抜いていたし、後世に影響を残したことは言うまでもないですが。

 

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