酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

シンポジウム「日本の政治と社会を立て直す」に参加して~キーワードは<普遍性と特異性>

2018-11-28 21:05:57 | 社会、政治
 アーモンドアイに愛は届いた。仕事先の夕刊紙記者とカメラマンはレース直後、涙目になったという。俺もそうだった。なぜ彼女は人々を感動させるのか? 強いから、それとも可愛いから? 最大の理由が関係者の声で浮き彫りになる。

 パドックでは活気に溢れるアーモンドアイだが、口取り式では脱水状態で、息が入らないほど消耗している。力を出し切り、精根尽き果てているのだ。俺を含め〝寸止め〟で生きている人間が彼女に魅せられるのは当然だ。来秋の凱旋門賞でエネイブルとの対決を心待ちにしている。
 
 移民拡大のための入管法改正、伊高級ブランド「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」の広告動画を巡る中国での大騒動……。これらを読み解く際のキーワードは<普遍性と特異性>で、ゴーン問題を論じる切り口のひとつでもある。

 ゴーンはグローバリズムという普遍性を日本に持ち込んだ。労働者を奴隷化する成果主義を導入し、リストラや非効率部門の整理で見かけ上の実績を挙げたが、「国内シェア5位転落は明らかな失敗」との声もある。トマ・ピケティは<リーダーが全部決める仕組みと、上限設定のない報酬制度の結果がこれ>とコメントしたが、フランスでは日本の司法制度を疑問視する報道が目立っている。

 俺は<死刑制度と供託金制度が日本の民主主義を阻む壁>と記してきた。「先進国標準と逸脱しているから廃止すべき」と語っても反響は小さい。戦争法を批判する人の多くも死刑肯定だった。莫大な供託金が政治の安定をもたらしていると主張する保守派もいる。普遍性と特異性をバランス良く浸潤させることが、日本が抱える課題だと思う。

 先週末、研究所テオリア第7回総会記念シンポジウム「日本の政治と社会を立て直す」(文京区シビックセンター)に参加した。1部は杉田敦法大教授、2部は木村真豊中市議の講演。所用があったため第3部の両者の対談前に退席したのは残念だった。

 朝日新聞紙上での長谷部恭男東大名誉教授との対談でもお馴染みの杉田氏は、安倍政権に至る道筋と現状と緻密に分析する。立憲主義、自由主義、民主主義の定義を的確に示す杉田氏に、学生時代(40年前)で受けた講義を思い出した。<安倍政権は唐突に現れたわけではなく理論的背景があった>との言葉に説得力を覚えた。

 民主党が掲げた<政治主導>の失敗を反面教師に、安倍政権は官邸主導を確立し、霞が関を屈服させた。独裁的手法を政治学者たちが結果的にバックアップしてきたことを詳らかにする。丸山真男が戦前の日本を<無責任の体系>と論じた影響で、政治学の分野では<一元化>を志向する流れがあったことを例示していた。

 第1は新自由主義、第2は国家社会主義、第3は排外主義、第4は内閣中心主義……。杉田氏は安倍政権を様々な要素の混淆と見做している。奇妙なことに、移民拡大に対して、安倍政権の強固な支持基盤の右派から表立った批判が起きていない。各論反対も不支持に繋がらず、内閣支持率も50%に復帰した。

 日本社会を最も深く洞察している星野智幸が2004年に発表した「ロンリー・ハーツ・キラー」第3部に、その名前からして安倍首相をイメージさせる岸首相が登場する。治安強化を主張して権力の座に就いた岸は、民主主義否定の政策を着々と実行する。発刊後14年経った今、日本の状況は決して特異ではない。独裁的手法、排外主義、弱者への冷酷さは、世界の普遍になった。

 第2部の講演者である木村氏に接したのは緑の党総会以来、9カ月ぶりだ。パネルディスカッションに顔を揃えた緑の党会員、サポーターの自治体議員のひとりが木村氏だった。木村氏は自転車で市内を駆け回り、苦情や要望をキャッチする。欧米では普遍的な光景だが、日本では特異になりつつある草の根民主主義の実践だ。

 日常の活動の過程で森友疑惑を〝発見〟する。木村氏は「たまたまだった」と謙遜するが、各メディアに連絡しても当初、梨のつぶてだった。世間が騒ぎ始めた頃には、木村氏の手を離れていたという。「華氏119」(マイケル・ムーア監督)ではアメリカにおける社会主義の浸透が描かれていた。左翼を自任する木村氏が緑の党総会で「脱成長≒反資本主義こそ緑の党に期待すること」と語っていたのと重なった。

 戦後史を俯瞰する学究派、アクティブにネットワークを構築する活動家……。日本の政治と社会を立て直すための両輪、静と動の鮮やかなコントラストを実感したシンポジウムだった。
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