酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「サムジンカンパニー」~高卒女子が煌めく社会派エンターテインメント

2021-08-08 17:31:52 | 映画、ドラマ
 広島での平和記念式典(6日)での菅首相の読み飛ばしが話題になっている。「我が国は核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていくことが重要」という部分を、アメリカに忖度してカットしたと勘繰っている。

 コロナ対応で評価された米ニューヨーク州クオモ知事がセクハラで告発され、失職の危機にある。同じくセクハラを告発されて自殺した朴前ソウル市長を思い出した。朴氏は世界で最も評価された改革派首長だった。コスタリカの非武装中立を推進したサンチェス元大統領もセクハラで晩節を汚している。広河隆一氏(デイズジャパン元編集長)を含め、俺が敬意を表した人たちの末路は哀しい。

 俺にもセクハラ体質はあるし、ジェンダー問題に目覚めたのもここ数年のことだ。1995年の韓国社会における女性の地位を背景に描いた映画「サムジンカンパニー 1995」(2020年、イ・ジョンビル監督)を見た。「サムジン」のタイトルからモデルはサムスン電子と勘違いしたが、実は日本で馴染みのない会社で起きたことをベースにしたようだ。

 公開中でもあり、レンタルショップで人気アイテムになる社会派エンターテインメントだから、ネタバレは最小限にとどめたい。金泳三大統領が95年に宣言した「グローバル元年」をきっかけに、早朝から満員の英会話教室にサムジンの女性社員3人が通っている。ジャヨン(コ・アソン)、ユナ(イ・ソム)、ボラム(パク・ヘス)は同期の高卒社員だ。

 ジャヨンは生産管理部、ユナはマーケティング部、ボラムは会計部に所属しているが、高卒というだけで制服着用を義務付けられ、能力があるのに代替の利く仕事しか与えられない。ユナが会議で名案を出しても、正当な評価を得られずにいた。妊娠したら退職という不文律もある。30歳を前に、3人は夢を叶える道は閉ざされていた。
 
 韓国は97年、経済危機に陥り、国際通貨基金(IMF)の介入を許した。IMFによる支配を描いた映画「国家が破産する日」を別稿(19年11月17日)に紹介した。OECDに前年加入した韓国は、見かけの好景気と裏腹に新自由主義が蔓延し、中間層が崩壊する。先駆けといえる事態がサムジンでも進行していた。

 ジャヨン、ユナ、ボラムにとって転機になったのは滑稽なほどアメリカナイズされた新社長就任だ。彼女たちが英会話を学ぶのも<TOEI600点以上で代理に昇格>という新方針に則ったものだ。報われてはいないが精いっぱい仕事に励んでいる彼女たちは深刻な事態に直面する。工場廃液が周辺地域に健康被害を引き起こしていることをジャヨンが知ったのだ。

 本作に重なったのが連続ドラマW「誤断」(15年、堂場瞬一原作)で、製薬会社社員の主人公が自社工場による公害摘発に苦悩する内容だった。ジャヨンも上司に相談するが、適当にあしらわれ、内部告発者として左遷される。データ改竄と隠蔽を明らかにする過程で貢献したのが、数学コンテストで優勝した経験のあるボラムだった。

 スパイもどきの3人の捜索劇はコメディ-タッチでユーモラスだが、暴かれる真相はその後の日本とも無縁ではない。会社は誰のもの、社員同士の繋がりは、男女格差を打破する意味を本作は問いかける。成果主義に基づく人事考課制度が日本に導入されたのは1990年代だが、そもそも本家本元のアメリカは異常なコネ社会で、日本では〝目標〟で社員を奴隷にすることが目的だった。

 決死の覚悟で立ち上がったジャヨン、ユナ、ボラムは絆の回復を達成し、ハゲタカから会社を守る。演じた女優たちの個性とチャーミングさが本作の肝といえる。最新のジェンダー・ギャップ指数では韓国が102位、日本が120位と先進国とは思えない低評価だ。開催に至る過程で文化的に先進国と言い難いことを白日の下に晒したオリンピックが閉幕した。本日もまた新型コロナ感染者が4000人を超えた。
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