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酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

向き合い、寄り添うこと~映画「かば」が問いかけるもの

2021-08-12 22:48:54 | 映画、ドラマ
 映画、ドラマを問わず、教育をテーマに掲げる作品は多い。社会的不適応者で無数の失敗を重ねてきた俺など反面教師にしかなれないが、視点や背景によっては納得することもある。敗者の目から描かれた「引きこもり先生」(NHK総合、全5回)もそのひとつで、主人公の上嶋を佐藤二朗が熱演していた。

 38歳から11年間引きこもったという経歴に目を付けた中学校長(高橋克典)に依頼され、上嶋は不登校児のための「STEPクラス」非常勤講師に就任し、 クラス担任やソーシャルワーカーと手を携えて生徒たちと信頼関係を築いていく。<いじめはない>と公言する校長と軋轢が生じたが、上嶋は逃げずに闘う。コロナ禍も織り込み、教育の意味を問いかけていた。

 実在の中学教師、蒲益男を主人公に据えた「かば」(2021年、川本貴弘監督)に感銘を覚えた。公開後半月ほどなので、ストーリーの紹介は最低限に背景を中心に記したい。パイロット版を見た2万人が映画化を望み、クラウドファンディングで完成したインディーズ作品である。演出やシーンの繋ぎに粗さは感じたが、「ガキ帝国」を彷彿するエネルギ-に圧倒された。

 1985年、バブルの恩恵と無縁だった釜ケ崎周辺の中学校が舞台だ。釜ケ崎には人生の終着駅というイメージがある。〝伝説のストリッパー〟一条さゆりが行き着いたのも労働者の街の3畳間だった。〝放浪の末の哀れな最期〟などと評されたが、一面的な捉え方であることを本作は示している。

 映画「解放区」(太田信吾監督)のキャッチは<そのフェンスの向こうには〝楽園〟があった>……。通天閣と新世界に近い釜ケ崎は一種の駆け込み寺で、相互扶助の精神に溢れていることは漫画「じゃりん子チエ」(はるき悦巳作)や小説「通天閣」(西加奈子著)にも描かれている。

 「かば」では蒲(山中アラタ)を筆頭に小早川(牛丸亮)、岡本(木村知貴)、藤岡(石川雄也)ら生徒に寄り添う教師が揃っていた。ヒロインは臨時の体育教師として〝かばチーム〟に加わった加藤(折目真穂)で、彼女の成長がストーリーの軸だ。女性ということもあり悪ガキに相手にされず、ショックを受け寝込んでしまう。

 <この学校にはか在日か沖縄しかないんや! どれでもないよそ者は引っこんどれや>……。加藤にこう凄んだのは野球部主将のシゲだった。小早川は加藤に、「あいつらはあんたを試してるんや。野球で勝負したら」と言われる。腕に覚えがあった加藤は、シゲの投球にホームラン性の当たりを連発し、コーチに就任して人気者になる。

 転校してきた良太は「俺朝鮮ちゃうんや韓国や」と啖呵を切って野球部員たちと喧嘩をする。半島出身者が南北いずれにルーツを求めるかという問題に直面していたことが窺える。良太は野球部員たちを叩きのめしたが、登校しなくなった。<向き合う>が不文律の〝かばチーム〟キャプテン蒲はマッコリ持参で当人宅を訪れ、叔父の信頼を得る。蒲とバンド志望の良太との会話の軸はARBなど音楽だった。

 俺は本作で騒音寺と再会した。「初台ドアーズ」で8年前、頭脳警察とのジョイントライブで騒音寺を見た。演奏はソリッドで、MCで頭脳警察への敬意を繰り返し語っていたのを思い出す。川本はPVを制作するなど仲間である騒音寺に主題歌を依頼した。「ロング・ライン」は作品の熱さを見事に伝えている。

 良太とシゲら野球部員が友情を築く場面がハイライトの一つだ。加藤と裕子との交流にも心が揺れた。在日の父、日本人の母とは諍いが絶えず、裕子はSOSを発信していた。ラストはアップになった裕子の笑顔のストップモーションだった。〝かばチーム〟だけでなく、警官、居酒屋の店員、バス運転手らも人々への優しい気配りを示していた。

 「生徒に日々教えられている」と語る教師たちは誠実かつ謙虚だ。蒲とかつての教え子である由貴(近藤里奈)とのサイドストーリーにも、差別の痛みに溢れていた。男臭い「かば」を支えるのは多くの母たちだ。本作には母性の物語という側面がある。見るたびに発見があり、味が出てくる作品だと思う。
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