酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「テレビで会えない芸人」~松元ヒロの不戦の思いに熱くなる

2022-03-19 20:30:46 | 映画、ドラマ
 16日深夜の揺れで、〝地震大国日本〟を再認識させられた。前稿のタイトルは<想像力の糸で、ウクライナとフクシマが繋がった>だが、紡いだのは原発である。ロシア軍の侵攻で、原発が非常時にターゲットになることが明らかになった。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの天然ガス・パイプラインに固執するドイツを批判しているが、再生可能エネルギーにシフトするドイツは苦渋の選択を迫られている。一方で、原発推進を打ち出したフランスでは、関連企業が数千人の若手研究者を雇用する。フランスはオイルショックで原発に舵を切った。あれから半世紀、エネルギー問題が時代を説くキーワードになっている。

 14日、「ピーチスワン落語会~ホワイトデーNight~」(かめありリリオホール)に足を運んだ。三遊亭白鳥と桃月庵白酒の恒例の二人会で、両者の和やかなオープニングトークにもこれまでの蓄積が窺えた。白鳥「おばさん自衛官」→白酒「幾代餅」→仲入り→白酒「代書屋」→白鳥「メルヘンもう半分」の順で会は進行する。心の隙間をしっとり埋めてくれた。

 白鳥も白酒もテレビに出ない噺家だが、「テレビで会えない芸人」(2021年、四元良隆/牧祐樹共同監督)をポレポレ東中野で見た。鹿児島テレビが同県出身の松元ヒロを追ったドキュメンタリーである。ワンマンライブは見たことがないが、これまで接した松元について簡単に記したい。

 最初は第18回オルタナミーティング「神田香織 松元ヒロ 平成世直し二人会」(座・高円寺2)で、松元は「憲法くん」を演じた。2回目はポレポレ東中野で、鈴木邦男(一水会元最高顧問)の実像に迫った「愛国者に気をつけろ!」上映記念トークで、旧知の仲である鈴木と松元との掛け合いで、満員の会場は和やかな空気に包まれた。

 3回目は北とぴあで開催された護憲イベント(商社九条の会主催)で、前稿に登場した杉原浩司氏による講演「武器ビジネスが憲法を壊す」と「松元ヒロ爆笑ライブ」の2部構成だった。<武器爆買いなど何でもトランプの言いなりなのに、なぜ憲法だけ〝押し付け〟と言い張るのか>と訴えた。

 「テレビで――」の冒頭、松元は渋谷駅近くで困っていた盲目の女性を新宿までエスコートした。自然体の柔らかな言動に、らしさが滲んでいる。テレビに出ないから、周りも気付かない。俺より4歳上の〝普通の人〟に親近感を覚えてしまった。

 作品中に明かされた来し方には意外なほど華がある。高3時に高校駅伝で区間賞を取って法大に進むも、陸上は諦めてお笑いの道に入る。コミックバンド「笑パーティー」でダウンタウンらを退けて「お笑いスター誕生」で優勝し、その後された「ザ・ニュースペーパー」は一世を風靡した。政界批判が売りだが、忖度が求められるようになると、松元は同郷のすわ親治とともに脱退した。本作にはすわと旧交を温めるシーンがある。

 ソロで活動するようになった松元に目をかけたのが立川談志と永六輔だった。談志は<テレビに出ているやつらは局にクビにならないよう怯えている。おまえは本当の芸人>と松元を認めていた。永には「九条をよろしく」と託され、松元は「憲法くん」を全国で演じている。

 松元の芸はスタンドアップコメディーに分類されている。社会を風刺するコメディアンを指すケースが多く、ダスティン・ホフマンが演じたレニー・ブルースもそのひとりだ。松元の基礎はパントマイムで、チャプリンにインスパイアされたポーズを取って次々に毒を吐く。

 我が道を往く芸人といえば、気難しくプライドが妙に高くて扱いづらい……。そんなイメージが浮かびそうだが、松元は違う。上記したすわ、談志や永、高校時代の恩師や自身を世に出してくれた事務所社長に対し、松元は感謝を忘れない。パントマイマー時代に知り合った妻、高校教師の息子が松元の心の支えになっている。松元は当たり前の日常から飛翔した。

 ロシアのウクライナ侵攻で、軍需産業は好機を迎えている。ドイツとフランスは軍事費アップを発表し、安倍元首相は<核シェアリング>に言及した。こんな時機だからこそ、松元の「憲法くん」が必要だ。本作にも収録されていたが、松元は憲法前文を語る。たとえ現実は酷くとも、不戦という高邁な理想を掲げることの重要さを説くのだ。

 本作観賞後、松元の思いに感銘を覚えた。松元は年に120回、舞台に立つという。機会があればワンマンライブに足を運びたい。俺はテレビに依存する高齢者だが、今やネットをメインに活躍し、ビッグマネーを得ている芸人が多い。テレビ離れが若い世代の風潮だが、俺にはついていけそうもない。
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