『公民連携白書 2016~2017』より 国連「持続可能な開発目標」に見るコンパクト化の役割と欧州に見るヒント
持続可能な開発目標とは
2015年9月の国連総会で、2030年までの新しい開発アジェンダとして「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められた。SDGsは、17の目標とそれに関連した169のターゲットから構成される。2030年までに貧困を撲滅することをはじめ、包括的で幅広い目標が定められている。
SDGsの前身であるミレニアム開発目標(MDGs)などでは、発展途上国における貧困撲滅が主眼に置かれてきた。一方で、SDGsは、先進国を含む国際社会全体の開発目標となっており、それぞれの国が発展の段階に応じて取り組むとされる普遍性が最大の特徴である。
また、もう一つの特徴は、「パートナーシップ」への着目である。SDGsの序文には、持続可能な開発の重点分野として5つのP一人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、パートナーシップ(Partnership)--が掲げられ、ゴール17には、民間企業や市民社会を含む全てのステークホルダーとの「グローバルパートナーシップの活性化」が謳われている。
持続可能な開発目標とコンパクトシティ
持続可能な開発目標のゴール11は「包摂的、安全、強靭で、持続可能な都市と人間居住の構築」を掲げる。他のゴールがグローバルな目標であるのに対して、このゴールは「都市」という限られたエリア・規模を対象とした目標である。また、都市はさまざまな分野で縦割り的に定められた目標を結びつけ、分野横断的な解決を必要とする。
都市部は今後爆発的な人口増加を経験することが予見されている。 2014年の国連の調査によると、2014年時点で世界の人口の半分以上(54%)が都市部で生活をしているが、都市居住者は2050年までに25億人増加(2014年現在は39億人)し、割合も66%に達する。この急成長の大半は途上国、新興国で起こる。
ゴール11の中に定められたターゲットには、「適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスヘのアクセス」「持続可能な輸送システムヘのアクセス」「自然災害による被害の削減」「大気及び廃棄物管理など環境的悪影響の低減」「緑地や公共スペースヘの普遍的アクセス」などが含まれている。たとえば公共交通は移動の安全性を向上させるだけで無く、自家用車等からの置き換えによる大気汚染や化石燃料消費の抑制、女性、子ども、障害者など社会的弱者の教育や仕事へのアクセス向上など、SDGsが目指す複数分野の目標達成に貢献する要素を持つ。
公共交通の充実は、都市のコンパクト化、持続可能性向上の要である。 Burgess(2000)は、「実現可能な最も直接的な持続可能性の改善は公共輸送機関の燃料効率改善、規制と執行、環境に配慮した大量輸送システムの建設に関連している」とする。自動車への依存から脱却する公共交通指向型開発(TOD)などもコンパクトシティ実現の手段の一つと考えられている。SDGsで列挙されているゴール、ターゲットと、コンパクトシティ開発は、一見親和性が高い。コンパクトシティ政策の展開によって、都市の持続可能性の向上、持続可能な都市の形成が期待される。
しかし、Burgessは、途上国と先進国の都市の構造、特性、歴史的・文化的背景の違いから、先進国でのコンパクトシティ化の取り組み、コンセプトがそのまま途上国に適用できる訳では無いと指摘する。
現在の先進国の多くは、工業化の進展とともに都市人口比率の増加、モータリゼーションの進展、都市の拡大、環境の悪化を経験し、社会の成熟によって生活の質向上を求める人々の人口の郊外流出、第二次産業から第三次産業への転換による都市部の空洞化・低密度化という道を辿っている。そのため、コンパクトシティ政策は、都心居住などによる都心の高密度化と郊外開発の抑制、公共交通機関による自動車依存からの脱却と環境負荷低減、土地の複合利用などによる都市再生、規制・誘導による開発のコントロール等、都市の再生に主眼が置かれている。
一方で、途上国の問題は爆発的に伸びる都市人口の適切な吸収だ。多くの都市は既に過密で、(非公式セクターによる活動も含め)活動は集中し、土地の複合的利用が進んでおり、これ以上の高密度化、活動の集中はさらなる都市環境の悪化をもたらしかねない。インフラ投資は全般的に不足しており、現居住者の移転補償や需要リスクを伴う公共交通の整備は、地価の高騰や所得向上による自動車所有欲の高まりも相まって大きな困難を抱える。居住パターンも「貧しい都市中心部vs裕福な郊外」のような単純な図式ではなく、貧困層は職や住居を求めて農村から都市の中心へ、そして郊外へと広がっている。さらに、途上国の当局には計画、規制、ガバナンスの能力が十分ではなく、持続可能な都市開発、都市環境の改善、コンパクト化を進めるための大きな障害ともなる。
密度や土地利用だけを見れば既に「コンパクト」な性質を持ちながら、依然として発展段階にある途上国においては、コンパクトな都市形成だけを目指すのでは、急増する都市人口や悪化する過密な都市環境に追いつくことができず、持続可能な都市を形成することは難しい。
持続可能な開発目標における企業の役割
前述の通り、新しい開発目標の特徴は、先進国の役割に加えて、民間セクターの役割を明確に認識し、計画に位置づけたことである。
開発目標の17には、グローバル・パートナーシップの活性化が謳われている。「活性化されたグローバル・パートナーシップは、政府、市民社会、民間セクター、国連機関、そのほかの主体を集結させるとともに、あらゆる利用可能な資源を動員し、すべての目標とターゲットの実施を支援するための全世界の強い関与を促進する」とする。国連の開発目標において民間セクターの活動、取り組みとの連携が明確に位置づけられた。民間セクターについては、「民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性及び包括的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要なカギである。我々は、小企業から協同組合、多国籍企業までを包含する民間セクターの多楡匪を認める。我々は、こうした民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める」とされ、その役割、技術への高い期待が示されている。
民間セクターも、この期待に応えようと努力を始めている。 PwCが民間企業や市民を対象に行ったSDGsに関する意識調査によると、民間事業者の回答者のSDGsの認知度(92%)は、市民の認知度(33%)よりもけるかに高い。また、71%の企業がSDGsに関連した事業の計画作りなどに着手しており、90%が5年後にはSDGsの達成に向けた行動を取るという。SDGsは様々な業種にとって関係の深い分野が含まれており、回答した企業の3分の1は、少なくとも自社に関係がある目標については、自社の活動によるインパクトの評価を行っていくと回答している。また、回答した市民の78%が、SDGsに取り組んでいる企業の商品・サービスを購入する可能性が高いとした。
日本の企業(37社)だけを見ると、SDGsの認知度は非常に高いが(97.3%)、特に行動はとっていない割合(35.1%)が他の国々(20.8%)に比べ高かった。また、市民の認知度は低く、知らないまたはほとんど知らないと回答した割合が70%(他の国々では56%)に上った。また、SDGsによって事業機会がもたらされると期待している分野としては、「気候変動」「クリーン、エネルギー」が30%を超えている。「持続可能なまちづくり」についても、2割超が事業機会をもたらすと捉えている。
企業の意識が高まっても、政府が対応できなければ事業が進まない。途上国の政府に企画・立案の能力がない場合、民間事業者が自ら事業の構想を練り、提案をする方法もある。近年、アジアをはじめとする途上国・新興国では、アジア開発銀行や世界銀行などの支援を受けて各国政府がppp制度の整備、拡充を進めており、多くの国の制度では、非公募型提案(Unsolicited Proposal)を認める規定が盛り込まれている。国によっては、非公募型提案に対して、随意契約や政府による直接、間接の支援を認めている。
持続可能な開発目標とは
2015年9月の国連総会で、2030年までの新しい開発アジェンダとして「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められた。SDGsは、17の目標とそれに関連した169のターゲットから構成される。2030年までに貧困を撲滅することをはじめ、包括的で幅広い目標が定められている。
SDGsの前身であるミレニアム開発目標(MDGs)などでは、発展途上国における貧困撲滅が主眼に置かれてきた。一方で、SDGsは、先進国を含む国際社会全体の開発目標となっており、それぞれの国が発展の段階に応じて取り組むとされる普遍性が最大の特徴である。
また、もう一つの特徴は、「パートナーシップ」への着目である。SDGsの序文には、持続可能な開発の重点分野として5つのP一人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、パートナーシップ(Partnership)--が掲げられ、ゴール17には、民間企業や市民社会を含む全てのステークホルダーとの「グローバルパートナーシップの活性化」が謳われている。
持続可能な開発目標とコンパクトシティ
持続可能な開発目標のゴール11は「包摂的、安全、強靭で、持続可能な都市と人間居住の構築」を掲げる。他のゴールがグローバルな目標であるのに対して、このゴールは「都市」という限られたエリア・規模を対象とした目標である。また、都市はさまざまな分野で縦割り的に定められた目標を結びつけ、分野横断的な解決を必要とする。
都市部は今後爆発的な人口増加を経験することが予見されている。 2014年の国連の調査によると、2014年時点で世界の人口の半分以上(54%)が都市部で生活をしているが、都市居住者は2050年までに25億人増加(2014年現在は39億人)し、割合も66%に達する。この急成長の大半は途上国、新興国で起こる。
ゴール11の中に定められたターゲットには、「適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスヘのアクセス」「持続可能な輸送システムヘのアクセス」「自然災害による被害の削減」「大気及び廃棄物管理など環境的悪影響の低減」「緑地や公共スペースヘの普遍的アクセス」などが含まれている。たとえば公共交通は移動の安全性を向上させるだけで無く、自家用車等からの置き換えによる大気汚染や化石燃料消費の抑制、女性、子ども、障害者など社会的弱者の教育や仕事へのアクセス向上など、SDGsが目指す複数分野の目標達成に貢献する要素を持つ。
公共交通の充実は、都市のコンパクト化、持続可能性向上の要である。 Burgess(2000)は、「実現可能な最も直接的な持続可能性の改善は公共輸送機関の燃料効率改善、規制と執行、環境に配慮した大量輸送システムの建設に関連している」とする。自動車への依存から脱却する公共交通指向型開発(TOD)などもコンパクトシティ実現の手段の一つと考えられている。SDGsで列挙されているゴール、ターゲットと、コンパクトシティ開発は、一見親和性が高い。コンパクトシティ政策の展開によって、都市の持続可能性の向上、持続可能な都市の形成が期待される。
しかし、Burgessは、途上国と先進国の都市の構造、特性、歴史的・文化的背景の違いから、先進国でのコンパクトシティ化の取り組み、コンセプトがそのまま途上国に適用できる訳では無いと指摘する。
現在の先進国の多くは、工業化の進展とともに都市人口比率の増加、モータリゼーションの進展、都市の拡大、環境の悪化を経験し、社会の成熟によって生活の質向上を求める人々の人口の郊外流出、第二次産業から第三次産業への転換による都市部の空洞化・低密度化という道を辿っている。そのため、コンパクトシティ政策は、都心居住などによる都心の高密度化と郊外開発の抑制、公共交通機関による自動車依存からの脱却と環境負荷低減、土地の複合利用などによる都市再生、規制・誘導による開発のコントロール等、都市の再生に主眼が置かれている。
一方で、途上国の問題は爆発的に伸びる都市人口の適切な吸収だ。多くの都市は既に過密で、(非公式セクターによる活動も含め)活動は集中し、土地の複合的利用が進んでおり、これ以上の高密度化、活動の集中はさらなる都市環境の悪化をもたらしかねない。インフラ投資は全般的に不足しており、現居住者の移転補償や需要リスクを伴う公共交通の整備は、地価の高騰や所得向上による自動車所有欲の高まりも相まって大きな困難を抱える。居住パターンも「貧しい都市中心部vs裕福な郊外」のような単純な図式ではなく、貧困層は職や住居を求めて農村から都市の中心へ、そして郊外へと広がっている。さらに、途上国の当局には計画、規制、ガバナンスの能力が十分ではなく、持続可能な都市開発、都市環境の改善、コンパクト化を進めるための大きな障害ともなる。
密度や土地利用だけを見れば既に「コンパクト」な性質を持ちながら、依然として発展段階にある途上国においては、コンパクトな都市形成だけを目指すのでは、急増する都市人口や悪化する過密な都市環境に追いつくことができず、持続可能な都市を形成することは難しい。
持続可能な開発目標における企業の役割
前述の通り、新しい開発目標の特徴は、先進国の役割に加えて、民間セクターの役割を明確に認識し、計画に位置づけたことである。
開発目標の17には、グローバル・パートナーシップの活性化が謳われている。「活性化されたグローバル・パートナーシップは、政府、市民社会、民間セクター、国連機関、そのほかの主体を集結させるとともに、あらゆる利用可能な資源を動員し、すべての目標とターゲットの実施を支援するための全世界の強い関与を促進する」とする。国連の開発目標において民間セクターの活動、取り組みとの連携が明確に位置づけられた。民間セクターについては、「民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性及び包括的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要なカギである。我々は、小企業から協同組合、多国籍企業までを包含する民間セクターの多楡匪を認める。我々は、こうした民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める」とされ、その役割、技術への高い期待が示されている。
民間セクターも、この期待に応えようと努力を始めている。 PwCが民間企業や市民を対象に行ったSDGsに関する意識調査によると、民間事業者の回答者のSDGsの認知度(92%)は、市民の認知度(33%)よりもけるかに高い。また、71%の企業がSDGsに関連した事業の計画作りなどに着手しており、90%が5年後にはSDGsの達成に向けた行動を取るという。SDGsは様々な業種にとって関係の深い分野が含まれており、回答した企業の3分の1は、少なくとも自社に関係がある目標については、自社の活動によるインパクトの評価を行っていくと回答している。また、回答した市民の78%が、SDGsに取り組んでいる企業の商品・サービスを購入する可能性が高いとした。
日本の企業(37社)だけを見ると、SDGsの認知度は非常に高いが(97.3%)、特に行動はとっていない割合(35.1%)が他の国々(20.8%)に比べ高かった。また、市民の認知度は低く、知らないまたはほとんど知らないと回答した割合が70%(他の国々では56%)に上った。また、SDGsによって事業機会がもたらされると期待している分野としては、「気候変動」「クリーン、エネルギー」が30%を超えている。「持続可能なまちづくり」についても、2割超が事業機会をもたらすと捉えている。
企業の意識が高まっても、政府が対応できなければ事業が進まない。途上国の政府に企画・立案の能力がない場合、民間事業者が自ら事業の構想を練り、提案をする方法もある。近年、アジアをはじめとする途上国・新興国では、アジア開発銀行や世界銀行などの支援を受けて各国政府がppp制度の整備、拡充を進めており、多くの国の制度では、非公募型提案(Unsolicited Proposal)を認める規定が盛り込まれている。国によっては、非公募型提案に対して、随意契約や政府による直接、間接の支援を認めている。