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「地方創生」の視点から見た図書館と課題

『地方自治と図書館』より まちづくりを支える図書館 まちづくりへの図書館の効果 まちづくりを支える図書館の特徴

二〇四〇年にはわが国の自治体のおよそ半分が、若者の滅少などに起因して自治体としての機能を維持できなくなる。二〇一四年五月、日本創生会議がこんなショッキングなレポートを発表して以来、「消滅可能性」のある自治体だと名指しされた市町村は動揺の色を隠せず、浮足立った。

これを受けた安倍政権は、その年の秋から「地方創生」を最重要政策の一つに掲げ、財政面を中心に自治体を支援することとした。そのねらいは、もっぱら地域経済を活性化することと地方の人口減少に歯止めをかけること、とりわけ若い人たちの域外への流出を減らすことにある。

全国ほぼすべての自治体は、政府から促されて、自分たちの地域の将来像を盛り込んだ「総合戦略」を作成した。その戦略に基づいて様々な事業が展開されているところだが、果たして全国を総動員したこの壮大な取り組みによって地域経済を活性化し、人口減少に歯止めをかけるという所期の目的を達成することになるのかどうか。

地方自治や地域振興に長年かかわってきた筆者の現時点での感想を率直に言えば、関係者には大変失礼な物言いになるが、今のままでは「地方創生」はさしたる成果をもたらさないまま終焉を迎えることになる可能性が高いと踏んでいる。そう考える理由は、国の側にも地方の側にも見出せる。

国の側のことで言えば、過去の地方施策の点検をしていないことをまず指摘しておかねばならない。というのは、地域経済が停滞し多くの若者が大都市圏に流出する現象は決して今に始まったことではない。また、それに対して国も自治体も損手傍観、何もしてこなかったわけではない。地域活性化対策、過疎対策などあれこれ施策を講じ、膨大な財政資金を投入してきたあげくが今日の地方の窮状なのである。

それならば、このたびの「地方創生」を始めるに当たってまずやるべきは。、過去の同種の施策の点検であるはずだ。地域活性化対策などのこれまでの施策には何か足らなかったのか、欠けていたものは何か、この際よく点検してみる必要があると思うが、どうやら政府にはそんな点検をした形跡はなさそうである。

「地方創生」がうまくいかないだろうと予測する理由は、地方側にもある。筆者が強く懸念しているのは、地域経済の衰退や雇用不足の主たる要因を、当の自治体が必ずしも的確に把握していないと思われることである。そのことの結果、地域の現在及び将来のことを、自治体自身がいい意味で「地域本意」に考えることが妨げられているように思われるのである。

地域経済の力が弱まる原因や背景は、もとより地域によって異なる面がある。ただ、多くの地域に共通すると思われる要因もある。その一つが、地域から外部に向けてお金が流出し続けている状況である。もちろんどの地域でも域外に売る物があり、それによってお金が外から入ってくる。しかし、その一方で域外から買うものが多ければ、差し引きではお金が外に出ていくことになる。

例えば、佐賀県武雄市では、指定管理者制度を通じて、図書館の運営を書籍の流通業に携わる域外の大都市の民間事業者に委ねることとした。その事業者によって運営される図書館は、従来の図書館のイメージとは大きく異なっている。館内ではその事業者自身が本を売っているし、アメリカの有名なコーヒー店も営業している。

この点については、図書館を利用する市民は図書館で本を借りられるし、買うこともできる。この面でいわばワンストップサービスを享受できるので、市民の利便性が向上したとの評価がないわけではない。

ただ、地域の経済などの観点からは別の見方もできる。市内にはもともと書店があって、昨今の本離れの傾向が強い中では経営は決して楽ではないはずだ。そんな環境の中で、市役所が図書館を改造し、域外から誘致した「商売敵」にそこで営業させるのだから、既存の書店はたまったものではない。自分のところも市に税金を納めているというのに、この仕打ちはあまりにもひどすぎるともし筆者がその書店の経営者であったら強く憤ると思う。

また、公立図書館は本来なら書籍は地元の書店を通して購入するのが望ましい。例えば、鳥取県立図書館では毎年度およそ一億円の予算で書籍や資料を購入しているが、そのほとんどは地元の書店を通じてである。

それは単に県内の書店の売り上げを増やすために買い取っているのではない。いくっかの書店から、県立図書館として保存するにふさわしい本を提示してもらい、それらを参考に司書と書店とが協議しながら購入する本を決め、それを提案した書店から購入する仕組みを採っている。いわば、司書と県内の書店とがそれぞれの知見を出し合って選書を行い、県立図書館の質の向上を図っている。そうした両者の切磋琢磨が、結果として県内書店を支えることにもつながっているのである。

話を武雄市の図書館に戻すと、図書館の管理運営を委ねられた指定管理業者はもともと書籍の流通業に携わっているので、市立図書館が購入する本は自前の流通システムを通じて導入できる。地元の書店を通すようなまどろっこしい作業は不要だろうから、この面でも地元の書店は埓外に置かれる。地元書店にとっては、市が図書館に「商売敵」を呼び入れたことと併せて、手痛いダブルパンチを食らわされたことになる。

市の図書館政策を地域経済の面から点検すると、地元書店の事業機会を縮退させ、代わりに域外の事業者に優越的にビジネスチャンスを与え、その収益を地元から域外に流出させることに寄与していると言える。地域経済が元気を失っている地域においては、どうにかしてお金を域外に流出させないことに意を用いるのが合理的だとする先はどの考え方とは全く逆の結果をもたらすことになっている。

民間の力を活用して図書館にたくさんの人を呼び込み、賑わいの空間を創出する。そこに入っているアメリカのコーヒー店はことのほか若者に人気がある。市の政策にはそれなりの狙いや言い分はあるのだろう。そのことを敢えて否定するつもりはない。ただ、自治体が公費を使って地元の事業者を疲弊させるような政策が本当にいいことかどうか、少なくとも「地方創生」の観点からは首を傾げざるを得ない。
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