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OCR化した9冊

『富国と強兵』

 平和の経済的帰結
  ワシントン・コンセンサス体制
  なぜ新自由主義は勝利し得たのか
  新自由主義の復活と地政学
  アメリカの地政経済学的金融戦略
  金融化による資本主義の変質
  グローバリゼーションの帰結
  二一世紀の富国と強兵

『会議の9割はムダ』

 世界のトップ企業の実情
  世界の優良企業の会議とは
  グローバルITコンサルの会議
  グローバルIT企業の会議
  インド企業の会議
  中国企業の会議
  中国共産党の会議
  ロンドン・シティ・ギルド協会の会議
  ベル研究所の研究開発会議
  北欧企業の会議
  フランスの会議
  民主主義制度下の会議
  韓国の会議
  エンジニアリング企業の会議
  日本のQCサークルの会議

『高校生からわかる社会科学の基礎知識』

 社会主義の性質から見える
  資本主義の優位性
   資本主義の成立
   資本主義の根本的な克服
   体制と労働意欲
   計画経済と市場経済の違い
   事後修正システムの限界と景気循環
   自由な経済活動が抱える矛盾
   経済体制と社会の変化
  資本主義の限界?
   資本主義とイノベーション
   経済成長を鈍らせる懸念材料
   経済成長の余地
   第三次産業がもたらす可能性
   企業救済の是非

『現代日本の地域格差』

 現代日本社会論ノート
  高度にあるいは過度に発達した資本主義
  「豊かな社会」における集団の劣化
  繁栄と格差の拡大
  情報化社会における集団の変貌
  転換期と展望

『江戸の風俗事典』

 犯罪と刑罰
  犯罪と刑罰
  窃盗の罪
  強盗の罪
  追剥・追落の罪
  詐欺の罪
  無銭飲食
  恐喝の罪
  横領の罪
  殺人の罪
  傷害・暴行の罪
  失火・放火の罪
  刑罰のこと
  密通・姦通の罪

『フランス史【中世】Ⅱ』

 十字軍の開始(一〇九五~一○九九年)

『この1冊でわかる世界経済の新常識2017』

 シェール革命とエネルギー価格下落のインパクト
  シェール革命ブームが仇に
  エネルギー価格低下によるプラス面
  原油価格安定でシェール革命に再度脚光

 大統領選で浮き彫りになった国民の不満
  異例ずくめの大統領選挙
  トランプ新大統領は現実路線に転換するか

 移民急増問題に揺れる北ヨーロッパ
  中東やアフリカからの難民が急増
  前向きだった国々でもEUの難民政策への反発高まる

 EUの厳格な財政規律に反発する南ヨーロッパ
  ユーロ圏債務危機が残した深い爪痕
  深まる南北の対立

 独自路線を模索する東ヨーロッパ
  結束する東ヨーロッパ
  リーダーはハンガリーとポーランド

 EUに未来はあるか
  低成長で求心力が低下
  17年に重要な選挙が目白押し

 景気小康でロシアの強面は緩むか
  「資源依存なのに内需主導型」のからくり
  アップダウンが大きいロシア経済
  強面を維持する必然性薄まる

 少子化の要因と高齢化問題の進行
  「希望出生率1・8」を実現するには
  未婚率の上昇
  夫婦間の子供数の減少
  ニッポン一億総活躍プランとエンゼルプランの比較
  少子化と同時に高齢化が進行

『暴露の世紀』

 「暴露の世紀」とは何か

 1.大統領弾劾の引き金を引いた暴露
  ビル・クリントンのスキャンダル
  米大統領選を揺るがすサイバー攻撃

 2.カミングアウト=自己暴露の時代
  個人情報をさらけ出す現代人
  ITは自己暴露装置

 3.「正義」のための暴露
  「つながりの世紀」の負の側面
  自由と安全のジレンマ
  暴露の世紀を生き抜くために

『新国富論』

 地方創生の持続可能性--新国富における健康資本の活性化

 地方創生と健康資本
 地方-都市の経済成長と持続可能性
 人口減少下における持続可能性
 健康資本の価値
 重要業績評価指標(KPI)と新国富指標
 地方創生の持続可能性条件
 地方創生への課題
 補論--健康資本のシャドウ・プライスの仕組み
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未唯宇宙目次 9.環境社会 9.1~9.4

9,1 環境問題

 人口問題

  少子高齢化
   ①課題は何か
   ②個人と国家
   ③少子化問題
   ④高齢化問題

  社会格差
   ①自由と平等
   ②地域格差
   ③社会保障
   ④資本主義の限界

  多くの人がいる
   ①多いことが問題か
   ②所与の社会
   ③個人の能力
   ④幸せに生きる

  コンパクト
   ①共有意識
   ②凝集生活
   ③生活を変える
   ④生きる目的

 エネルギー問題

  原因と結果
   ①CO2増加で温暖化
   ②温暖化でCO2増加
   ③環境問題の本質
   ④有限であること

  自然エネルギー
   ①新たな課題
   ②クリーン
   ③食糧問題に転化
   ④暮らし方の問題

  資源の枯渇
   ①消費という意識
   ②レアメタル戦略
   ③都市鉱山
   ④お互い様の世界

  国の方針
   ①ドイツは石炭
   ②日本は原発固執
   ③EU指令
   ④米国はシェール

 循環しない

  廃棄物処理
   ①埋めるか、燃やす
   ②後進国に回す
   ③産廃業者の飯のタネ
   ④消費者は捨てる

  リサイクル
   ①循環していない
   ②分別は無意味
   ③シェア発想
   ④発生源に戻す

  静脈から心臓
   ①末端は消費者
   ②消費者からメーカー
   ③廃棄物の根絶
   ④生活者から循環

  高齢者処理
   ①老人を処理
   ②死んでいくだけ
   ③人生の静脈系
   ④循環するもの

 集中から分散

  原発は集中
   ①集中して分配
   ②リスクより効率
   ③政府は思考停止
   ④政府責任で稼働

  集中と分散
   ①集中は非効率
   ②向かう道
   ③生活は分散
   ④シェールは環境破壊

  地産地消
   ①地域で選択
   ②生活者に対応
   ③効率的な分散
   ④生活とエネルギー

  自律分散
   ①スマートセンサー
   ②コミュニティ
   ③融合
   ④シェアでコスト減
9,2 多様化

 国民国家

  自由と平等
   ①自由を保証
   ②多様な国民
   ③平等の脆弱性
   ④国民に均一要求

  国に依存
   ①与えられた独立
   ②民族幻想
   ③国民の統一感
   ④考えない態勢

  集中して分配
   ①集中は非効率
   ②分配は限界
   ③社会保障
   ④国は企業に依存

  地域は多様
   ①地域の自主性
   ②地域は自律分散
   ③複合的な国家
   ④新しい国つくり

 地域の活性化

  地方自治
   ①フライブルグ
   ②参加型コミューン
   ③公共図書館が先行
   ④重点項目を決定

  地域の活動
   ①ハメンリンナ
   ②環境学習設備
   ③エネルギー戦略
   ④丁度いい大きさ

  共有意識
   ①互いを知る
   ②私対私たち
   ③チームで分化
   ④地域インフラ

  変革の実験
   ①ゲームから活動
   ②公民学連携
   ③格差を克服
   ④コンパクトな施策

 市民の覚醒

  自ら求める
   ①分配の限界
   ②ガバナンス
   ③市民生活の破綻
   ④多様な動き

  市民の分化
   ①情報共有で多様化
   ②変革の伝播
   ③国民国家から離脱
   ④周縁から変化

  コミュニティ
   ①NPO再生
   ②新しい行政と協働
   ③人的資源を集中
   ④グリーン雇用

  多様な活動
   ①自律分散
   ②高度サービス
   ③マーケティング
   ④行政の開放

 市民から変わる

  全体を考える
   ①内なる世界
   ②全体を知る努力
   ③意見を述べる
   ④議論する環境

  先を見る
   ①役割を認識
   ②将来の姿を想定
   ③今やること
   ④ICTの活用

  政治に提案
   ①政治はサービス
   ②政策を抽出
   ③新しい常識
   ④社会の革新

  配置する
   ①チーム集合型
   ②配置と循環
   ③多様な意見
   ④複合政策を提案

9,3 グローバル化

 国を超える

  国境の意味
   ①移民の存在
   ②国境なきムスリム
   ③国民国家とEU
   ④アフリカの参画

  超国家と市民
   ①超国家で統合
   ②国は個別最適
   ③市民は自由と平等
   ④市民の覚醒が前提

  ポスト・アメリカ
   ①アメリカの時代
   ②新帝国主義
   ③超国家に移行
   ④国民は米国中心

  新経済理論
   ①グーグル・アマゾン
   ②ニューエコノミー
   ③地政学の限界
   ④北欧の実験国家

 ローカル日本

  経緯
   ①追いつき、追い越せ
   ②工業立国
   ③ローカル意識
   ④最後までローカル

  状況
   ①集団的浅慮
   ②ガラパコス
   ③企業任せ
   ④武器は平和なの

  EUは先行
   ①価値観の異なる国
   ②EU指令
   ③人口減少に移民
   ④女性の活用

  各国状況
   ①北欧は地域自立
   ②ロシアはエネルギー
   ③南欧はEU敵視
   ④東欧は民族問題

 選択肢

  考えていない
   ①思考停止状態
   ②共有意識の喪失
   ③国民の依存体質
   ④変化しないリスク

  このまま
   ①意思決定できない
   ②憲法改正で原爆所有
   ③少子高齢化が加速
   ④モノつくりの幻想

  アジアと共に
   ①適正な意思決定
   ②日本海同盟
   ③アジアを共有
   ④日中韓が核

  世界の盟主
   ①クルマ社会で実験
   ②環境社会を実現
   ③コミュニティ立国
   ④社会モデルを提示

 世界の情勢

  国家連合
   ①世界政府はムリ
   ②国を価値観でつなぐ
   ③独立性は維持
   ④超国家の役割

  EU・地中海
   ①EUは独仏中心
   ②中欧・東欧は対露
   ③トルコ中心の地中海
   ④ロシア中心の北極海

  インド洋・シナ海
   ①印・インドネシア
   ②アフリカは観光資源
   ③イスラエルは単独
   ④中国は分裂、再集結

  アメリカ大陸
   ①米国は大陸限定
   ②中米は米国に付随
   ③カリブはキューバ流
   ④ブラジルは独自
9,4 サファイア循環

 配置で循環

  地域から循環
   ①クライシス
   ②値域主体
   ③地域に希望
   ④内部から配置

  外部エネルギー
   ①国を超える働き掛け
   ②経済圏の統合
   ③大きな変化
   ④アジアと共存

  エントロピー
   ①根源から治癒
   ②エネルギー対応
   ③超国家に働きかけ
   ④地域コミュニティ

  循環へのキッカケ
   ①少子高齢化
   ②経済成長低下
   ③危機意識
   ④限界のアピール

 内なる思考

  生活者主体
   ①消費者から離脱
   ②ライフスタイル
   ③思考で行動を規定
   ④パラダイム変革

  多様な知恵
   ①環境意識
   ②様々な興味
   ③地域に適応
   ④地域政策を展開

  核となるもの
   ①ガバナンス
   ②町つくり
   ③市民協働
   ④公共空間

  コンパクトに
   ①行政依存から脱却
   ②地域インフラ
   ③交通体系の再生
   ④市民主体

 内なる行動

  内部エネルギー
   ①ソフト活用技術
   ②女性中心の経済
   ③技術のソフト化
   ④グーグル戦略

  高度サービス
   ①六次産業
   ②容易なインフラ
   ③寄り添うサービス
   ④周縁から中核

  配置から近傍
   ①地域インフラ
   ②企業の地域展開
   ③インフラ共有
   ④新しい公共

  思考をカタチに
   ①行動する場
   ②人工知能の活用
   ③スマートグリッド
   ④エンパワーメント

 全体企画

  配置構造
   ①市場バランスは破綻
   ②新自由主義の制御
   ③欲求と支援
   ④配置に転換

  分配から循環
   ①一律分配は不可能
   ②分配負担の限界
   ③端と先端をつなぐ
   ④先を見て、考える

  市民を配置
   ①やる気と希望
   ②民主主義を超える
   ③覚醒が前提
   ④内から外へ伝播

  市民を強くする
   ①先人の夢を実現
   ②知識と意識を拡大
   ③市民の思い
   ④絆という強みと弱み
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疎外感から独我論に移行

サファイア循環

 第9章のメインはサファイア循環です。これは何を意味しているのか。

 サファイアは販売店システムのネットワークを構築する時に作られた概念です。何という名前にしようかと迷った時に、パートナーの誕生石を聞いた時に、9月生まれのサファイアであったことから命名した。サファイアという名前ができてから、後に解釈を考えた。

 サファイアを分解して、サ:サスティナブル(持続可能性)、ファ:ファシリテーション(支援する)、イ:インタープリター(提案する)の三つを入れたかった。最後のアが思いつかなかった。当時の室長の正月休みの宿題にした。

 正月明けに出てきたのは、国際的な展開を考えて、カタカナから英語表記にする。その歳に宝石のサファイアは難しい綴りなので、Sa-fireの造語にする。発音は一緒とのこと。S、f、iは同じで、r:リアライゼーション(創り出す)、e:エンパワーメント(勇気づける)と当て込んだ。持続可能性を保証する4つのキータームが揃った。偶然とは思えなかった。

循環が何を意味しているのか。

 元々はLocalとGlobal、ThinkとActはEUの方針であるTGAL={Think Globally, Act Locally}を因数分解して得たモノです。

 それから、組み合わせた4つの空間を作り出し、それらを循環させた。その間に4つのファンクションを規定した。その一つのインタープリターが当てはまったのには、ビックリした。

 local ActからGlobal Thinkに行く機能がインタープリテーションです。それはEUのTGALの逆方向のALTGであった。これによって、4つの空間の間に循環ができると同時に、EUの方針の限界も見えてきた。

配置に循環を加わった

 頭の中心には、配置の考えがあった。これはトポロジーから出てきたモノです。デカルトのように座標から始まるのではなく、点から始まる世界です。

 「次元の呪い」から脱却するために、トポロジーができたように、ハイアラキーから配置の世界に移行させることを考えている。それらの全体図として、サファイアを規定します。個々の点が生きて、全体を生成する概念です。

 併せて、機能も作り上げた。サファイアネットワーク上に、ポータルとコラボレーションをシステム化して、サファイアシリーズとしました。

疎外感から独我論に移行

 同時に、その時点で阻害を感じました。自分が考えているレベルと皆がやっているモノがあまりにも違っていた。全く、全体像が理解されていない。分かったのは、皆が自分のことしか考えていないということ。これは名古屋全体に言えることだった。

 独我論に向かったのも、その感覚からです。どう考えても、この結論になるのに! 自分の枠から出てこない連中とは一緒に行けない。先に行くしかない。先に行って、自分にとって、明確な答を見つけ出そう。それは自分の答であって、皆の答は皆が考えればいい。その時点では取り返しが付かないでしょうけど。

リサイクルは循環していない

 第9章のテーマは循環していない社会を示すことです。だから、サファイアがメインテーマになっている。これは環境問題の一番最初に出てきます。廃棄物とかリサイクルという言葉を使っているけど、循環しさせるつもりもないみたいです。ていない社会です。

 循環というのは、一番下から一番上に上げることが必要です。上から下へは勝手に移動します。

 モノの流れでいうと、末端ユーザーからメーカーの企画に上げることが出来て始めて、循環します。一つ前の行程に戻すのはフィードバックです。フィードバックでは原因に届かない。結果が原因になってしまう。そこに、サファイアが生まれたことの意味があります。

OCR化した本の感想

 『この1冊でわかる世界経済の新常識2017』

  シェール革命がエネルギー価格下落のインパクトを引き起こした。どう見てもロシアを狙って行なった。その結果はプーチンの延命と中近東への侵出を招いた。

  大統領選で浮き彫りになった国民の不満がポピュリズムを招きつつある。自国の権利だけを見ることは国家では許されるかもしれないが、超国家では不可能。どういう結果になるかは今年中に判明する。その時点では遡ることはできないでしょう。

  ヨーロッパは様々な様相を示している。移民急増問題に揺れる北ヨーロッパ、EUの厳格な財政規律に反発する南ヨーロッパ、独自路線を模索する東ヨーロッパ、独仏が主導するEUに未来はあるか。何かつながっていますね。

 『暴露の世紀』

  暴露に対する正義。全体を考え、先を見て時の判断を優先したい。権力に甘えは許されない。配置されたモノがつながる世界を見てみたい。

 『新国富論』 これが都市と地方の役割分担? 何をなすのか?

  高齢者の地方移住を第一の目標とする方が地方創生に利するとする見方がある。地方の地代の安さにより、高齢者医療や介護サービスに関連するヘルスケア産業は地方が比較優位を持つ産業であると言われる。高齢者の地方への移住が進めば、ヘルスケア産業の需要者が増えるために、その需要を補うように働き手である若者への雇用が増加する。また、その賃金も増加する効果があるだろう。このような地方への高齢者移住は、ヘルスケア産業の活性化を通じて若者の移住誘因ともなりえることから、地方の人口を増加させる点、経済発展の観点からも地方創生の有効な手立てとして考えられている。
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地方創生の持続可能性

『新国富論』より 地方創生の持続可能性--新国富における健康資本の活性化

地方創生の持続可能性条件

 地方創生に向けて、出生率の改善を見越して若者の東京から地方への移住を促進する政策が始められている。しかし、若者が地方に移住したところで雇用機会が限られており、当初の目論見が達成される可能性は低い。つまり、地方移住への誘因がないことが問題なのである。一方で、八田(二〇一五)が指摘するように、高齢者の地方移住を第一の目標とする方が地方創生に利するとする見方がある。地方の地代の安さにより、高齢者医療や介護サービスに関連するヘルスケア産業は地方が比較優位を持つ産業であると言われる。少し詳しく説明すれば、ヘルスケア産業では介護・医療施設が必要であり、また高齢者の移住には当然、住居の取得が必要であり、土地が安いことがヘルスケア産業の生産性の高さに繋がるのである。さらに、高齢者の地方への移住が進めば、ヘルスケア産業の需要者が増えるために、その需要を補うように働き手である若者への雇用が増加する。また、その賃金も増加する効果があるだろう。このような地方への高齢者移住は、ヘルスケア産業の活性化を通じて若者の移住誘因ともなりえることから、地方の人口を増加させる点、経済発展の観点からも地方創生の有効な手立てとして考えられている。では、経済発展だけではなく、その持続可能性はこの政策で向上するのだろうか。

 新国富論の枠組みで、高齢者の地方への移住が新国富指標に与える影響と、それが持続可能となる条件を検討してみたい。地方の人口が増加するだけで、確かに人的資本の総額は増加するが、高齢者層が増大することで、平均的な一人当たりの健康資本ストックは低下するだろう。また、ヘルスケア産業の発展とともに若者の移住も同時に進んだとしても、高齢者と若者が等しく増加し、人口構成上で若年層の割合が増加しないのであれば、同じことである。そのため、一人当たりの健康資本額自体は現状から改善されるわけではない。ただし、ヘルスケア産業の発展により、長生きすることによる生産性の向上(健康資本のシャドウ・プライスの増加)が予測される。そのため、健康資本ストックの減少に対して、それを補うようにシャドウ・プライスを増加できれば、一人当たりの健康資本額も増加するだろう。

 新国富指標を用いた持続可能性の判定では、健康資本だけでなく、その他の資本の増減も合わせた包括的な成長率が用いられる。そのため、仮に健康資本額が増加しなくても、他にも人工資本、自然資本への影響を合わせて一人当たりの新国富指標ヘプラスの影響が出ればいいのである。そこで、人工資本と自然資本への影響を検討してみよう。地方に移住した高齢者のための病院や介護施設などの医療設備、住宅への投資により、それらの資本を内包する人工資本は増加する(ただし、それは中央政府などの地域外からの投資があった場合であり、地域内の財源で投資する場合、要は自治体自身で負担するときは、他の資本を現金化して、それを投資することになるため増加しないだろう。これは重要な問題であり、次項で検討するが、ここでは国が投資すると考えて読み進めてもらいたい)。一方で、その人工資本の増加に伴い、森林や農地の減少が起きるのであれば、その自然資本の減耗も発生するだろう。たとえば、人口増加率以上に人工資本が増加するように大きな投資を行い、また遊休地を有効利用するのであれば、人工資本と自然資本へのこの政策の影響はプラスとなるだろう。このように、新国富論の枠組みを用いることで、ヘルスケア産業の発展と、福祉施設向けの遊休地の有効利用を合わせて行うことが持続可能性の条件になることが統合的に理解できるのである。

地方創生への課題

 前述の地方創生に向けた高齢者の地方移住の持続可能性を担保する上で障害になりそうなのは、人工資本への大きな投資であり、その財源を地方が確保しなければいけない点である。現状、地方自治体が高齢者施設整備計画に合わせて積極的に医療設備を建設しているわけではない。その要因は、医療設備設置後の医療費負担が自治体に課せられていることにある。特に高齢者が加入する国民健康保険においては、自治体が医療費の七割を負担し、さらに低所得の75歳以上の高齢者に対しては九割を負担することになっている。このように自治体負担が増えるにもかかわらず、高齢者から見込まれる税収は限りがあるため、地方自治体は及び腰になるのである。この現状を打破するための制度修正として、財源を国保加入者数に応じて国が確保し、その額を超える分については自治体負担にするという「モデル給付型」国庫負担制度などが提案されている(詳しくは八田(二〇一五)、鈴木(二〇一五)を参照のこと)。この制度化では、高齢者の多い自治体の財務状態を改善させるほかにも、過剰な病床を確保している地方の適正化が見込めるなど、制度として優れているように思われる。制度の実際のあるべき姿に関しては本書の射程を超えるため立ち入らないが、このような抜本的な医療制度改革は地方創生の持続可能性の面でも重要であろう。

 他方で、このような制度改革には時間がかかることを考えれば、現状の人口構成と人口移動傾向が継続するとして、健康資本ストックを増加させる施策も必要であろう。その一つの方策として、人工知能の有用性を最後に指摘したい。ドローンが在宅介護や僻地への救急医療への手段として提案されているが、高齢者介護として利用されることで余命の延長効果が期待される。また、待機児童問題への対応にも同様に利用可能であり、物理的な児童向け施設の代わりに人工知能が活用されることで、出生率の向上が見込まれ、健康資本ストックが改善するだろう(平成二七年度版情報通信白書を見ると子育て支援ロボットには抵抗を感じる人が多いが、選択制ではどうだろうか)。もちろん、このような人工知能の開発への研究投資は国負担で行われるべきであり、また時間もかかるだろう。しかし、医療制度の整備に合わせて、人工知能の医療、介護、育児分野への応用も複合的に行っていくことが、地方創生のために重要なのである。
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「正義」のための暴露

『暴露の世紀』より 「暴露の世紀」とは何か

「つながりの世紀」の負の側面

 自らの電子メール問題で苦しめられたヒラリー・クリントンだが、国務長官を辞した後に出版した回顧録『困難な選択』ではインターネットを高く評価している。特に、長官在任中に起きたアラブの春に注目している。インターネット、わけてもソーシャルメディアのおかげで、市民や地域の組織は従来になかったほど、情報に触れ、声を上げることができるようになった。アラブの春で目にしたように、いまや独裁政権ですら市民の感情には留意しなければならなくなった。

 彼女のスタッフのひとりで、ヒラリー在任時に国務省の政策企画本部長を務めたアンーマリー・スローターは、「つながる者だけが生き残るだろう」と述べている。現代においてパワーを測る尺度は「接続性」に他ならず、その点で米国は明白かつ持続可能な競争力を持つ。戦争、外交、ビジネス、メディア、社会、宗教までもネットワーク化されているからである。しかしながら、本書の冒頭でも述べた通り、トランプ陣営に比してクリントン陣営は「つながり」を使い切れず、大統領選で敗れてしまった。

 つながらなければ生きられないとしたら、つながった世界でより良く生きる方法を考えるべきだろう。「暴露の世紀」は「つながりの世紀」でもある。つながったITはさまざまな情報を交換し、共有し、そしてネットワークの隅々まで情報を届ける能力がある。デジタル化された情報は複製しやすく、保存の場所もとらない。バラバラのパケットにしてネットワークに放り投げれば、到着したところでまた元の姿に戻る。

 この強力なツールを正義のために使う人たちが出てくるのは当然である。無論、正義はいろいろなところにあり、立場によって異なる。自己保身を優先させる人もいれば、組織を守ろうとする人も、国の大義に賭ける人もいるだろう。宗教的な信条に身を捧げる人もいれば家族を最優先にする人もいる。あるいは仕事に生きる人もいるだろう。それぞれの人にとって、その時々の正義は変わる。その正義のためにITが使われ、情報が暴露される。

 相手をおとしめるため、誰かの評判を傷つけるため、不正を暴くため、あるいは、本来の自分を取り戻すために計画的・意図的に情報は暴露される。あるいは、ミスや無意識の操作によって偶発的・事故的に暴露されることもある。あるいは敵のシステムを破壊したり、自分が優位に立ったりするために攻撃的・強奪的に暴露されることもある。いろいろなレペルで、多様なサイバーテロリズムが行われるようになるだろう。

 情報は権力の源泉である。知ることで自らの行動、相手の行動を変えることができる。暴露の脅迫は相手の選択を強制することができるだろう。あるいは、いつか暴露されるかもしれないという恐れは自らを律するということにもつながるかもしれない。

 ITは暴露を容易にしている。匿名で大量のデータを暴露できるようになったことで、我々の社会は変わり始めている。ますます秘密を隠しておくことが難しくなりつつある。それは、いずれは透明性の高い社会の形成へと貢献するかもしれない。しかし、それに至るまでの間にさまざまな暴露が行われる過程が続くことだろう。

 何よりも、人は秘密が好きである。そして、秘密を漏らすことも好きである。多くの人が秘密を守りきれない。噂はあっという間に駆け巡る。

自由と安全のジレンマ

 単なる噂話なら、人々の倫理の問題といえるかもしれない。しかし、国家安全保障の問題となると、ジレンマは深刻になる。

 国家安全保障に関わる問題が何もない世界ならば、プライバシーも自由も最大限尊重されるべきである。ところが、現代の世界はますます不安定で、危険に満ちあふれるようになっている。無論、冷戦時代には一触即発の核戦争の危機があった。その冷戦が終わった後、我々はつかの間の紛争の少ない時間を過ごした。しかし、それは遠い過去になりつつある。各地でテロ、内戦、国際紛争が続いている。東西両陣営が大きく対峙する世界ではなく、終わりの見えない争いが続き、サイバー戦争という新しい次元が加わりつつある。

 まだサイバー攻撃は人を殺していない。しかし、潜在的には可能であり、やり方次第では重要インフラストラクチャを破壊したり、環境を汚染したり、国家間の対立をあおったりすることも可能だろう。

 ますますコミュニケーションがデジタル化され、ネットワークを通るようになるにつれ、安全保障に関わる情報もそれを通るようになっている。テロリストたちはインターネットと携帯電話を駆使している。それが追跡されることを理解しながらも、それなしでは計画し、実行することはできない。

 安全という高価なサービスを提供しなければならない政府は、失敗すれば高い代償を払うことになる。なんとしても被害を出さないようにしようとすれば、必然的にネットワークの中に目と耳を持たなくてはならなくなる。ネットワークを悪用し、他者に危害を加えようとする者だけを簡単に選び出すことができれば良い。しかし、彼らは一般の人々の中に紛れ込んでいる。いつ、どこで姿を現すのか分からない。したがって、政府の目と耳は、結果的に無事の人々にも向けられることになる。

 誰もが目前に危機があれば、プライバシーを求めないだろう。戦場ではひとりで放っておかれるよりも仲間とともにいたいだろう。しかし、一見すると平時に見えるときに、人々がプライバシーや自由を求めることは無理からぬことである。いつ、どこで起きるか分からない危険に我々はどう対処したら良いのだろうか。

 そうした難しい業務に携わるのが各国政府のインテリジェンス機関である。しかし、スノーデンの告発にあるように、どうしてもプライバシーを侵害してしまう側面がある。独裁国家では、国家・国民を守るよりも先に独裁者を守るためにそうした機関が使われてしまう。

 民主主義国家において自由と安全のバランスはどうやってとるべきなのだろうか。「バランスをとる」と言うのは簡単だが、実行するのはきわめて難しい。人命に関わる事態が突発的に起きてしまえば、それがインテリジェンスの失敗なのは明らかだ。しかし、そうした事態がずっと起きないまま平和が維持されているとき、我々はインテリジェンス機関や警察、軍が成功裏に働いていると評価できるだろうか。彼らが我々の通信を覗いていることに耐えられるだろうか。

 人に危害を加えようとする人たちは、ますます自己暴露に慎重になり、姿を隠そうとするだろう。普通の人たちの秘密を守り、普通の人たちの間に隠れる危険な人たちの存在をいかに暴くかが、政府を悩ます情報社会の深刻な課題である。

暴露の世紀を生き抜くために

 かつての冷戦時代のスパイの世界では「ニード・トゥー・ノー」という言葉がよく使われた。知る必要性のある人だけが知っていれば良いという意味で、情報にアクセスする権限がない人はそうしてはいけないという意味にもなった。スパイの世界には秘密がたくさんあり、知る必要性のない人が知って漏れてしまうことを東西両陣営の政府は恐れていた。

 しかし、今は、「ニード・トゥー・シェア」が重要だという指摘が多い。シンガポールのIGCIの中谷総局長もそのひとりである。ニードートゥー・ノーはどうしても縦割りになり、誰が何を知っているのかも外部からは分かりにくい。その結果、必要な情報の共有が行われなくなる。米国の9・Uァロの際にもCIAとFBIとの間で情報共有が行われていないと糾弾された。今ではいかにして必要な時に情報共有ができるかという課題がインテリジェンス・コミュニティでは理解されている。

 ところが、さまざまな暴露で出てきた情報は、「ニード・トゥー・ノー」でも「ニード・トゥー・シェァ」でもない場合が多い。そもそも「ニード」とは関係ないことが多い。むしろ、本来なら知らないほうが幸せだったと思えるような情報も多い。知る必要も、共有する必要もなかった情報が出てきて、さらされてしまう。

 いわば「ライク・トゥー・シェア」とでも呼べる一種の規範がソーシャルメディアを通じて形成されつつある。共有したいから発信する情報が出てきている。これまでなら、今どこに誰といて何を食べているかという情報をリアルタイムで共有する手段がなかった。誰と会って食事をしたかという情報は、口伝てや手紙で伝えられた。しかし、今では、芸能人がレストランに現れると写真がすぐに撮られ、ソーシャルメディアで拡散してしまう。ファンが現場に飛んでくるということにもなりかねない。

 そうした情報には「ニード」はない。それを知らなくてはならない、あるいは共有しなくてはならない必要性はない。しかし、芸能人の写真を撮った人たちはそれを共有したくて仕方がない。自分がその場にいてその芸能人に会ったことをアピールしたい人たちが多い。さらには自分が何を食べ、誰といるかということを毎食ごとにさらさないと気が済まない。

 それはある意味では自分の幸福感のアピールであり、共有に対する欲求でもある。ツイッターでのリツイート(ツイートを転送されること)やファボ(ッイートに「お気に入り」マークが付けられること)は承認欲求を満たしてくれるものでもあり、フェイスブックのライク(「いいね!」というマークを付けてもらうこと)の数を競うことが日常になっている人も少なくない。

 いつの時代もさまざまな形の競争がある。武力を競うことが主だった時代、財力を競うことが主だった時代があった。今は影響力や魅力を競う時代なのかもしれない。かつては、影響力や魅力を測ることが難しかった。今はそれができるようになりつつある。

 いつの時代にもオピニオン・リーダーは存在する。しかし、それはごく少数の人に独占されていた。マスコミはその大部分を握ることができた。インターネットやソーシャルメディアはそのヒエラルキーをゆるやかなものに変えつつある。ブログやツイッターで影響力の大きいアルファブロガーやアルファツイッタラーの影響力は無視できなくなっている。

 しかし、たいていの場合は、ニュースヘのいち早いアクセスや暴露情報を競っている。マスコミがスクープを競っていた構造とそれほど変わらない。暴露情報を求めるのは、どこか人間の本質につながるのかもしれない。退屈な日常のスパイスとなるのがニュースであり、暴露情報である。新聞だろうとテレビだろうと、ツイッターだろうとフェイスブックだろうと、多くの人が毎日の習慣として何らかの情報を求めている。

 大規模かつショッキングな暴露は滅多に起きない。しかし、これからも起きるだろう。きっかけは何だとしても、秘密の暴露は他者を魅了することが多い。小さな暴露は日常的に起きることになるだろう。

 暴露によって傷つく人がいることも忘れてはならない。だからこそEUでは「忘れられる権利」が主張されるようにもなった。インターネットで暴露された情報はいつまでも検索エンジンの中をウロウロし、過去の暴露情報に悩まされる人も多くなっている。ましてそれが真実でなければ、過去にずっと傷つけられることになる。それは人の尊厳を傷つけることになる。

 現代における情報の暴露と拡散は、暴力と同じくらいに他者を傷つけ、精神的に追い込み、財力と同じくらい他者の行動を操作できるという点では、ひとつの権力にもなっている。暴露の脅迫は組織や人の選択を変えてしまうだろう。

 何も隠すことがない、恥じるところのない聖人にとっては何も問題ない。しかし、そうではない凡人は、自分の情報を積極的に管理し、守らなければ、暴露の世紀を生き抜くのは難しくなるだろう。
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世界経済の新常識 独自路線を模索する東ヨーロッパ

『この1冊でわかる世界経済の新常識2017』より

結束する東ヨーロッパ

 もともと存在していたEUの南北という対立軸に、「東」という勢力が加わろうとしている。東ヨーロッパ諸国は旧ソ連の勢力下に置かれた社会主義国という共通の過去があり、ほぼ同時期に市場経済への移行を経験し、2004年以降にEU加盟国となった。当然ながら、EUの中では所得水準が低い国々という位置付けとなり、そのためEUの構造調整基金などの主たる受給者となっている。ただし、例えばユーロ導入という問題に関しては、束ヨーロッパ諸国の対応には温度差がある。スロベニア、スロバキア、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)がすでにユーロ圏の一員であるのに対し、ポーランド、ハンガリー、チェコなどはユーロ導入を急がない方針だ。

 その東ヨーロッパ諸国が、難民受け入れ問題を大きなきっかけとして、結束する動きが目立ってきている。まず、ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキアの4カ国が共同歩調をとっている。この国々は1991年以降の地域協力の枠組みを踏まえて「ヴィシェグラード4カ国(V4)」と呼ばれているが、EUの難民受け入れ分担の方針に特に強硬に反対している。このうち、ハンガリーとスロバキアは2015年12月にEUによる難民割り当てを無効として欧州司法裁判所に提訴した。また、ハンガリーでは16年10月2日に難民割り当て制度を受け入れるか否かに関する国民投票が行われた。国民投票は投票率が50%に達しなかったため無効となったが、難民割り当てへの反対票は98%を超えた。

 なお、8月30日にはポーランド議会の呼びかけで、EUに加盟申請をしている国々や、今後の申請を検討している国々による国会議長の会談「ワルシャワ会議」が行われた。参加したのはアゼルバイジャン、アルメニア、ベラルーシ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、ジョージア、マケドニア、セルビア、モルドバ、ウクライナ、トルコとポ圭フンドの12カ国である。この会議の議題となったのは、これらEU域外の国々の議会とEU加盟国の議会との相互の協力強化と、そのために必要なEUの改革についてである。ポーランドの国会議長は、EUはかつてない危機的な状況にあり、早急に打開策を見つけて改めて連帯を強化する必要があるとして、会議に出席した諸国がEUに加盟することを支援すると約束した。

 これはEUがベルリンの壁の崩壊以降、推進してきた「東方拡大」をさらに推進する宣言とも読めるが、Brexitが選択された原因の一端は、EUが拡大を急ぎすぎたことにあるという指摘もある。04年から13年にかけて計13カ国が新たにEUに加盟したが、EU域内の移民の急増、EU基金で支援対象となる国々の急増などさまざまなひずみが生じている。さらにシェンゲン圏の急拡大で域内の物流は活発になったものの、域外との国境管理の困難さも増している。このため、Brexitという新しい問題への対処を優先させ、EU拡大はしばらく先送りするべきとの意見も出てきている。

リーダーはハンガリーとポーランド

 東ヨーロッパの中でも、ハンガリーのフィデスの党首でもあるオルバン首相は10年の就任以来、なにかとEUの方針に異議を唱える傾向が目立っていた。ここに巧年10月の総選挙で政権奪回に成功したポーランドの法と正義(カチンスキ党首)が加わって、東ョーロッパの存在感が大きく増した。法と正義はEUの難民割り当てに対する国民の不満が高まったことを追い風に単独過半数の議席を獲得し、8年ぶりに政権の座に返り咲いた。同党は05年から07年にかけて与党だった時にもEUとの対立が目立った。15年12月以降はメディアに対する締め付け強化や司法に対する介入強化などでEUから批判を浴びているが、意に介していない。

 もっとも、ポーランドにしてもハンガリーにしても、EU離脱を目論んでいるわけではない。両国にとってEUの一員であることは、EUの構造調整基金などから補助金を得られ、また巨大なEU市場に自由にアクセスすることができ、EU域内であればどこででも就業できるなど経済的なメリットが大きい。

 それ以上に重要なのは、ロシアという脅威に対抗する盾としてのEUの存在である。ロシアに対抗する軍事同盟としては北大西洋条約機構(NATO)が重要だが、そのNATOおよびEUのメンバーであることが、東ヨーロッパ諸国にとってロシアの支配下に再び戻ることはない保証となっている。難民問題ではEUとの対立の激しさが目立つV4だが、そのメンバーであるハンガリーとチェコは9月にスロバキアの首都のブラチスラバで開催されたEU首脳会議(Brexitへの対応が議題であるため、英国は不参加)で、EUの共通安全保障政策の強化を議題にし、各国の国防軍の協力強化、および将来的にはEU軍の創設を提案している。

EUは低成長で求心力が低下

 欧州各国でアンチ・エスタブリッシュメント政党が台頭している背景には、ここまで見てきたようにEUの難民政策、緊縮財政政策に対する不満や不信感が存在する(なお、当然ながら、北ヨーロッパでEUの緊縮財政政策を批判する人々もいれば、南ヨーロッパでEUの難民政策に反発する人々もいる)。自国政府ではなくEU官僚が物事を決めていること、あるいはEUでは大国主導ですべてが決定されていることに対する不満もあるだろう。

 より根本的な問題として、「欧州統合の推進」というEUの基本理念に対する不信感が高まってきていることが、各国でEU懐疑派の台頭につながっている。欧州統合を進めることで経済成長が促進され、雇用が創出されて、誰もが幸せになるというシナリオは説得力を失っている。このシナリオは関税同盟を完成させた1960年代までは非常に有効であった。70年代には欧州統合の気運は停滞したが、85年以降の欧州単一市場構築の取り組みによって再び盛り上がりを見せた。現在は金融危機・ユーロ圏債務危機の克服に手間取る中で、欧州統合を推進する新たな起爆剤が求められているが、それを見つけることはまだできていない。

 例えばEUは米国との自由貿易協定(FTA)である環大西洋貿易投資協定(TTIP)を起爆剤とすべく交渉を進めているが、貿易立国であるはずのドイツですらTTIPに反対するデモが拡大しており、EUの政策に対する不信感の高まりを示唆している。

 共有されている危機感と共有されていない解決策

 EU加盟国間でEUという組織が危機に直面しており、改革が必要という認識は共有されている。ただし、EUの問題点がどこにあるか、どのように解決するべきかに関してはコンセンサスができていない。難民問題にどう取り組むのか、財政健全化と経済成長をどう両立させるのか、EUの拡大と深化のバランスをどうとるのかなど対立軸はさまざまである。加えて、難民問題ではEUの方針に反対する東ヨーロッパ諸国が、安全保障問題になるとEU軍の創設を提案してEUとしての共同歩調を主張するなど、各国とEUとの関係も複雑である。

 70年あまりの統合の歴史を振り返ると、東西冷戦、オイルショック、アジア諸国の台頭などさまざまな危機に直面したときに、欧州はより統合を深めることで危機を乗り越えてきた。現在の危機をチャンスに変えるために、さらなる統合深化を目指すべきとの主張が出てくる可能性が高い。その過程で最も重視するべきなのは、EUの求心力を高めることである。例えばEU予算を拡充し、特に失業率の高い南ヨーロッパ諸国の雇用創出に役立てるなど、格差是正を目指す政策が考えられるが、実現には財政負担の増加に反対するドイツなど、北ヨーロッパ諸国を説得できるかがカギとなる。

 また、離脱を決めた英国とEUが、どのような関係を構築するかも重要となる。現在、英国とEUとの離脱に関する交渉がいつ始まり、どのような内容になるのかまったくわからない。英国はEU単一市場への自由なアクセスを維持しつつ、EUからの移民の流入に関しては制限したいと考えているようだが、EUはこの両者は不可分との立場である。EU側には各国のEU懐疑派を勢いづかせないために英国と強面で交渉しなければならないとの意見も散見されるが、英国とEUは相互に重要な貿易相手である。共倒れを招くような対立関係を長引かせるのではなく、新しいパートナー関係を築くべきであり、またその過程でEUのメリットをEU市民に大いに売り込むべきである。それが各国のEU懐疑派の勢力を弱めることにつながるだろう。
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