『日本列島再生論』より コンパクトシティ
少子高齢化と人口減に直面し、政府や自治体が進めてきた住宅政策が曲がり角を迎えている。
例えば公営住宅でも、一人で入居する高齢者が増えている。戦後、政府の統計や試算で使われてきた夫婦と子供二人のいわゆる「標準モデル世帯」は減り、もはや「モデル」として成り立たなくなっている。
東京都内に約二六万戸ある都営住宅では、名義人に六五歳以上の高齢者の占める割合が二〇〇五年度に五〇%を突破した。東京都は管理人の定期巡回などの対策を取ってはいるか、「我々は住宅という(コを作るだけで、中の人がどう暮らしていくかとなるとプライバシーの壁もある」(担当者)として踏み込めないのが現状だ。
大月敏雄東京大学准教授(建築学)は「公営住宅は、入居者の収入が増え、子供が成長したら退去するとの見通しで設計されていたが、退去者は増えず、気が付くと団地は高齢者でいっぱいになっていた」と指摘する。
政府は国土交通省と厚生労働省の連携で高齢者対策や健康対策と一体的な住宅政策の検討を始めたが、目立った成果は出ていない。
行政の当惑をよそに、民間レベルでは高齢化社会に合った新たな住み方の模索が始まっている。
高齢者、障害者、子供が分け隔てなく暮らす「現代の長屋」を目指すマンションが広島県にある。東広島市に二〇一一年三月オープンした「C-CORE東広島」だ。
一階にはデイサービス事業所や障害者福祉サービス事業所が併設され、障害者一〇人が働くカフェもある。二~五階が居住空間で、バリアフリーの全二三室に四〇人が住み、月一回は住民同士のすしパーティーや餅つき大会などが開かれる。
脳梗塞で車椅子生活を送る六一歳の花本光二さんは「カフェに行けば若い世代と会話が楽しめ、ヘルパーもいるので一人でも寂しくない」と話す。マンションを建設した住宅コンサルティング会社の岡本悦生代表社員も「入居者全員が家族のようで、誰か一人が少し顔を合わせないと皆が心配するから孤独死も防げる」と強調する。
欧米でも、独居高齢者の支え方は大きな課題となっている。
フランスでは、さまざまな世代が共存する住宅作りが進んでいる。高齢者用の住宅を既存の公団や民間アパートに組み込む計画で、「生きる(Vivre)」と「自由(liberte)」を組み合わせて「ビバリブ(Vivalib)」と呼ばれるプロジェクトだ。
住宅コンサルティングを行うビバリブ社(パリ)が、自治体や民間の住宅業者と協力して二〇〇八年に開始。パリなど約一〇地域八〇か所(高齢者住宅は一〇〇〇戸)に広がった。
欧米では成人すると親子の別居が当たり前で、高齢者の独居をどう支えるかは、大きな問題だ。
「パリで高齢者専門の住宅に入ると毎月二〇〇〇上一五〇〇ユーロはかかる。年金で暮らせる家賃で、高齢者が必要な手助けを受けながら、社会の一員として出来るだけ長く暮らせる住まいを目指しました」と、ビバリブ社ミュリエルこアュノワイエ開発部長は話す。
パリから約一三〇キローメートル東方の都市ランスにあるアパートを訪ねた。約四〇戸のうち一、二階部分の九戸が高齢者用に改造された。バリアフリーで、各部屋の入り口幅は車椅子でも行き来できるよう八五センチと、普通住宅(七〇センチ)より広い。シャワーには寝たまま入れる浴用ベッドが設置できる。各室の壁には深夜に目覚めてもトイレに行けるよう、誘導灯がついている。耳の遠い住民用に、呼び鈴が鳴るとランプが点灯する仕組みもある。直角に体の向きを変えなくても移動できるよう、各部屋の扉は廊下に扇状に設けられていた。
高齢者にとって、特に頼りになるのは、手助けが必要な場合に押す「呼び出しボタン」だ。各部屋に設置されている。ボタンを押すと二四時間対応の警備会社につながり、コールセンターがらゆる要求に応える。例えば、住民が体の異常を訴えると、医師や介護士をすぐ手配。「水漏れした」「コンピューターが壊れた」などの生活トラブルでは業者を手配してくれる。
六八平方メートルで、家賃は五二〇ユーロ(約五万三〇〇〇円)。上階にある一般住宅の半分だ。共同住宅の二割を高齢者用に改築すると、建物保有者は賃料収入や建設投資で減税措置が受けられ、補助金も出る。その仕組みを利用して、コストを抑えることに成功した。
元高校教員で六六歳のマリージャンヌーファレさんは二〇一一年秋から、ランスにある別のビバリブ住宅に一人住まいする。二〇〇五年に交通事故で脊髄を負傷して以来、左足がマヒして杖が欠かせない生活だ。以前住んでいたアパートでは風呂に入れず、困っていた。
現在の家では補助椅子や手すりがあって、一人でも入浴できる。「三階に住む若い母親と子育ての苦労話をしたり、八四歳の隣人の手助けをしたり。私にもまだできることがあると励みになります」と生き生きした表情で話した。
ファレさんの月収は約一八〇〇ユーロの年金で、家賃は五九〇ユーロ。生活費に約四〇〇ユーロかかる。外出が必要な時は、前日に予約すればミニバスが送迎してくれるサービスを利用する。毎週、詩の朗読会でいろんな友達と会うのが楽しみだ。「最近、中国人のお友達ができた。ここでは、家族の中で生活しているように感じます」。笑顔にゆとりが見えた。
高齢化と人口減の中で日本の住宅政策はどうあるべきか。
大月准教授は「行政は高齢者らの独居世帯の実情やニーズを把握してこなかった。まず調査をきちんとした上で、住民とともに独居世帯を支える政策を考えるべきだ」と言う。
近年は、一つの家に複数のぷ忌更か共同で暮らす「シェア(ウス」も増えている。単身の若者同士の事例もあれば、複数の夫婦や親子が庭を共有して同じ敷地内に住む事例もある。
東日本大震災前までは当たり前と思われてきた「一世帯=一住宅」の考え方が、今後もふさわしいのかどうか、震災を機に見つめ直す動きが広がっている。
少子高齢化と人口減に直面し、政府や自治体が進めてきた住宅政策が曲がり角を迎えている。
例えば公営住宅でも、一人で入居する高齢者が増えている。戦後、政府の統計や試算で使われてきた夫婦と子供二人のいわゆる「標準モデル世帯」は減り、もはや「モデル」として成り立たなくなっている。
東京都内に約二六万戸ある都営住宅では、名義人に六五歳以上の高齢者の占める割合が二〇〇五年度に五〇%を突破した。東京都は管理人の定期巡回などの対策を取ってはいるか、「我々は住宅という(コを作るだけで、中の人がどう暮らしていくかとなるとプライバシーの壁もある」(担当者)として踏み込めないのが現状だ。
大月敏雄東京大学准教授(建築学)は「公営住宅は、入居者の収入が増え、子供が成長したら退去するとの見通しで設計されていたが、退去者は増えず、気が付くと団地は高齢者でいっぱいになっていた」と指摘する。
政府は国土交通省と厚生労働省の連携で高齢者対策や健康対策と一体的な住宅政策の検討を始めたが、目立った成果は出ていない。
行政の当惑をよそに、民間レベルでは高齢化社会に合った新たな住み方の模索が始まっている。
高齢者、障害者、子供が分け隔てなく暮らす「現代の長屋」を目指すマンションが広島県にある。東広島市に二〇一一年三月オープンした「C-CORE東広島」だ。
一階にはデイサービス事業所や障害者福祉サービス事業所が併設され、障害者一〇人が働くカフェもある。二~五階が居住空間で、バリアフリーの全二三室に四〇人が住み、月一回は住民同士のすしパーティーや餅つき大会などが開かれる。
脳梗塞で車椅子生活を送る六一歳の花本光二さんは「カフェに行けば若い世代と会話が楽しめ、ヘルパーもいるので一人でも寂しくない」と話す。マンションを建設した住宅コンサルティング会社の岡本悦生代表社員も「入居者全員が家族のようで、誰か一人が少し顔を合わせないと皆が心配するから孤独死も防げる」と強調する。
欧米でも、独居高齢者の支え方は大きな課題となっている。
フランスでは、さまざまな世代が共存する住宅作りが進んでいる。高齢者用の住宅を既存の公団や民間アパートに組み込む計画で、「生きる(Vivre)」と「自由(liberte)」を組み合わせて「ビバリブ(Vivalib)」と呼ばれるプロジェクトだ。
住宅コンサルティングを行うビバリブ社(パリ)が、自治体や民間の住宅業者と協力して二〇〇八年に開始。パリなど約一〇地域八〇か所(高齢者住宅は一〇〇〇戸)に広がった。
欧米では成人すると親子の別居が当たり前で、高齢者の独居をどう支えるかは、大きな問題だ。
「パリで高齢者専門の住宅に入ると毎月二〇〇〇上一五〇〇ユーロはかかる。年金で暮らせる家賃で、高齢者が必要な手助けを受けながら、社会の一員として出来るだけ長く暮らせる住まいを目指しました」と、ビバリブ社ミュリエルこアュノワイエ開発部長は話す。
パリから約一三〇キローメートル東方の都市ランスにあるアパートを訪ねた。約四〇戸のうち一、二階部分の九戸が高齢者用に改造された。バリアフリーで、各部屋の入り口幅は車椅子でも行き来できるよう八五センチと、普通住宅(七〇センチ)より広い。シャワーには寝たまま入れる浴用ベッドが設置できる。各室の壁には深夜に目覚めてもトイレに行けるよう、誘導灯がついている。耳の遠い住民用に、呼び鈴が鳴るとランプが点灯する仕組みもある。直角に体の向きを変えなくても移動できるよう、各部屋の扉は廊下に扇状に設けられていた。
高齢者にとって、特に頼りになるのは、手助けが必要な場合に押す「呼び出しボタン」だ。各部屋に設置されている。ボタンを押すと二四時間対応の警備会社につながり、コールセンターがらゆる要求に応える。例えば、住民が体の異常を訴えると、医師や介護士をすぐ手配。「水漏れした」「コンピューターが壊れた」などの生活トラブルでは業者を手配してくれる。
六八平方メートルで、家賃は五二〇ユーロ(約五万三〇〇〇円)。上階にある一般住宅の半分だ。共同住宅の二割を高齢者用に改築すると、建物保有者は賃料収入や建設投資で減税措置が受けられ、補助金も出る。その仕組みを利用して、コストを抑えることに成功した。
元高校教員で六六歳のマリージャンヌーファレさんは二〇一一年秋から、ランスにある別のビバリブ住宅に一人住まいする。二〇〇五年に交通事故で脊髄を負傷して以来、左足がマヒして杖が欠かせない生活だ。以前住んでいたアパートでは風呂に入れず、困っていた。
現在の家では補助椅子や手すりがあって、一人でも入浴できる。「三階に住む若い母親と子育ての苦労話をしたり、八四歳の隣人の手助けをしたり。私にもまだできることがあると励みになります」と生き生きした表情で話した。
ファレさんの月収は約一八〇〇ユーロの年金で、家賃は五九〇ユーロ。生活費に約四〇〇ユーロかかる。外出が必要な時は、前日に予約すればミニバスが送迎してくれるサービスを利用する。毎週、詩の朗読会でいろんな友達と会うのが楽しみだ。「最近、中国人のお友達ができた。ここでは、家族の中で生活しているように感じます」。笑顔にゆとりが見えた。
高齢化と人口減の中で日本の住宅政策はどうあるべきか。
大月准教授は「行政は高齢者らの独居世帯の実情やニーズを把握してこなかった。まず調査をきちんとした上で、住民とともに独居世帯を支える政策を考えるべきだ」と言う。
近年は、一つの家に複数のぷ忌更か共同で暮らす「シェア(ウス」も増えている。単身の若者同士の事例もあれば、複数の夫婦や親子が庭を共有して同じ敷地内に住む事例もある。
東日本大震災前までは当たり前と思われてきた「一世帯=一住宅」の考え方が、今後もふさわしいのかどうか、震災を機に見つめ直す動きが広がっている。