社会人になって半世紀。10数年前から年に何度か酒を酌み交わす高校時代のクラスメートが10数人いた。寂しいことにここ数年は毎年その数が減る。
先日そんな仲間のひとりが他界した。喪主を務められた奥様から、49日の法要を終えました、というご挨拶と心のこもったお返しが届いた。彼は、小さくとも経営者として従業員とその家族を大切にしていることが自慢だった。
そんな彼のお通夜の日、式場に入った瞬間これまで見慣れていた祭壇とは違うそれ、あるものが描かれていて一瞬驚いた。がそこには、残された家族の故人への深い感謝がこめられていることが伝わってきた。
緑を背景に将棋の「王将」と「成金」の2枚の駒が白菊で描かれていて、今にもパチンという駒音が静かな式場に響きそうな見事な作りだった。将棋と碁を仕事の合間に楽しんでいた彼、これからも楽しんでくださいという残された家族の愛情を知った。
映画界最大の祭典、第81回米アカデミー賞で滝田洋二郎監督の「おくりびと」が外国語映画賞を受賞した頃の葬儀だった。どのようなおくりびとの手によって納棺されたのだろう、棺におさまった穏やかな顔にふと思った。
導師は無上ということへの感謝について分かり易く話された。
彼は、祭壇に白菊の駒を思いつかれた家族を「無上の家族」と思い感謝しながら得意の将棋を指しているかも知れない。好きだったたばこはもう指には挟んでいないだろう。
(写真:どんな盤で指しているだろうか)