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現役の頃のある宴席。私より年配の方が所要で少し遅く来られた。その方は温厚で分別の備わった方なので「こういう人になれたら」と思う一人だった。「遅くなりまして申し訳ない」と空いている席へ座られた。すると急ピッチで飲んでいた一人が「枯れ木も山の賑わいですから」とグラスを持ち上げた。
そう発したのは私より若いが酒の大好きなひとり。酔い目とはいえ年配者に向かって誠に失礼なひと言、一瞬、座がしらけそうになった。そのとき遅くなられた方が「それをいい忘れていました。ありがとう」と軽くいなされた。発した本人は感謝されたと勘違いしたようで機嫌よかった。後に座長から厳しい注意を受けた。
そんな彼から「定年になりました。一緒に飲んでいた頃を懐かしく思い出します」そんなメールが届いた。アドレスを残してくれていたことに驚いたが、確かに、こういうことには抜け目のない彼だった、と思い出す。終わりに「枯れた人になりたいです」と結んでいた。
枯れ木も山の賑わい、これは自分を謙遜して使うことわざ。今度の「枯れた人」ニュアンスは分かるが、彼が本意とするのはどんな姿だろう。そう考えながら、酔うと、誰にでも本人だけが格調高いと考えている世間話を吹っかけていた酔眼を思い出す。
このメールもきっとほろ酔い、いや、それ以上のいい気持ちでくれたのだろう。そう空想しながら「お互い元気で」と返信をした。自慢の故郷へ帰るのか、問い忘れた。