shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Golden Hits Of The Paris Sisters

2009-06-08 | Wall Of Sound
 先週だったか、ネットの音楽ニュースでフィル・スペクターの記事が載っていた。6年前の女優射殺事件の判決がついに下ったというのである。それにしてもあの事件の一報を聞いた時は本当に驚いた。2003年2月といえば私がまだ海外オークション eBay にドップリとハマッてLPレコードを取りまくっていた時期で、彼がプロデュースした「プレゼンティング・ロネッツ」や「クリスマス・ギフト・フォー・ユー」、「クリスタルズ・グレイテスト・ヒッツ」なんかのオリジナル盤を手に入れた直後で大はしゃぎしていた私にとって“フィル・スペクターが人を殺した”というニュースは衝撃的だった。彼の伝記本「甦る伝説」にジョン・レノンの「ロックンロール」セッションで遅々として進まないレコーディングに業を煮やしたスペクターが天井に向けて拳銃を発射した様子や、アルコールとドラッグまみれのラモーンズ「エンド・オブ・ザ・センチュリー」セッションで彼がディー・ディー・ラモーンの顔に銃口を向けた件が生々しく描かれていたが、まさかホンマに人を殺ってしまうとは思いもしなかったので、一緒に “スペクター・フィーバー” で盛り上がっていたplincoさんと共に “音楽は圧倒的に素晴らしいのになぁ... 殺人プロデューサーかよ(>_<)” と呆れたものだった。確かに彼が異常な性格で、結婚したロニーを彼の屋敷に幽閉して誰とも接触させず、死ぬような思いで彼の支配から何とか逃げ出した彼女をあの手この手で執拗に追い詰めた話は有名だし、常にピストルを持ち歩いておりキレるとあたりかまわずぶっ放していたことも周知の事実だ。おぉこわ...(>_<)  結局禁固刑19年ということで現在69才の彼は塀の中で晩年を過ごすことになりそうだ。
 このように私生活では悪評だらけのスペクターだが、こと音楽になると本当に素晴らしい仕事をする。まさに “狂気の天才” だ。上記のフィレス・レーベル以外でのプロデュース作品で有名なのは「レット・イット・ビー」、それにジョンやジョージのソロ初期の作品群だが、やはり彼のワザが最も活きるのは60年代初期のガール・グループ諸作だと思う。ロネッツやクリスタルズは以前に取り上げたので、今日はパリス・シスターズにしよう。
 彼女らのレコードやCDを聴いていて最も特徴的なのは、他のガール・グループのようなティーンエイジャー向けのいわゆる“元気印”なサウンドが極端に少ないことである。典型的なガール・グループ・サウンドはグレッグマーク・レーベル時代の「オール・スルー・ザ・ナイト」ぐらいで、他はすべてリード・ヴォーカルのプリシラの喉を鳴らすような声質を反映したスロー・テンポの落ち着いた楽曲ばかりだ。彼女らの原点はマクガイア・シスターズ、いわゆるジャズ・コーラス・グループのスタイルなので当然と言えば当然だろう。61年にグレッグマーク・レーベルからリリースされたシングル「ビー・マイ・ボーイ」(56位)、「アイ・ノウ・ハウ・ユー・ラヴ・ミー」(5位)、「ヒー・ノウズ・アイ・ラヴ・ヒム・トゥ・マッチ」(34位)はすべて似たような曲想のナンバーなのだが、これらはすべてスペクターがかつての自分のグループ、テディ・ベアーズのサウンドを再現しようとしたものだ。中でも「忘れたいのに」(最初は「貴方っていい感じ」という邦題だったらしい...)のタイトルでも有名な②はテディ・ベアーズの58年の№1ヒット「トゥ・ノウ・ヒム・イズ・トゥ・ラヴ・ヒム」の続編のような曲で、作者のバリー・マンを始め、ボビー・ヴィントンや日本のモコ・ビーバー・オリーブらもカヴァーしている彼女らの代表作だ。
 このアルバムはキャピトル・レコードの傍系レーベルであるサイドウォークからリリースされたもので、グレッグマーク時代の再演が中心なのだが、何といってもジャケットが素晴らしい!尚、彼女らはこれらのレーベル以外にMGMやリプリーズにも録音しており、中でもボビー・ダーリンのカヴァー「ドリーム・ラヴァー」やダスティ・スプリングフィールドのカヴァー「サム・オブ・ユア・ラヴィン」は出色の出来だ。
 結局ガール・グループ・ブームの去った60年代後半にプリシラはソロに転向、ハッピー・タイガー・レコードから名盤「プリシラ・ラヴズ・ビリー」(69年)を出し、持ち前の蕩けるような歌声でジャズ・ヴォーカル・ファンを萌えさせることになるのだが、それはまた別の話。

The Paris Sisters - Dream Lover


モコ・ビーバー・オリーブ/わすれたいのにI Love How You Love Me