shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Time Out / Dave Brubeck

2009-06-20 | Jazz
 この前カーティス・フラーの「ファイヴ・スポット・アフター・ダーク」を取り上げた時、YouTubeでアリナミンVのCMを過去に遡って閲覧し、色んな “懐かCM” を見つけてノスタルジーに浸っていた。昔のCMは今と違って映像といい、音楽といい、本当によく考えられたモノが多かった。中でもこの武田薬品のアリナミンVドリンク・シリーズは90年代に入ると例のシュワちゃん&宮沢りえ・ペアの作品が主流になるが、80年代後半の一時期にはニューヨーカーのライフスタイルを紹介した映像のBGMに洒落たジャズを流していたことがあり、私の記憶が正しければそのシリーズの1回目がここで取り上げるデイヴ・ブルーベックの「テイク・ファイヴ」であり、2回目が「ファイヴ・スポット・アフター・ダーク」だったのだ。聴いてみればわかるが、この2曲にはマンハッタンの街並みがコワイほどよく似合う。カリフォルニアでもテネシーでもテキサスでもない、ニューヨークをイメージさせる音... 時間帯はもちろんアフター・ダークだ。因みに私が初めて買ったジャズCDはこの「テイク・ファイヴ」の入った「タイム・アウト」というアルバムであり、2枚目にあたるのが「ブルースエット」というわけ...(^.^) だからこのタケダのアリナミンVのCM に出会っていなかったらひょっとすると今ジャズを聴いていなかったかもしれない。
 CMソングというのはまず、広告主(クライアント)が複数の広告代理店に声をかけ、オリエンテーションの場でその商品説明を行い、それに対して最も効果的な広告プランニングをした代理店が制作を担当することに決定し、それから映像プロダクションや音楽プロダクションを選んでCMの詳細が煮詰められていくというプロセスを経るのだが、それにしても星の数ほどあるジャズ演奏の中からこの2曲を選んだ制作担当者のセンスは凄いとしか言いようがない。CMソングとして使う以上は単なる名演や傑作ではダメで、わずか15秒の間に視聴者の心を捉えるような、そんなキャッチーな魅力が最も要求されるのである。そういう意味でもこの2曲というのはベスト・オブ・ザ・ベストと言える究極の選曲だと思うし、私が常日頃から信奉している “聴き易い、分かり易い、楽しいジャズ” の原点は案外このあたりにあるのかもしれない。
 そんないいことだらけの③「テイク・ファイヴ」だが、楽理的にはかなり高度なことを演っており、ビートの変化を探求した、いわゆる “変拍子ジャズ” の代表作なのだ。こう書くと何か難解なジャズを演っているように聞こえるがとんでもない、繰り返すがCMに使えるほどの聴き易さである。そしてそれを可能にしているのが卓越したリズム・センスを持った名手ジョー・モレロの驚異のドラミングなのだ。モレロの変幻自在のドラムと超地味だが力強くて安定感のあるジーン・ライトのベースが一致団結して作り上げたリズムに乗って、ワン・アンド・オンリーというべき優しい音色を持ったポール・デズモンドのアルト・サックスと硬い音色で執拗なまでにブロック・コードで同じメロディーを繰り返すデイヴ・ブルーベックのピアノが生み出すコントラストこそがブルーベック・カルテットの1番の魅力だと思う。実は初心者の頃、“デズモンドのアルトこそがすべて” と思い込み、彼のソロ作品を買いまくったことがあったのだが、不思議なことにどれを聴いてもみな同じに聞こえ、退屈で仕方なかったのを覚えている。要するにデズモンドという人はブルーベックのガンガン叩きつけるようなブロック・コードの嵐の中を蝶のようにヒラヒラと舞うことによって初めてその美しい音色が活きてくるタイプのアーティストなのだろう。
 このようにブルーベックの「タイム・アウト」といえばリスナーのお目当ては「テイク・ファイヴ」で “それ以外の曲は何が入ってたかなぁ...???” 状態の人も結構多い(というかほとんどの人がそうだったりして...)と思うが、それ以外の曲も名演快演が揃っている。①「トルコ風ブルー・ロンド」は変拍子がユニークな曲構成だが、全然難解なところがなく聴いてて実に楽しいジャズ。ジャズ界一地味なベーシスト、ジーン・ライトが予想以上の頑張りを見せている。②「ストレンジ・メドゥ・ラーク」はデズモンドのアルトをたっぷり聴けて大満足。モレロの糸を引くようなブラッシュ・プレイが絶品だ。④「スリー・トゥ・ゲット・レディ」でもやはりモレロのプレイに耳がいってしまう。デズモンドばかり聴いてた人は騙されたと思って一度モレロのドラミングにご注目を!⑤「キャシーズ・ワルツ」は大変優雅な曲想のワルツ・ナンバーだが、今一つ汚れが欲しいような気も。⑥「エヴリバディーズ・ジャンピン」はブルーベック・カルテット独特のユニークなスイング感が楽しめるストレート・アヘッドなジャズ。3分15秒から始まるモレロのブラッシュ・ソロが圧巻だ。⑦「ピック・アップ・スティックス」は旋律の魅力に欠ける分を個々のプレイで何とか取り繕おうとしているように聞こえるが、曲がつまらなくてはアドリブも爆発しない。まぁ、あってもなくてもいいような1曲だ。
 ジャズ・ファンの中には “ジャズは黒人のもの” だと決めつける頭の固い人たちがいるが、私はそうは思わない。私にとっては黒いか白いかではなく、スイングしているかどうかこそが重要なポイントだ。そういう意味でこのアルバムは “クールに、軽やかに、粋にスイング” する白人ジャズの大傑作だと思う。

タケダ アリナミンV 80年代CM


Dave Brubeck - Take Five