ジャズ・ファンの遊びのひとつに“ブラインド”というのがある。正確には “ブラインド・フォールド・テスト” と言い、要するに何の前情報もなしにいきなり演奏を聴いて誰がプレイしているのかを当てるというごくシンプルなゲームのことなのだが、このゲームの面白いところは、そのミュージシャンの演奏の特徴がしっかりと頭に入っておれば、たとえ知らない演奏であったとしてもかなりの確率で当てることができるという点だ。どんな楽器にも当てはまることだが、奏法には流派というか系譜のようなものが厳然と存在しており、同じフォービート・ジャズというフォーマットで演奏してもその音色や吹き方によって印象は全く違ってくるものだ。
レスター・ヤングという人は1930年代にカウント・ベイシー楽団のスターとして脚光を浴び、それまでゴツゴツしたスタイル一辺倒だったテナー・サックス界に革命をもたらしたスタイリストで、後に“レスター派”と呼ばれるフォロワーを数多く生んだサックス・レジェンドである。特に30年代後半のベイシー時代から40年代前半のキイノート・セッションあたりのプレイは目も眩むばかりで、その滑らかなフレージング、ソフトなトーン、抜群のスイング感、そして究極のリラクセイションはモダン・テナーの源流と言ってよく、絶妙のタイミングでリズムに切り込み独創的なフレーズを次々に紡ぎ出す彼のプレイは唯一無比のものだった。
しかしその後兵役に取られ、人種差別的迫害を受けて精神をボロボロにされた彼は演奏面でも精彩を欠くようになり、50年代に入ってヴァーヴから出された作品の中には正直聴いてて辛い演奏もあるが、そんなレスターが奇跡的に好調を取り戻したのがピアノの巨匠テディ・ウィルソンとのセッションだった。レスターとテディは共にスタンダード・ソングを素材にしてメロディアスなアドリブを展開していくスタイルであり、更に職人ジョー・ジョーンズが匠の技で二人を支えるというセッティングがレスターの好演を引き出したのかもしれないが、とにかく50年代レスター屈指の名演といっていいアルバムがこの「プレス・アンド・テディ」なのだ。
テナーのレスター・ヤング、ピアノのテディ・ウィルソン、ドラムのジョー・ジョーンズ、ベースのジーン・ラミー... もうパーソネルを見ただけで音が聞こえてきそうな黄金のカルテットだ。快調なテンポでレスターが飛ばしまくる①「オール・オブ・ミー」は1分46秒からのテディー・ウィルソンの歌心溢れるピアノ・ソロとジョー・ジョーンズの瀟洒なブラッシュの競演に心を奪われる。音楽を知り尽くした2人の名人芸が素晴らしい。シナトラの名唱で知られる②「恋のとりこ」、スロー・テンポで歌い上げるレスターはまるで大切な曲を慈しみながら吹いているようだ。レスターがミディアム・テンポで気持ち良さそうにスイングする③「ルイーズ」ではジョー・ジョーンズの歯切れの良いブラッシュ・ソロに耳が吸い付く。
名演揃いの本盤の中でも特に気に入ってるのが④「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」で、一段と気合の入ったプレイを聴かせるレスターといい、2分10秒から信じられないくらいよく歌うアドリブ・ソロを展開するテディーといい、大技小技を次々と繰り出しながらの変幻自在なプレイを繰り広げるジョー・ジョーンズといい、全員が一丸となって実に緊張感溢れる1曲に仕上げている。モダン・ジャズ史上屈指の大名演だ。ミディアム・スイングが心地良い⑤「テイキング・ア・チャンス・オン・ラヴ」はシャキッとしたテディーとホワッとしたレスターの対比の妙が聴き所。ややスロー・テンポの⑥「アワ・ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」はレスターのリラクセイション溢れるプレイに心が和む。この古くて新しい感覚... まさに一点の曇りもない、メインストリーム・ジャズ・アルバムの金字塔といえる1枚だ。
Lester Young & Teddy Wilson - All of Me
レスター・ヤングという人は1930年代にカウント・ベイシー楽団のスターとして脚光を浴び、それまでゴツゴツしたスタイル一辺倒だったテナー・サックス界に革命をもたらしたスタイリストで、後に“レスター派”と呼ばれるフォロワーを数多く生んだサックス・レジェンドである。特に30年代後半のベイシー時代から40年代前半のキイノート・セッションあたりのプレイは目も眩むばかりで、その滑らかなフレージング、ソフトなトーン、抜群のスイング感、そして究極のリラクセイションはモダン・テナーの源流と言ってよく、絶妙のタイミングでリズムに切り込み独創的なフレーズを次々に紡ぎ出す彼のプレイは唯一無比のものだった。
しかしその後兵役に取られ、人種差別的迫害を受けて精神をボロボロにされた彼は演奏面でも精彩を欠くようになり、50年代に入ってヴァーヴから出された作品の中には正直聴いてて辛い演奏もあるが、そんなレスターが奇跡的に好調を取り戻したのがピアノの巨匠テディ・ウィルソンとのセッションだった。レスターとテディは共にスタンダード・ソングを素材にしてメロディアスなアドリブを展開していくスタイルであり、更に職人ジョー・ジョーンズが匠の技で二人を支えるというセッティングがレスターの好演を引き出したのかもしれないが、とにかく50年代レスター屈指の名演といっていいアルバムがこの「プレス・アンド・テディ」なのだ。
テナーのレスター・ヤング、ピアノのテディ・ウィルソン、ドラムのジョー・ジョーンズ、ベースのジーン・ラミー... もうパーソネルを見ただけで音が聞こえてきそうな黄金のカルテットだ。快調なテンポでレスターが飛ばしまくる①「オール・オブ・ミー」は1分46秒からのテディー・ウィルソンの歌心溢れるピアノ・ソロとジョー・ジョーンズの瀟洒なブラッシュの競演に心を奪われる。音楽を知り尽くした2人の名人芸が素晴らしい。シナトラの名唱で知られる②「恋のとりこ」、スロー・テンポで歌い上げるレスターはまるで大切な曲を慈しみながら吹いているようだ。レスターがミディアム・テンポで気持ち良さそうにスイングする③「ルイーズ」ではジョー・ジョーンズの歯切れの良いブラッシュ・ソロに耳が吸い付く。
名演揃いの本盤の中でも特に気に入ってるのが④「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」で、一段と気合の入ったプレイを聴かせるレスターといい、2分10秒から信じられないくらいよく歌うアドリブ・ソロを展開するテディーといい、大技小技を次々と繰り出しながらの変幻自在なプレイを繰り広げるジョー・ジョーンズといい、全員が一丸となって実に緊張感溢れる1曲に仕上げている。モダン・ジャズ史上屈指の大名演だ。ミディアム・スイングが心地良い⑤「テイキング・ア・チャンス・オン・ラヴ」はシャキッとしたテディーとホワッとしたレスターの対比の妙が聴き所。ややスロー・テンポの⑥「アワ・ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」はレスターのリラクセイション溢れるプレイに心が和む。この古くて新しい感覚... まさに一点の曇りもない、メインストリーム・ジャズ・アルバムの金字塔といえる1枚だ。
Lester Young & Teddy Wilson - All of Me