いぶろぐ

3割打者の凡打率は7割。そんなブログ。

じっと見る

2006-09-29 02:42:57 | my lyrics
秋冷という言葉がぴたりと似合うような、
肌寒い午前零時過ぎのホーム。
終電を待つ人影もまばら。
味気のない機械音を立てて開く自動ドア。
腰を下ろす待合室のベンチ。

くたびれたOL。
小刻みに頭を振るドレッドの男。
俺。
紫メインのおばちゃん。

お互いにお互いを全く知らない。
同じ時間、同じ空間に、
この4人がまた偶然揃うことは、決してないだろう。
そう考えると平凡な日常の一部もまた、
天文学的確率の織りなすドラマなのだ。
ドラマの脚本の善し悪しは、おいといても。

人間にとっては、毎年同じく巡る季節のうつろい。
生き物によっては、残り少ないこの世の景色。
通り過ぎていく多くの「普通の日」うちのひとつ。
その中でよろよろと、とぼとぼと、
最後の生の残り火にまどろみながら、
歩む小さな命。

普段お目にかかる機会にあっては、
こんなに落ち着いた気分で、じっくりと見ることはない。
ただただ嫌悪と畏怖とか胸を満たし、
一刻も早く視界から消えてくれることを願う存在。
それが、今、弱々しい姿をさらし、目の前にいる。
どうしたことだ、この穏やかな気持ちは。

見えないものを見ることも出来るように、
見えるものを見ないでいることもまた、可能だ。
俺はそっと目を伏せる。

しばらくしてふと目をやると。

俺以外の3人。
じっと見る。
じっと見る。
ほんとにじっと見ている。
ただただ、見ている。
わずかな動きも、逃さず追っている。
眼球が同じ運動だ。

OL、じっと見る。
ドレッド、じっと見る。
おばちゃん、じっと見る。
じっと見る。

やがて電車がやってきて、
4人はバラバラに、そして足早に電車に乗った。
お互いに降りる駅もわからない。

ゴキブリよ。

おまえはもう二度と会うことのない4人の、
静かな、しかし熱い熱い視線を浴びて、
もう二度と会うことのない世界へ旅立つのだな。
今度は人間に生まれ変わってこいよ。
どんな人間でも、ゴキブリよりは愛されているだろうから。

でも、それがいいかどうかは、わからないぜ?