真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「SEXマシン 卑猥な季節」(2005/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vシアター/監督:田尻裕司/脚本:守屋文男/原題:『ヒモのひろし』/企画:朝倉大介/プロデューサー:福俵満・森田一人・増子恭一/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:大西裕/出演:平沢里菜子・藍山みなみ・平沢昭乃・吉岡睦雄・佐野和宏・伊藤猛・小林節彦・川屋せっちん・松浦祐也・中村方隆、他)。
 猪川はるか(平沢)はグータラ夫の風間太郎(松浦)とは別れ、郵便局に勤めながら一人で五歳になる息子の雄一郎―しまつた、子役の名前を拾つて来るのを忘れた―を育ててゐた。ある日はるかは偶々同じバスに乗り合はせた、風来坊の岬ひろし(吉岡)と仲良くなる。はるかの住むアパートの一階で喫茶店を営む森田(伊藤)、その友人で住職の沖峰晴(小林)、何時でもタオルを首に巻いてゐる盗撮マニアの小松崎シゲル(川屋)。太郎も含めはるかの周囲の男達は、皆こほろぎ相撲に夢中になつてゐた。はるかのアパートに転がり込んだひろしもこほろぎ相撲に首を突つ込み、熱中する。
 PG誌によるピンク映画大賞まで受賞したとはいへ、個人的には何処が良いのかさつぱり判らなかつた―ま、ままあることでもあるが―「OLの愛汁 ラブジュース」(1999)以来、再び個人的には未だ初日が出ない田尻裕司の新作。守屋文男作による『ヒモのひろし』は、第二回ピンクシナリオ大賞入選作だといふことである。そのことは、冒頭クレジットでも明示される。ピンクシナリオ大賞とは国映主催のピンク映画脚本コンクールで、第二回からは準入選作として「不倫団地 かなしいイロやねん」(2005/監督:堀禎一)も、同じく映画化されてゐる。世評は高かつたらしいが、残念ながらサボッてゐたのか未見。
 即ち、才気が迸る風でもなければ、オーソドックスな商業娯楽作を未だキチンとモノにしてゐる訳でも別にない田尻裕司が、よせばいいのにノコノコと素人の脚本を迎へて撮つたといふ次第である。上手く出来上がる訳がない、全く面白くも何ともない。
 日常と半非日常との境界をフワフワする作品世界の中を、皆何処かしら地に足の着かぬ登場人物達がフラフラとする。田尻裕司自身のインタビューによると、元々自分の企画ではなかつたものを頼んで譲つて貰つたといふことらしいが、正しくこれは、どうせ撮るならば元企画通り、今岡信治にでも相応しかつたお話ではなからうかと思はれる。元来リアリティ志向、あるいは嗜好の描写が売りの―個人的には買はないが―田尻裕司では、嘘が物語の中での真実に昇華することなく、あくまで現実といふ地べたの上での薄つぺらい小細工のままに留まつてしまふのである。ネタバレになるので中身を細かくは述べはしないが、ラストに至つては、田尻裕司は終にシークエンスを持て余してしまひ、決して長くもないカットの間すらもたせられない、といふ無様な醜態を曝す。
 藍山みなみは太郎の今の女・久米久仁子、燦々と日が差す波打ち際を全裸で笑ひながら駆けて来る、といふそれはそれで思ひ切りだけならば素晴らしいショットを炸裂させるものの、些か以上にオーバー・ウェイト気味なところは残念。平沢昭乃ははるかの同僚・千春、濡れ場は無い、要らないが。佐野和宏はこほろぎ相撲の元締め・安西みのる、中村方隆はオーラスに飛び込んで来る漁師。
 これは全くの個人的好みの問題だけで甚だ恐縮ではあるが、吉岡睦雄は何時どの映画で見ても不快である。松原正隆だとか、どうして国映の映画には個人的に生理的嫌悪感を感じる俳優がよく出て来るのだらう。それは映画が先なのか個人が先なのか、それともそれ以前の何物かが先なのか、よく判らないが。ギリギリ楽しむとしたら佐野和宏か伊藤猛のカッコ良さを楽しむ程度。濡れ場は規定回数以上盛り込まれてはゐるが、どうにも微妙に変なバイアスがかかつてゐて、ときめかせては呉れない。国映は国映で、別種の微温湯に最早なつてしまつてゐるやうな気もする。


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