真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「昭和エロ浪漫 生娘の恥ぢらひ」(2006/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:茂木考幸/監督助手:中川大資/照明助手:広瀬寛巳/挿入曲:『一週間もどき』・『トロイカもどき』作詞:五代暁子、編曲・歌:大場一魅 『にはか雨』作詞・作曲・歌:桜井明弘/出演:春咲いつか・池田こずえ・日高ゆりあ・水原かなえ・平川直大・樹かず・津田篤・神戸顕一・吉原あんず・なかみつせいじ)。撮影助手をロストする、度々のことながら、己のメモが読めない。出演者中、平川直大はポスターには平川ナオヒロ。ポスターのみ茂木考幸が、キャストに名を連ねる。
 「ALWAYS 三丁目の夕日」―勿論未見、何が“勿論”なのか―のセンを明確に狙つた、昭和三十年代を舞台にしたホームドラマである。主人公、工場事務員の風間明子(春咲)は二十五歳。家族はサラリーマンの父・一郎(なかみつ)と専業主婦の母・栄子(吉川)に、大学生の弟・茂(津田)の四人家族。一郎は二十五歳といふ年齢を慮り頻りに娘に縁談を持つて来るが、明子は断り続けてゐる。明子には、職場で知り合つた工員の田中聡(平川)といふ恋人が居た。が、集団就職で工場に就職した聡の、中卒といふ学歴―明子ですら高卒―に一郎は頑として首を縦には振らなかつた。
 制作費は―基本―三百万、撮影日数は三日―今作は池島ゆたかのブログより現に三日―といふ基本的な制約が存するピンク映画である。勿論のこと、昭和三十年代の町並みを再現した、あるいは理想に基づいて創造した撮影セットなど設けられよう筈もない。とはいへ、なけなしの小道具、恐らくは役者の手持ちの衣類の中からギリギリのところで掻い摘んで来た衣装、丹念なロケハン並びに撮影技術等々の苦心によつて、何とはなしにではあつても当時の雰囲気を再現しようとしてゐる努力は窺へるし、結果としても結構なところで成功してゐるやうに見える。役者の顔立ちが当時の人間には見えない、といふのであれば、それは大手の製作した「三丁目の夕日」であつても傍目に見る限りでは大差ない。如何ともしやうのない時代、あるいは空気の隔絶といふものは、よしんばハリウッド大作程のバジェットを以てしたところで、超えようとして容易に超えられるものでもなからう。何より今作が素晴らしいのは、登場人物の吸ふタバコといへば缶箱両面でショートピースしか出て来ない点が思想的には最も正しい。嘆かはしいことこの上ない、昨今の要らぬ節介にも程がある至らぬ注意書きが映り込んでしまつてゐては興も醒める、と注意して観てゐたが、グラスの陰に隠してみたりだとか撮影の上で巧みに胡麻化してゐた、やうに見えた。要はさういふ、限られた限られた製作環境の中であつても、実現せんとしたコンセプトをどうにか工夫し懸命に追求した、誠意が感じられる一作である。
 池田こずえは一郎の部下・松田百合子。明子よりも更に年上―には微妙に見えないが―で、未婚である。大学教授でもある父親の持つて来た縁談に屈し、意に染まぬ結婚を決意する。最終的な人生に於ける幸福、などといふものが何処にあるのかのは兎も角、明子との対比として描かれる。百合子は一郎に対して好意を抱いてをり、結婚の決意を告白した夜、一夜限りと抱かれる。そのシーンの、まるでプロテクターのやうな物凄いデザインのブラジャーは一体何処から持つて来たのか。
 日高ゆりあは茂の同級生で、茂は恋人のつもりの桜沢類子。茂は、大学を卒業し就職したら直ぐにでも結婚するつもりでゐたのだが、職業婦人に憧れ新聞記者を志望する類子には、その気はさらさら無かつた。類子は茂の他に、カメラマンの土谷(樹)とも交際してをり、土谷と寝てゐるところに折悪しく訪ねて来た茂を、あつさりと袖に振る。偶々かも知れないが、新作で樹かずを見るのは久し振りでもあるやうな気がする。長いキャリアからすると私よりも年上であらうかとも思はれるが、何時までも若い。日高ゆりあに話を戻すと、池島ゆたかは“林由美香に似てゐる”などといつてゐるが、個人的には寸詰まりの横浜ゆきに見える。
 クレジットには特別に断りは無いが、“特別出演”といふことらしい水原かなえは、明子の同僚・光枝。恋人と同棲を始めたことを自慢気に明子に告白する。自由を謳歌する姿を、百合子とは別の形で矢張り明子との対比として描かれる。因みにワンシーンのみの登場で、別に脱ぎもしない。因みに、吉原あんず―元ピンク女優、一本のみとはいへ―も勿論脱がない。再び何が勿論なのか。
 出演者クレジットは無いままにそこそこ出番も台詞もある、池島ゆたかは百合子の父。一郎と二人でバーで飲みながら、新人の長嶋茂雄が活躍するラジオのナイター中継に耳を傾けるといふシーンがあるのだが、一郎が松田を百合子の父と知つて付き合つてゐるのかどうかは不分明。大場一魅は歌声喫茶の・・・お姉さん、といふことにしておかう。桜井明弘も同じポジションで歌を披露する。茂木考幸は、歌声喫茶でビラを配る男。他に若干名が客要員として見切れる。歌声喫茶のシーンは、セメントマッチ御用達の荻窪グッドマンにて撮影。
 あくまでメインは明子を中心に据ゑて一郎と栄子を絡めたホームドラマなので、その限りに於いては脇でしかないのだが、聡役の平川直大が良かつた。中卒で集団就職して来た当初は、給料を貰へるだけで満足してゐたが、現在では処遇の不公平さに直面し、組合活動に身を投じてゐた。一郎からの圧力に負け専務発の縁談に屈しかける明子に対し、家制度の終焉と、結婚の主体はあくまで当の個人たるべき新時代とを熱く説く。この、新時代の理想に燃える若者といふ役柄は、ややもすると嘘臭く、もしくは白けてしまつたりしがちなところでもあるが、平川直大といふ役者は、観客の心に飛び込んで来る突進力を持つてゐる。丁寧に撮り上げられた今作の中に於いて、地味に難しい役柄を見事に結実してみせた平川直大の好演、あるいは熱演が一際心に残つた。
 とはいへ、終始誠実に撮られてゐるだけに、惜しい瑣末を二点。公園のベンチに座つて、一郎と類子とが話をするシーン。一郎が箱ピースに火を点けようとする、ところまではいいのだがライターを手から零す。それを一々撮り直すことも叶はない程、ピンクといふものは切迫した状況の中で撮られてゐるのであらうか。もう一点。明子と栄子とが、洗濯物を畳みながら世間話をするシーン。明子はワイシャツを畳みかけたまま中座するのだが、そのシーンが、どうにも春咲いつかが実際にはワイシャツがキチンと畳めない、やうに見えたのは私の気の所為か。
 一郎が持つて来るも、一目見るなり明子が全く気の乗らない風情を露にする縁談の見合写真に、宣材写真を流用した神戸顕一が見切れてゐる。

 その筋―どの筋だ―では誰しもが知つてゐることではあるが、今作撮影の清水正二と、一般映画のフィールドで活躍する志賀葉一とは同一人物である。


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