【行き暮れて】

【行き暮れて】

 

(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2004 年 10 月 15 日の日記再掲)

東京の大学病院に検査入院し、100 万人に 1 人ともいわれる難病を引き当ててしまった従妹の検査結果告知に付き添う。

「それでも希望を捨てるな」と励まし、郷里静岡に帰って行く心細げな姿を見送り、事務所に戻って仕事を片づけ、追いかけるように 15 時 6 分発のひかり号に飛び乗る。金曜日には母の県立がんセンターへの付き添いがあるのだ。

静岡駅に着き、上り在来線に乗り換えて草薙駅まで引き返し、静岡鉄道で入江岡駅に着く頃には、日が西に大きく傾いていて深まる秋を実感する。

ここ数日、訪問看護による点滴を受けて驚くほど体力を持ち直した母が、「新聞の折り込みチラシを見ていたら、たまにはお肉でも食べたくなった」などと珍しいことを言い出したので、旧東海道まで買い物に出る。

江戸時代の旅人なら行き暮れて心細くなるような時間帯であり、それでもこの追分まで来れば、稚児橋を渡った巴川対岸、江尻宿に灯った明かりに励まされて足を速めたであろう美しい灯ともし頃である。

清水では独居老人の緊急通報システムが整備されているそうで、従来の電話機に取り付ける形で、ナースコールのような発信器などが設置される。緊急時の簡単な操作でサービス提供者である鈴与商事と静鉄タクシーに連絡が取れ、その連携により24時間支援が受けられるのだという。

数日前に大勢の関係者がやってきて取り付けていったそうだが、母の説明を聞いてシステムの細部を知るとなかなか良くできていて、独居老人向けのホームセキュリティシステムになっている。

介護保険によりほとんど自己負担なしで支援の輪の中に入れてもらえたと母は嬉しそうに機器を手にとり説明しながら微笑む。

名古屋大学医学部に熱心に治療法を模索している医師がいて、その診察室を訪ねれば次々に開発される最新治療薬の治研に加えてもらえるかもしれないと聞き、大学病院でもらった紹介状を持って、まず最初に訪ねてみるよう従妹にアドバイスする。

母も従妹も人生の旅の途上で行き暮れてはいるけれど、それでも道の先に灯る小さな明かりがある。

[Data:MINOLTA DiMAGE Xg]

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