塩と茶

2012年8月10日

 

 宮本常一『忘れられた日本人』の中で語られている塩入りのお茶が妙に気になった。

 茶はよくのみましたのう。茶はもとからつくっておりました。五月になると芽をつんでみな手もみでつくりました。それで、どこの家にも茶桶がありました。その茶桶の中へ茶の葉をいれて、すこし塩もいれて、あつい湯をいれて、茶筅(ちゃせん)でかきまわします。あわのよくでるのがよいので、十分泡をたてたものを、茶柄杓で茶碗にくんで飲んだもんです。茶筅はポン(山窩)が売りに来ました。茶筅といっても大きなもので、長さが七、八寸もありましたろう。(宮本常一『忘れられた日本人』岩波書店より)

 

 愛知県北設楽郡旧名倉村(現設楽町)のお年寄り四人に座談会形式で話してもらうことによる聞き書きなのだけれど、こういう塩分を加えたお茶の話しをどこかで聞いたことがあり、仕事をしながらそれが何だったかを丸一日考えた。
 家内が富山出身なのでそのふるさとに関する本を読む機会があり、富山県内の山村に残る「ばたばた茶」を飲む習俗がとてもよく似ており、塩を加え茶筅でかき混ぜて泡立てて飲むというお茶の飲み方に驚いたことを思い出したのだと夕方になって気づいた。 

|豊島区駒込『私の庭・みんなの庭』にて|2012年8月9日|

  子どもの頃、友だちの家に行って砂糖入り麦茶が出てきたのに驚いたことがあるが、塩入りの麦茶を飲む家庭もあったようで、地域固有の風習というより塩分補給が欠かせない労働をする家庭の事情によるのかもしれない。宮本常一が聞き書きした人たちは厳しい農作業をしてもなお貧しい山村の古老であり、流す汗に見合った塩分を補給する必要があったのだろう。 

|豊島区駒込『私の庭・みんなの庭』にて|2012年8月9日|

 清水で瓦工場を営んでいた祖父は、徹夜の窯焚きや、高温の窯に入っての作業が多く、鰹の塩辛を家の常備菜にしていて
「朝、鰹の塩辛で飯を食うと汗が目に入らない」
と言っていた。朝食前にお茶を飲むときは、梅干しに白砂糖をまぶして食べるのを楽しみにしており、種は湯飲みの中に入れて、うっすら塩味がでたお茶を飲んでいた。幼いころ飲まされたそのお茶の味も、また同時に思い出していた。


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コメント
 
 
 
お茶に塩 (あおい君)
2012-08-15 08:04:29
お茶の研究家の中村羊一郎氏が著書で次のようなことを書いています。
「・・・茶の渡来元のひとつ、唐では茶に塩を加えているし、現在の日本の各地に残る番茶の飲み方には塩を加えるという例が見られる。これはきわめて古い喫茶習俗の名残である。・・・・田舎では貴族社会の抹茶と異なる煎じ茶を好み、しかも塩を加えて飲むことが一般的・・・・」
 
 
 
お茶に塩 ()
2012-08-15 08:48:03
やはりそうなんですね。
義母が老人ホームで暮らすようになってから、自宅でも水分補給に塩分を含んだスポーツドリンクを飲んでおり、お茶に塩を加える飲み方が伝わっている地方をいくつか知って興味がわきました。
素人の勝手な類推ですが、古くから製鉄をする民が暮らしていた地域に茶栽培が重なっているのを不思議に思っています。それは義母が埼玉の老人ホームで暮らすことになった縁で、読み始めた郷土史の本を読んで思ったことです。
中村羊一郎さんの本、手に入りやすそうな『番茶と日本人』を注文してみました。
 
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