電脳六義園通信所別室
僕の寄り道――電気山羊は電子の紙を食べるか
海鞘の味
2014年4月19日(土)
海鞘の味
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00
海鞘と書いてホヤと読むほやが好きだ。結婚して仙台に籍を置いたことがある母親も大のほや好きだった。
01
大学を卒業したばかりのころ、かつて中央線沿線にあった著名居酒屋で、ホヤの塩辛を食べたのが初めての出会いだが、鼻がもげそうな異臭があって、こんなものは二度と食べるまいと思った。
02
しばらく後になって、ほや好きの母親が東京の居酒屋で新鮮なほやを見つけ、剥いてもらって食べて帰り、最高の味だったと自慢していたが、あれが新鮮なほやが東京で手にはいるようになったはしりの頃だったのだろう。
03
あんな臭い物をよく食べるねと母親を笑ったら、ほやは臭くないよと笑い返されたが、本当にほやが臭くなくて、本当においしいものだと知ったのは、夏の東北を旅して新鮮で剥きたてのやつを食べてからだ。
04
青森の市場脇には早朝からおばちゃんたちが並び、
「お客さん、ほや剥かせてよ~」
と観光客を呼んでいた。剥きたてをビニール袋に入れてもらい、ビジネスホテルの食堂に持ち込んでこっそり食べていたら、従業員のおばちゃんが
「あら、いいもの買ってきたね~。待ってな、いまご飯をもう一杯上げるから」
などと言い、ほやで食べるご飯がうまいと知ったのはその時だ。
05
小さな車に乗って訪ねた釜石の町で、入る店ごとに出てくる突き出しがほやで、
「ほや食べてすぐビール飲むと甘いから試してみて」
と、どの店でも嬉しそうに言うのを笑ったのも、いまでは震災前の切ない思い出になっている。
06
わが家の近くでは新鮮なほやが手に入りにくいので、今では塩辛や干物にしたものでも喜んで食べているが、初めて食べた中央線沿線のほやの味には出会ったことがなく、あれは珍味の限界を超え、傷んで異臭を発していたのではないかと思われる。そういうものを食べても死なないのが人間なのに自然災害には勝てない。ほやにはいろいろな味わいがある。
|東北新幹線に乗ると楽しみにしている車内販売が売りに来る石巻・水月堂物産のキャラメル箱入りほや|
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