◉転ぶ人

2018年4月17日
僕の寄り道――◉転ぶ人

二足歩行ができるようになったばかりの幼児はよく転ぶ。近くに誰もいないところで転んで泣いている子はあまり見ないけれど、お母さんがそばにいて声かけすると泣き出す。声かけが情けない気落ちを呼び出している。

人は成長につれ二足歩行に慣れてだんだん転びにくくなるけれど、年をとると再び転びやすくなる。義父母も転んでいたが、自分もまた転びやすくなり、今年もすでに二度転んだ。一度目は街路樹の根元につまづいて転び、先日は歩道いっぱいに広がって下校する女子中学生を避けようとして、縁石に蹴つまずいて車道に転んだ。

女子中学生を押し退けて痴漢と間違われたりしたらたまらないので、スマートに迂回して追い抜こうとしたら身体がついてこなかった。年をとると思ったより足が上がっていない。背後で少女たちのクスクス笑いが聞こえた。

それでもまだ若いので上手に両手をついて転び、顔を地面に打ち付けたことはまだないけれど、義父母は顔面から落ちて怪我をしていた。

雨の本郷通りで転んでいる中年男性がおり、額から血を流しているので声をかけたら近所の住人だった。通りかかった若者が手伝ってくれて助け起こし、血止めのハンカチを貸してくれた。落ちて傷だらけになった携帯電話を拾って手渡すと、震える手で家族に電話をかけ「転んじゃった」と絞り出すような声で言った。

やがて奥さんが駆けつけ、傘をさして抱えるようにして帰って行かれたが、礼の言葉はなかった。だがふたりの、悔しくて、恥ずかしくて、消え入りたいような表情に現れていた気持ちはよくわかる。いい年して人前で転ぶほど情けないことはない。

立派な背広を着た紳士が額から血を流して歩いているのを見たことがあるが、彼には声をかけられなかった。パーキンソン病だった義父と同じような歩き方をしていたので、彼もまたそういう病気で苦しんでいたのかもしれない。血をにじませながら、転んでしまった自分が悔しく、誰にも声をかけてもらいたくないという、決然たる顔をして歩いておられた。

***

昨夜は週一回の休肝日で素面(しらふ)の妻を相手に、録画しておいた NHKドキュメンタリー 「ブレイブ 勇敢なる者『えん罪弁護士』」を観た。最後近く、痴漢教師裁判の細部、意外な二審判決の理由、当該裁判官のその後、Twitter への言及など、ちょっと細部で澄明さが損なわれているようなモヤモヤ感があるけれど、ざっくり言えばよかった。(2018/04/17)


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