【夜の声】

2020年4月29日

【夜の声】

幼いころは真夜中に人の声をきくことがめずらしかった。真夜中に外を通る他人のかすかな話し声が近づいてきて遠ざかるあいだは不気味だったし、家の中から家族のひそひそ話が聞こえると、何かあったのではないかと不吉な思いに襲われたものだ。夜の闇の中でかすかな人の声を聞くと「自分」というものが意識され、子どもの頃は「自分」が意識されたとたんに心細さが心を満たすので、夜の声が嫌いだった。

『パックインミュージック』(TBSラジオ)と『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)の放送開始が 1967 年、『セイ!ヤング』(文化放送)が 1969 年だった。深夜放送が始まって屈託のない話し声が夜の闇に溢れ、思春期だったので深夜になるとそれらを聴いて朝を迎えていた。そして午前 5 時になって深夜放送が終わった瞬間、「自分」が意識されていつもの憂鬱な朝が来た。人は不安な「自分」を消し去りたい思いが勝ると、心の闇を出て明るい喧騒の中に外出したくなるのだろう。

外出禁止のロシアで集合住宅居住者がイタリアのようなベランダ越し音楽会を楽しもうと音楽を流したら、住民がつぎつぎに走り出て踊り始め、警察が鎮圧したというニュースを見た。きっかけをつくった張本人が「もっとロマンチックになると思っていた」と言うので笑った。

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