▼明日への日記…2 年寄り達とTV―拘泥より流れへ―

 

三人の親と同居して驚いた事のひとつが、わが親達にとってテレビを見る事は民放のワイドショーやパラエティ番組を見る事を意味するという事実だった。

呆けた義父の様子を見に行ったら、どろんと濁った目で TV を眺めてぼんやりし、つけっぱなしの TV ではブラジル人サンバダンサーが豊満な肢体を揺らして踊っていた。あまりにけばけばしく喧しいので NHK のチャンネルに換えても義父母は文句を言わなかったが、母は民放嫌いで NHK ばかり見ている息子夫婦に
「お母さんは民放が見たいんだよ、NHK の番組なんかお母さんたちには何も関係ないじゃん!」
と、声に出して抵抗した。

三人の親達のうち二人が他界し、残る一人もすでにテレビを見せても反応がないほどに呆けてしまった今になって思うに、親達にとって民放のワイドショーやパラエティ番組を見る事は選択の自由として存在していたのではなく、NHKの番組を見ない自由を保障する物として存在していたのかもしれない。

思い出の中の親達は民放のテレビを、熱心に身を入れて見入っていたわけでもなく、ただ差し障りのない情報の流れに足を浸してぼんやりしているだけだった。親達は民放のワイドショーやパラエティ番組を面白いから見ていたわけではなく、
「(どうして NHK はあんなに見たくない深刻ぶったものばかり見せようとするのだろう、所詮娯楽でしかない TV なのにどうしてあんなものを見せられなくてはいけないの)」
というささやかな抗議を込めて民放を見ていたのだと思う。



さいたま市見沼区の特養ホーム玄関前にて。地元のボランティアではないかと思うのだけれど、中年の女性が自転車に乗っては植木鉢の水やりや手入れにやってきていたがこの猛暑では手入れも間に合わず、花の残りも心細くなってきた。でもご苦労さん、この猛暑だからご自分の身体を大切にと言ってあげたい。



義母が暮らす特養ホームには大型液晶TVが要所要所に取り付けられているが、NHKの番組が流れていた事は今まで一度もない。母に
「NHKの番組なんかお母さんたちに関係ないじゃん!」
と言わしめた深刻ぶった番組、それを作る際に NHK では剥がし捨てられてしまう軽薄な表層が止めどなく流れ続ける民放番組を、老人達はぼんやり眺めつつ時折詩人のような合いの手を入れてみせる。

年寄りにとって大事な時間はもうすでに TV の中になどなく、NHK の番組と民放の番組どちらが優れているかなども関係なく、ただ見たくないものが映らない方を選んでいるという安心感をだけが、きっと心地よいのだ。親達には申し訳ないが、そういう気持ちがようやくわかるようになってきた。

 
コメント ( 2 ) | Trackback ( )
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コメント
 
 
 
ボケてもNHK (あおい君)
2011-07-18 19:32:47
ボクの母は教育テレビの番組などもチェックして見る人だったので民放のバラエティなどは全く見ない人でした。
ぼけてからもTVに対する姿勢は変わらず、ヘルパーさんが来て民放をつけると「9(NHKのこと)にして」と注文を付けていました。
本質的に施設などには到底なじめないやっかいなタイプの人間だったのでしょう(笑)
 
 
 
テレビより新聞 ()
2011-07-19 09:48:38
義母が暮らす特養ホームでは170名くらいの入所者が40名くらいずつのグループになって暮らしていますが、大型テレビの前にいるのはいつも3-4名の老人で、しかももう民放であろうがNHKであろうがこだわりもないようです。ぼんやり眺めているだけです。
ただひとり、集団生活に馴染めずいつもひとりで新聞を読んでいる女性がおり、彼女は自分でリモコン操作をして見たい番組を見ています。
「息子にもっといい施設に申し込みさせているので決まったらここを出て行く」
と言いながら1年余が過ぎました。3月11日の地震があった翌日に訪問したら、
「いっそこの老人ホームも崩壊してくれればよかった、そうしたらここを出てよそに移れたのに」
と苦々しげに話していました。崩壊した瓦礫の中から這い出てきて、すたすたと去っていく彼女のうしろ姿を思い浮かべたら妙に悲しくも可笑しく、それが認知症老人なんだなとしみじみ思ったものでした。
 
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