電脳六義園通信所別室
僕の寄り道――電気山羊は電子の紙を食べるか
錆色の町
2014年3月28日(金)
錆色の町
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啓蟄を過ぎると虫だけでなく人もまた活発になるようで、寝床や、家や、町から出たくなる。出たくならなくても自然に体が動いてしまい、気がついたら寝床や、家や、町から出てしまっていたという感じが人間の啓蟄に近いかもしれない。
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仕事をしていて昼食どきになったら、腹が減るというより歩きたくなったので、薄手のパーカーを羽織って外に出た。風を切ってする早歩きが心地よい季節になった。自然と一体になって気持ちがおおらかになったので、春の空気を花粉と一緒に思い切り吸い込んでみた。
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歩くと心だけでなく身体も活性化する。ちょっと歩いただけで臓器が活性化し、田端駅前を過ぎたあたりで空腹を感じたので、評判の立ち食い蕎麦屋に寄ってみようと思ったらポケットに財布がなかった。
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田端駅前の跨線橋を渡り、下町におりて東北本線の踏切を渡り、田端新町三丁目交差点で明治通りを左折すると、ここから尾久駅前あたりまでの道路沿いが「中古機械屋通り」となり、中古の工作機械などを扱う店が並んでいる。
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店の前を歩くたびに金属加工機独特の油臭いにおいが漂い、小学生時代を過ごした北区王子の町を思い出す。鉄までが匂うような春の散歩に相応しい。「春は鉄までが匂った」というのは小関智弘の書いた本の書名だが、それは直木賞候補になった「錆色の町」の結びの言葉から来ている。
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『春は鉄までが匂った』は読んだが、「錆色の町」は読んだことがないので調べたら、現代書館発行、小関智弘著『羽田浦地図』に収録されていることがわかったので古書で注文した。「雀のくる工場」「錆色の町」「羽田浦地図」「祀る町」の四編が収録されているという。
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「羽田浦地図」は1984年7月にNHKテレビドラマ人間模様として四回連続放送され、素晴らしい番組づくりで感動した記憶がある。その原作になったのが「錆色の町」と「羽田浦地図」なのだそうで、届いて読み始めるのが楽しみな春である。
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春になると小関さんと鉄の匂いと尾久界隈が懐かしくなるのは、子ども時代を過ごした王子が鉄工所の多い街だったこともありますが、明治通り「中古機械屋通り」にかつてあった丸善石油加瀬ガソリンスタンド(現ホワイトプラザ加瀬)で母親が事務員をしていたからです。重い実用自転車で王子から通っていました。(余談)