【単位あれこれ】

【単位あれこれ】

夕食後の洗い物を手伝う義母が不思議なエプロンをしており、なかなか面白いデザインなので、「お義母さん不思議なエプロンしてるね」と言ったら、昔作り方が『暮らしの手帳』に紹介されていたので作ったのだという。

非常に合理的で機知に富んだ意匠だけれど、原型は民族衣装や専門的な仕事をする人の作業着にあってそれをアレンジしたものではないかと妻が言う。

そのエプロンの構造を説明するのに「1ヤールの布をバイアスに裁って……」と言うので、亡き母もヤールという単位をよく口にしていたのを懐かしく思い出した。洋裁以外で聞いたことがないヤールという単位を広辞苑で調べてみたら「ヤールドの略」だとあり、なんとヤールドとは YARD (ヤード)のことなのだった。1ヤードは 91 センチであり、1ヤールドが縮まった1ヤールも当然 91 センチであってこれをヤール幅という。

布の幅にはヤール幅のほかにシングル幅というものがあり、71 センチメートル( 28 インチ)幅をシングル幅、1.42 メートル( 56 インチ)または 1.37 メートル( 54 インチ)のものをダブル幅と言うのだそうだ。


神田明神にて。「かご平」とあるのでおそらく籠屋が奉納した石柱。

DATA : RICOH GR Digital + GW-1

長さの単位を尺、体積の単位を升、質量の単位を貫とするのがわが国古来の度量衡法である。

孫で体格のよい者が出たら相撲取りにしたいともくろんでいた祖父は僕に会う度に「わりゃあ背ぇは何尺になった!」と聞き、僕は尺貫法など1合1升1斗という食べ物や飲み物に関わりの深い単位しか知らないので「メートル法でしかわかんないよ!」と突き放すと祖父は困った顔をしていた。1 尺は 30.3 cm なので祖父は孫の身長が早く入門基準の 5 尺 7 寸( 173cm )にならないかと心待ちにしていたのだろう。

神田明神にて。昭和初期まで全国に 250 店ほど「つづら店」があり現在も都内に 2 軒あるという。

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洋裁の世界ではヤード・ポンド法が生きているし、ボクシングなど格闘技の世界でもパウンドという単位を誇らしげに使っている。バター・砂糖・卵・小麦粉など原料を1ポンドずつの割合で混ぜたことからパウンドケーキの名があり、パウンドとは約 16 オンス 453.6 グラムを1とする Pond(ポンド)のことである。単位には深い歴史と事情がある。国技と言うなら相撲でどうして尺貫法を大切にしないのだろう。

そういえば子どもの頃、太った人の事を百貫デブと言った。一貫は 1000 匁(もんめ)3.75 キログラムなので「デブデブ百貫デブ!」とはやした百貫デブは 375 キロデブになってしまい、元大関小錦関が最も重いときでも 284kg で約 76 貫デブなので、百貫デブというのはあり得ないくらいにひどく現実離れしており、いけないことをした少年時代にもわずかな救いがある。


神田明神にて。「舟むし」と刻まれた石柱がずらっと並んでいてびっくりした。フナムシはかなり嫌いだからだ。
「舟むし」の「む」のように見える文字には「゛」がついているので「ば」で船橋だ。

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子どもの頃、台東区浅草に行くと国際劇場脇にある店でトンカツを食べさせて貰うのが楽しみだった。玄関を入ると肉屋の冷蔵室内のように大きな豚肉が吊されており、誰もがかぶりつきたくなる気持ちを抑えて武者震いし、二階に上がると大広間の追い込みに弱肉強食的大衆が大勢座って飲み食いしていた。

その店の名物は「百匁とんかつ」(客は百匁を「ひゃくめ」と読んでいた)という巨大とんかつであり、百匁すなわち 375 グラムのとんかつである。いまはもちろんのこと子ども時代も「百匁とんかつ」くらいペロリと平らげる自信はあったのだけど、お金がなかったのかいつも「五十匁とんかつ」しか食べさせてもらえず悔しい思いをしていた。

大人になったら自分で稼いだ金で思う存分「百匁とんかつ」を食べてやろう思っていたけれど、その店は国際劇場ごとすでにない。尺貫法廃止のせいもあると食い物の恨みに思っている。

(閉鎖した電脳六義園通信所 2006 年 10 月 25日、15 年前の今日の日記に加筆のうえ再掲載。)

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