【贅沢な昼食】

【贅沢な昼食】

(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2002 年 10 月 6 日の日記再掲)

仕事帰りのお昼時、新宿思い出横町へ。
 
あそこに食堂が何軒有ったかなぁと気になり、昼食がてらふらりと立ち寄る。
“昼食がてら” などと書くと “しょんべん横町” と書きにくいのは、人間としての修行が足りないからだろうか。

端から順に数えていくと食堂は 5 件。昼間から焼き鳥で飲んでいるおじさん達の店と、立ち食い蕎麦や鰻専門の店を除いた数だ。昔仲間と入った大きな店以外、他に入ったことがないので、鰻の寝床のようなカウンターだけの店に入ってみる。 

注文して、露地を行き交う人々を眺め、耳を澄ます。
「よっ、おめでとうございます!」
「何が?」
「聞いたよ、とったんだってね!」
「んもー、耳が早いんだからっ!」
競馬好きの会話だろうか。
「あーら、パパっ、お久しぶり~っ! 入って入ってっ!」
正午から、副都心のど真ん中で “パパ” なんて呼ばれて飲むなんて、何と贅沢な人達だろう。

びしっとスーツで決めた若者が隣の席に座り、
「たらこ定食、頭切って」
などと注文する。“頭切って” とは何かと注意してみていたら、お櫃(ひつ)からご飯をよそうとき、どんぶりの縁から上に出たご飯をしゃもじでお櫃に戻す、要するに “ご飯少なめ” ということなのだ。
「たらこは生? それとも焼く?」
「軽くあぶって」

それにしても、お櫃で保温したご飯の美味しいこと。昔の昼飯は、こんなに美味しいご飯を食べていたんだなぁと、幼い頃が懐かしい。電気保温ジャーというのはやっぱり良くない。

猫の額ほどの広さの厨房で、たらこをあぶり、玉子焼きを焼き、マカロニサラダと大根おろしを盛りつける手際の良さにウットリ。


こんなに美味しいご飯と、公明正大、目の前で鮮度を確かめて注文できる安心さ。

若いくせに何と贅沢な昼食をとっている若者なのだろうと羨ましかったりする。
 
建物は汚くて古いけれど、こういう場所の常連になれるのはとびきり贅沢なことかもしれない。

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