酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ザ・テノール」&「井筒高雄講演会」~新緑の候に心が濡れた

2018-05-22 23:05:25 | 戯れ言
 日大選手の会見、根底にある問題については次稿の枕で記したい。森友。加計問題で自分を殺す官僚たちに一言、「宮川青年を見習え!」……。

 是枝裕和監督の「万引き家族」がカンヌ映画祭でパルムドールを獲得した。最近の是枝に、<社会性の欠落>を感じていた。是枝はかつて「NONFIX」ディレクターとして、弱者切り捨て、公害、官僚機構、差別、憲法にメスを入れ、日本の矛盾を抉っていた。
 
 最近の是枝作品は高い完成度を誇っているが、映画監督デビュー後の鋭さが薄れていた。飼い慣らされているとまで感じていたが、「万引き家族」の後景には貧困や格差が描かれているらしい。是枝とツインピークスと見做していた園子温の復活も願っている。

 先週末はグリーンズジャパン会員発プロジェクトの企画イベントをハシゴした。まずは、高円寺グレインで開催されたソシアルシネマクラブすぎなみ第29回上映会「ザ・テノール 真実の物語」(14年、キム・サンマン監督)から。同会はドキュメンタリー映画が常だが、本作は事実に基づいて製作された日韓合作映画である。

 韓国出身のベー・チェチョル(ユ・ジテ)は<1世紀に一人の才能>と将来を嘱望されるテノール歌手である。「本場でアジア人が主役を張れるはずがない」との偏見と闘ってキャリアを積み上げたが、絶望の淵に落ちる。甲状腺がんが声帯に及び、手術の際、横隔膜を傷つけられた、大門未知子ならなんて想像してしまったが、チェチョルは声を失った。

 チェチョルと友情を育んだプロモーターの沢田(伊勢谷友介)は声帯手術の権威、一色医師(実在の京大教授)に執刀を依頼し、妻ユニ(チェ・イェリョン)も懸命に支える。横隔膜の傷も癒え、チェチョルは第一線に復帰した。絆と夢を問う本作に、故日野原重明聖路加名誉院長は「102年の人生でピークの映画」とコメントしていた。ロック好きながらオペラ興行会社に就職した美咲を生き生きと演じた北乃きいが、キラリ光っていた。

 程良く心が湿った後、「井筒高雄講演会~9条改憲と自衛隊を考える」(グリーンズ杉並主催、阿佐谷地域区民センター)に足を運んだ。俺はグリーンズ杉並の幽霊会員で、普段は貢献していないから、早めに行って開場準備に協力した。講演会には杉並区長選や区議補選の候補者も顔を見せ、大盛況のうちに進行する。

 井筒氏は陸上自衛隊レンジャー隊員だったが、PKO法を機に退職する。大学卒業後、加古川市議を経て、現在はベテランズ・フォー・ピース・ジャパン代表として、自衛隊の仕組み、戦争の実相を伝える講演を全国で行っている。冒頭、ベテランズ・フォー・ピースの一員として国連や沖縄で通訳を担当しているレイチェル・クラークさんが登壇し、メッセージを寄せた。

 参加するに当たって、俺は質疑応答タイムに問いをぶつけるべく準備していた。<9条堅持によって日本は平和だったという〝正論〟は、沖縄が置かれている状況を無視した戯言ではないか>という内容である。ところが、クラークさんと井筒氏は冒頭、俺の疑問をクリアにしてくれた。安保違憲訴訟の原告である井筒氏は、日米安保と日米地位協定の廃止を目指し、<オール沖縄の〝本土叛〟結成が必要>と主張していた。

 井筒氏は軍隊と戦争のリアルを体感しているから、上っ面の言葉に違和感を覚えている。保守も革新も〝お花畑〟の住人と揶揄していた。十数㌻のレジュメを用意し、様々なデータ(貧困率と自衛隊入隊者との関係など)に加え、自身の来し方もユーモアたっぷりに話された。

 9条壊憲以上に問題と指摘したのは自民党案に書かれている<緊急事態条項>と<国民の義務>だ。イスラエルによるパレスチナ人虐殺を例に挙げ、「日本においても(反体制派に向け)あのような事態が起き得る」と警鐘を鳴らす。国民に義務を課す自民党案は、安倍首相が敵視する中国や北朝鮮をモデルにしたかのようで、<国民>という意識が欠落している。

 原発54基が攻撃対象になる、食糧自給率が低いから長期戦に耐えられない、輸出入なしに経済は成立しない……。井筒氏は理路整然と<地震大国の日本は戦争できない>と結論付ける。迸る魂の声に、俺の心は熱く濡れた。

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