酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ハンターキラー 潜航せよ」~情と信頼、そして自由が紡ぐカタルシス

2019-05-11 14:13:31 | 映画、ドラマ
 この半月余り、ブログのアクセス数が急増した。解析によれば、理由は一目瞭然、「主戦場」バブルである。「主戦場」を検索ワードにして辿り着いた方が多いようで、同作を〝反日プロパガンダ〟と攻撃する安倍首相支持派も〝敵情視察〟に訪れているはずだ。しょせんはバブルで、数字は旧に復しつつある。

 別稿(5月1日)で「無限カノン三部作」と「赤目四十八瀧心中未遂」を、それぞれ小説と映画の平成ベストワンに挙げた。洋楽ロック派の俺だが、JPOPなら浅井健一(ベンジー)に尽きる。ブランキー・ジェット・シティ、JUDEも素晴らしいが、詩的で繊細な世界を創り上げたシャーベッツに魅了された。

 ベンジーはソングライターとして、1年1作を超えるペースでアルバムを制作し、その数は30枚を超える。まさにギネス級といえるだろう。現在はインターチェンジキルズを率いてツアーを敢行中で、チケット入手は難しい。50代半ばになっても、ベンジーの創作意欲は衰えていない。

 ドラマなら「ハゲタカ」だが、「相棒」をきっかけにテレビ朝日の刑事ドラマが〝飯の供〟になった。〝テレ朝ウイルス〟に侵されているらしい。学生時代の友人と十数年ぶりに再会したのが「相棒劇場版Ⅱ」公開中の映画館前だった。ラディカルを貫く彼は若い頃、「刑事ドラマなんて絶対見ない」と断言していたが、あの日は「カミさんが(「相棒」を)好きなんで」と奥さんを紹介しながら、バツが悪そうな表情を浮かべていた。

 軍需産業やグローバル企業に操られているのは間違いないが、イランへの軍事行動を仄めすなどトランプ大統領の暴走が止まらない。支持率が上昇中と知って愕然とする。気休めを求めたわけではないが、評判の米映画「ハンターキラー 潜行せよ」(18年、ドノヴァン・マーシュ監督)を新宿で見た。上記の友人など反戦派は見ないタイプの作品だが、融通無碍の俺は超弩級のサスペンスを満喫した。

 アメリカとロシアが北海で一触即発になる。発端は米潜水艦の撃沈で、攻撃したと見做されるロシア艦も沈没している。不可解な状況に至った理由が徐々に明らかになり、米ロの原潜艦長が第3次世界大戦を食い止めるために協力する。米側のジョー・グラス館長(ジェラルド・バトラー)は不屈の精神力と的確な判断力を併せ持つ。冒頭の狩猟のシーンに、グラスの人間性が表れていた。

 ロシア側のアンドロポフ艦長(ミカエル・ニクヴィスト)も部下たちから絶大なる信頼を得ている。長い下積みによって人の心と海と潜水艦の仕組みを知り尽くすグラスとアンドロポフは、互いの中に自分を見て、たちまち強い友情で結ばれる。公開を待たず肺がんで死去したニクヴィストは、素晴らしい演技でキャリアの掉尾を飾った。

 ロシアの軍事クーデター、強硬意見が支配的になるNASAとホワイトハウス、北海に潜入した特殊部隊のロシア大統領救出作戦がカットバックし、秒刻みのスリル満点の展開に緊張は途切れない。「007」のジェームズ・ボンドや「ミッション;インポッシブル」のイーサン・ハントのような超人的な活躍はないが、それぞれが人間力で事態を打開していく。

 閑話休題。昨日は勝ったが、ベイスターズが借金9を抱えている。開幕前、「プロ野球ニュース」でラミレス監督を懸念材料に挙げていた解説者がいたが、不安は的中したようだ。データ野球を掲げるラミレス監督だが、チームは点に分解され、線になってこない。チームに重要なのはモメンタムとケミストリーだ。グラスやアンドロポフのように、信頼と情熱を軸に据える指揮官が必要だと思う。

 情と信頼をベースに、両国の兵士たちは俯瞰の視点で<何が最も必要なのか>を判断する。上意下達、規律、服従より大切なものに気付き、行動した。個に立ち返り、自由に考えることラストのカタルシスが生まれた。ハリウッドはトランプほど愚かではない。世界で観客を動員するためには普遍性と不変の真理が求められるが、本作は十分にエンターテインメントの基準を満たしていた。

 翻って日本の現状はどうか。普遍性と不変の真理のベースになるべき規範、倫理、矜持が失われつつある。だから自由は失われ、集団化に邁進している。
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