酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「アジョシ」~韓流映画の背景にあるもの

2011-09-25 04:28:31 | 映画、ドラマ
 ニューヨークが騒がしい。外遊中に原発再稼働を示唆した野田首相が国連で、<アラブの春>支援に760億円の借款を実施する方針を明かした。ウォール街では<アラブの春をアメリカに>をスローガンに、資本による搾取に抗議し、アメリカの民主化を訴える集会が数日にわたって開催された。

 アッパス自治政府議長がパレスチナの国連加盟を求める演説を行った。本会議に議案が提出されれば、賛成多数で可決される可能性は大きいが、アメリカは拒否権行使を前提に根回しを進めている。日本もアメリカに同調し、<悪の枢軸>の一員であることを隠せなくなるだろう。

 新宿で先日、韓国映画「アジョシ」(10年、イ・ジョンボム監督)を見た。「母なる証明」(09年)で無垢と邪悪のコントラストを表現したウォンビンと、「冬の小鳥」(09年)で眼差しの力を見せつけた天才子役キム・セロンの共演作である。期待を超えるエンターテインメントに仕上がっていたが、ご覧になる方も多いはずなので、興趣を削がぬよう作品の背景を中心に記したい。

 「(ウォンビンは)今まで見た中で一番カッコイイ! ジャニーズなんて問題にならない」
 「同レベルの人、他にもいるよ。例えば……」

 場内が明るくなった時、隣に座っていた30前後の女性2人がこんな会話を交わしていた。俺の頭に浮かんだ〝同レベル〟とは、「義兄弟~SECRET REUNION」のカン・ドンウォンである。ちなみに韓国で昨年、観客動員数ナンバーワンに輝いたのが「アジョシ」で、2位が「義兄弟」だった。

 〝現在に甦ったシェイクスピア〟〝ヌーヴェルバーグ以来の衝撃〟と絶賛された「息もできない」(09年)のような芸術性を誇る作品だけでなく、韓国はハリウッドを凌駕するエンターテインメントを量産している。映画以外は不案内だが、韓流ドラマや音楽が騒がれる理由も想像がつく。

 「アジョシ」は「レオン」をハードにダークに、スピードとアクションを満載した作品といえるだろう。細々と質屋を営むテシク(ウォンビン)を、隣に住む少女ソミ(セロン)は「アジョシ」(おじさん)と呼んで父親のように慕う。孤独な青年と少女の屈折した交流は、ソミの母が犯罪に手を染めたことでドラスチックに変化する。テシクとソミは麻薬取引、臓器売買をめぐる闇社会の抗争に巻き込まれていく。

 「義兄弟」ではベトナム人コミュニティーが描かれていたが、「アジョシ」で敵役を演じたボディーガードのラムもベトナム人という設定である。ラム役のタナヨン・ウォンタランは目の演技で、テシクへの友情、ソミの純真さに心を洗われていく過程を表現していた。

 「アジョシ」は「義兄弟」同様、朝鮮半島の悲劇を反映した作品で、主人公は国家の影を背負っている。テシクの過去と癒やせない傷が、ストーリーの進行とともに明かされていく。韓国には徴兵制があるが、ウォンビンは兵役中にケガをし、カン・ドンウォンは「義兄弟」撮影後に入隊した。2人の日常と作品を重ねると、背景にある分断国家の現実が浮き彫りになる。

 全身全霊を傾けてソミを守ろうとするテシクの姿に、騎士道精神と恨の文化の伝統を見た。絶望の底に光が射す瞬間のカタルシスを、ぜひ本作で体験してほしい。



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