goo blog サービス終了のお知らせ 

酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ハン・ガン著「すべての、白いものたちの」~死せる魂に寄せる静謐な思い

2025-06-30 21:15:02 | 読書
 国民民主党の玉木代表が24日、外国特派員協会で党の女性支持が伸び悩む理由について英語で「我が党の政策は女性に難しくて理解できないのだろう」(要旨)と答えた。男女の政策理解度は女性の方が上と俺は考えているが、政界や芸能界で女性蔑視・セクハラ発言が繰り返されてきたのはご存じの通りだ。自身を振り返っても、偉そうなことは言えない。勤め人時代、女性社員をキツネとタヌキに分類し、男性の同僚と悦に入っていたことがあった。

 今のご時世、<作品は女性らしい繊細な筆致で綴られている>と評したら問題になるかもしれない。「すべての、白いものたちの」(2018年、斎藤真理子訳/河出文庫)を読了した。アジア人女性として初めてノーベル文学賞を受賞したハン・ガンも上記のように評したい作家で、余計なお世話だが、作品から滲み出る心身の痛みに寄り添いたいと感じさせてくる。

 「すべての、白いものたちの」は第1章「私」、第2章「彼女」、第3章「すべての、白いものたちの」の3部構成で、それぞれが短い詩に近い随想から成り立っている。後書きというべき<作家の言葉>にタイトルの意味が以下のように記されている。<私の母国語で白い色を表す言葉に、「ハヤン」と「ヒン」がある。綿あめのようにひたすら清潔な白「ハヤン」とは違い、「ヒン」は、生と死の寂しさをこもごもたたえた色である。私が書きたかったのは「ヒン」についての本だった>……。

 死が本書の底に流れている。起点は語り手(≒作者)の姉が出産後2時間で亡くなったことで、姉が死ななければ自分の生はなかったのではないかと語り手は自問している。「別れを告げない」の後景には済州島で7万人が虐殺されたとされる四・三事件があり、光州事件をテーマした小説を執筆中に、作者はポーランドに招かれた。ヒトラーによって破壊し尽くされたワルシャワの破壊された記憶を作者は甦らせている。

 印象に残った記述を以下に引用する。<「魂があるとしたら、目に見えないその動き方はきっとあの蝶に似ているだろうと彼女は思ってきた。ならばこの都市の魂たちも、自分が銃殺された壁の前にときどき飛んできては、蝶のように音もなく羽ばたきながら、そこにとどまっているのだろうか?……彼女は、自分が置いて出てきた故国で起きたことについて考え、死者たちが十全に受けとれなかった哀悼について考えた。……だから。彼女にはいくつかの仕事が残されている……記憶しているすべての死と魂のためにー自分のそれも含めてーろうそくを灯すこと>……。

 本作には「白いもの」への研ぎ澄まされた叙述に溢れている。読了後、取り留めない印象が残ったが、訳者の補足と平野啓一郎の解説を読んで、ハン・ガンの作意と構成上の工夫を少しは理解出来た気がした。心を濾過してくれるような本作を折にふれて読み返してみたい。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« テレビ桟敷で映画を愉しむ~... | トップ | 「ロスト・チルドレン」~イ... »

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

読書」カテゴリの最新記事