大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年09月13日 | 植物

<2448> 大和の花 (606) オミナエシ (女郎花)                                オミナエシ科 オミナエシ属

               

 日当たりのよい山野の草地に生える多年草で、根茎が横に這い、傍に新苗を生じて増える。地上茎は直立し、高さが60センチから1メートルほどになる。葉は羽状に深裂し、裂片は楕円形で先が尖り、縁には粗い鋸歯が見られ、対生する。

 花期は8月から10月ごろで、上部で分枝し、茎頂や枝先に散房状の花序を出し、黄色の小さな花を多数つける。花序の柄は下側(外側)ほど長く、花序群の上面が平らになるような形になる。花は直径4ミリくらいの筒状で、花冠は5裂する。雄しべは4個、雌しべは1個で、柄の部分も含め、花序全体が黄色一色になり、美しく見える。

『万葉集』の14首に取り上げられている万葉植物で、その花の美しさから、女性をイメージし、その名に娘、娘子、佳人、美人、姫などの万葉仮名が当てられている。なお、『万葉集』巻八(1538)の山上憶良の旋頭歌「萩の花尾花葛花瞿麥(なでしこ)の花姫部志(をみなへし)また藤袴朝顔の花」により、以来、オミナエシは秋の七種(草)にあげられている。

  女郎花という表記は、かわいらしいこの花から来ている名で、オミナは女で、エシはめし(飯)の転化で、つぶつぶの小花から来ている。女郎花の表記は万葉当時には見られず、平安時代に入ってからとされる。この表記も美しい女性のイメージに通じる。

  なお、オミナエシは薬用植物としても知られ、同属で白い花をつけるオトコエシ(男郎花)とともに乾燥した全草または根茎の生薬名を敗醤(はいしょう)と言い、腫れ物の解毒に煎じて服用すれば効能があるとされる。敗醤はオミナエシやオトコエシを活けた水が腐ったような臭いに変わることによるという。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では東アジア一帯に見られるという。大和(奈良県)では各地に自生し、曽爾高原などでは乱れ咲く姿が見られたが、最近、その姿が乏しくなりつつある。一方、観賞あるいは切り花用として畑一面に植えられているのを明日香村などで見かけるが、これも花の美しさによる。 写真はオミナエシ(葛城山ほか)。   女郎花おのれ主張し天地の間

<2449> 大和の花 (607) オトコエシ (男郎花)                                  オミナエシ科 オミナエシ属

                                     

 日当たりのよい山野の草地や道端、荒地などに生える多年草で、毛のある茎は太く、直立してよく分枝し、高さが60センチから1.2メートルほどになる。根元から長い匐枝を出し増える。茎葉は羽状に深裂し、裂片は卵状楕円形で、頂裂片が最も大きい。

 花期は8月から10月ごろで、上部の葉腋から柄を有する散房状の花序を出し、白い小さい花を多数つける。オミナエシと同じく下の花序柄の方が長く、花序のバランスを取っている。花はオミナエシによく似るが、オミナエシの黄色に対し白色の違いがある。また、実に翼があるので、オミナエシとはこの点も異なる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、中国、朝鮮半島、シベリア東部など東アジア一帯に見られるという。大和(奈良県)では山野で普通。オミナエシに比べて花が多く、男の姿を思わせる。 写真はオトコエシ(宇陀市の山中ほか)。   男郎花命名譚に花の白

<2450> 大和の花 (608) カノコソウ (鹿子草)                                  オミナエシ科 カノコソウ属

                                     

 やや湿り気のある山地の草地などに生える多年草で、根茎から匐枝を出し繁殖する。茎は太く、直立し、高さ40センチから80センチになる。葉は羽状に全裂し、小葉は2対から4対。先が尖り、縁に粗い鋸歯がある。苞葉は線形。

 花期は5月から7月ごろで、茎頂に散房状の花序を出し、淡紅色乃至白色の小さい花を多数密につける。花は筒状で、普通5裂する花冠は直径3ミリほど。雄しべ3個は長く、花冠から突き出る。また、花筒の片側が膨れる特徴がある。

乾燥した根は吉草根(きっそうこん)と呼ばれ、鎮静薬としてヒステリーに効能があるとされる。また、芳香のある精油が含まれているので、香料としても用いられる。カノコソウ(鹿子草)の名はつぼみの色と形が鹿子絞りに似るからという。別名ハルオミナエシ(春女郎花)。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。ヨーロッパには同類のセイヨウカノコソウ(西洋鹿子草)がある。大和(奈良県)では自生する草地が少なく、個体数も覚束ない状態にあるため、レッドリストの絶滅危惧種にあげられている。 写真はカノコソウ(曽爾高原)。右端の写真はつぼみ。  安堵の身台風一過 庭雀

<2451> 大和の花 (609) ツルカノコソウ (蔓鹿子草)                          オミナエシ科 カノコソウ属

                               

 山地の木陰やや湿り気のある谷筋などに生える多年草で、軟らかく太い中空の茎は直立し、高さ40センチから60センチほどになる。葉は羽状に切れ込み、裂片は卵形乃至は披針形で、頂葉が一番大きく、側葉は1対から3対になり、対生する。

 花期は4月から5月ごろで、茎頂や上部葉腋に柄を有する散房状の花序を出し、白色または紅色を帯びた直径2ミリほどの小さい花を多数つける。花冠は普通5裂し、雄しべはカノコソウと異なり、花冠より伸び出すことはない。地上茎が伸び切ると根元からつる状の匐枝を伸ばし、群生することが多く、この名がある。実は痩果で、萼が冠毛状になり、実につき、種子を運ぶ。

 本州、四国、九州に分布し、中国、台湾に見られる。どちらかと言えば、暖地性で、大和(奈良県)では、カノコソウ(鹿子草)ほど珍しくなく、殊に金剛、葛城山系でよく見かける。写真はツルカノコソウ(葛城山)。 みなすべて意味をもてあり ほーほけきょ

<2452> 大和の花 (610) キンレイカ (金鈴花)                                     オミナエシ科 オミナエシ属

                 

 深山、山岳の岩場などに生える多年草で、茎は高さ20センチから60センチほどになる。葉は長3センチから10センチほどで、掌状に切れ込み、下部の葉には長い柄があり、対生する。

 花期は7月から8月ごろで、茎頂に集散花序を出し、花冠が5裂する黄色の小さい花を多数つける。花の筒部に2ミリから3ミリの距があるのが特徴で、距が目立たない仲間のコキンㇾイカ(小金鈴花・ハクサンオミナエシ)との区別点になる。

 キンレイカもコキンレイカも日本の固有種であるが、コキンレイカが本州の東北地方から北陸地方の主に日本海側に分布するのに対し、キンレイカは本州の関東地方から近畿地方の主に太平洋側に見られる。大和(奈良県)では紀伊山地の標高1000メートル以上の山岳高所の岩場に生えるが、自生地、個体数ともに少なく、レッドリストの希少種にあげられている。 写真はキンレイカ(大峰山脈高所)。 岩上に黄花掲げて金鈴花

 

 

 

 


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