大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年06月22日 | 植物

<2001> 大和の花 (250) コオニユリ (小鬼百合)                                            ユリ科 ユリ属

          

 高原の草地や山地の崖地などに生える多年草で、テンガイユリ(天蓋百合)の別名でも知られる同類のオニユリ(鬼百合)とよく似るが、鱗茎も草丈も花もオニユリよ小さい。花期は7月から9月ごろで、茎の上部の総状花序に赤橙色に暗紫色の斑点がある6個の花被片からなる花を咲かせ、花被片は先が反り返って下向きに開く。雄しべも雌しべも長く花被の外に伸び出し、濃紅紫色の葯が目につく。この花の姿から鬼を連想したのだろう。この名がある。

 オニユリもコオニユリも全国的に分布し、国外では中国中部から北部に見られるという。大和(奈良県)では高原や山地の崖地で見かけられるが、オニユリは植栽か植栽起源で、純然たる野生にはまだ出会っていない。コオニユリは深山でも見かけることがあるが、オニユリは人里近くでしか見ていない。葉腋に珠芽が出来るオニユリに対し、コオニユリでは珠芽がつかないので、これがもっとも有効な判別点になる。

  なお、コオニユリはよく結実し、オニユリは結実しないが、珠芽によって子孫を増やせるようになっている。因みに、食用のゆり根はオニユリが主で、美味を誇る。 写真はコオニユリ。 左2枚は曽爾高原、3枚目は葛城山。ユリと蝶は相性がよく、ヒョウモンチョウが来ていた。右端はオニユリで、十津川村での撮影。葉腋に珠芽がうかがえる。  夏至過ぎぬ悲喜も苦楽もひっくるめ

<2002> 大和の花 (251) ヒメユリ (姫百合)                                    ユリ科 ユリ属

                                                  

  草地に生える多年草で、小さな鱗茎を有し、茎は高さ30センチから80センチほど、葉は線形で互生する。花期は6月から7月ごろで、茎の上部に花柄を出し、朱赤色に濃い斑点のある花被片6個の花を1個から数個上向きに開く。花被片は倒披針形で長さが3センチから4センチほどとほかの百合に比べて小さいく、この名がある。

  本州の東北地方南部以南、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、アムール地方に自生すると言われる。日本では稀に見られ、大和(奈良県)における自生地は曽爾高原の一箇所で、絶滅寸前種にあげられて久しく、高原を歩いて出会えればラッキーと言える花である。

  『万葉集』には巻8(1500番)の相聞の1首に見える。大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ・大伴旅人の異母妹で、大伴家持の叔母に当たり、姑でもある)の歌で、次のように詠まれている。

        夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものぞ

  歌の意は「夏の野の繁みに埋もれて咲いている姫百合の花のように誰にも知られず、自分ひとりの心に秘めている恋は苦しいものです」となる。忍ぶ恋の典型で、忍べば忍ぶほど募る恋である。高原の緑一色の茅原に埋もれるように咲く紅一点のこの花を見ていると、鮮やかな花だけにかえって孤独に映り、郎女の苦しい胸のうちが伝わって来る。

  ヒメユリ(姫百合)は後の歌にも「百済野のちがやが下の姫百合の根もころ人に知られぬぞ憂き」(藤原仲実『夫木和歌抄』)と詠まれているように百済野が大和平野の真ん中辺りであれば、古くは、大和の平野部でも見られたものと推察出来る。今は消滅が危惧される花であるが、万葉当時はその姿に触れることが出来たと考えられる。とすれば、郎女にも接触出来た花で、ヒメユリは万葉植物として認め得ることになる。

 写真は曽爾高原のヒメユリ。青々と広がる草原の中で紅一点の花は鮮やかなだけにかえって孤独に見える。郎女の苦しい胸の内を重ねて見ていると、訪れるチョウがその孤独を慰めているようにも思えて来る。  六月や水鏡にして奈良盆地   

<2003> 大和の花 (252) クルマユリ (車百合)                                           ユリ科 ユリ属

                     

  亜高山帯に多く見られる多年草で、ほかのユリと同じく、鱗茎を有し、茎を立て、大きいもので1メートルほどの高さになる。葉は披針形で、茎の中ほどで輪生状につく。この葉の形が車輪状に茎を取り巻くのでこの名があるという。

  花期は7月から8月ごろで、茎の先端部に1個から数個の花をつける。花は橙赤色に濃い斑点が見られる6花被片からなり、花被片は先端が強く反り返って下向きに開く。コオニユリの花に似るが、葉の形により容易に判別出来る。花にはほとんど匂いはないが、艶やかなので目立ち、渡りをする旅蝶アサギマダラがよく来る。

  北海道、本州、四国(剣山)に分布し、朝鮮半島、中国、サハリン、カムチャッカ半島、千島等に見られるという。大和(奈良県)では大峰山脈の尾根から高所部の草地に見え、本州の南限とされている。近年、シカの食害による減少が目立ち、絶滅寸前種にあげられている。 写真はクルマユリ(山上ヶ岳ほか)。アサギマダラが来て蜜を吸う花(左)、輪生状につく葉(中)、裂開前の若い実(右)。  草刈りの音聞こえ来る暑さかな

<2004> 大和の花 (253) ウバユリ (姥百合)                                            ユリ科 ユリ属

                    

  山野の湿った木陰や草地に生える多年草で、太い茎が直立し、1メートル前後の高さになる。茎の中ほどに長い柄のある卵状楕円形の葉をつける。葉は大きいもので長さが25センチほどになり、単子葉植物とも思えないところがある。

  花期は7月から8月ごろで、花の咲く時期になると葉が虫に食われたり、枯れたりしてぼろぼろになるので、葉を齒に見立て、傷んだ葉に老女を重ねこの名が生まれたという。花は長さが10数センチほどになる緑白色の6花被片からなり、裂片は完開せず、ほかのユリ類に比べると地味で、葉のみならず、この花もウバユリのイメージに繋がっている。

  本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、国外ではカラフト、千島に見られるという。大和(奈良県)では山地や山間地でよく見かける。花は茎の上部に数個から10個ほどが固まってつく。花の多いオオウバユリは中部地方以北に分布し、大和(奈良県)では見られない。 写真はウバユリ(上北山村の和佐又山ほか)。群生して咲く花(左)、木陰に咲く花(中)、裂開して枯れた果穂(右)。  梅雨曇り大和平野を被ひけり

 <2005> 大和の花 (254) タカサゴユリ (高砂百合)                                   ユリ科 ユリ属

                             

  タカサゴ(高砂)の名が示すとおり台湾原産の多年草で、別名はタイワンユリ(台湾百合)。大正時代の末に庭の花や切り花の観賞用に導入された外来のいわゆる帰化植物である。黄色を帯びた鱗茎を有し、高さが1.5メートルほどに茎を立て、線形の葉を密につける。花期は盛夏のころからで、茎の先端部にラッパ形の花被片6個からなるテッポウユリ(鉄砲百合)に似た花を総状につける。純白のテッポウユリに対し、花の内側が乳白色で、外側が紫褐色を帯びるものが多い。

  種子の発芽から半年ほどで開花する勢いで野生化し、全国的に広まった。大和(奈良県)でも野生化した姿がそこここに見られ、在来のユリに減少傾向が見られるのとは対象的にタカサゴユリは増える勢いにある。整備された道路の法面や切り通しの斜面などでは植えられたと思われるものが一面に群生しているのに出会ったりする。何処から舞い込んだか、我が家の庭でもタカサゴユリが生え出し、毎年花を咲かせている。 写真はタカサゴユリ。道路脇の斜面一面に咲いた花(左)と草地に生え出して咲いた花(右)。

    雨に濡れゐるもの梅雨の真っただ中

 

 

 

 


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