<2972> 大和の花 (1007) シュンラン (春蘭) ラン科 シュンラン属
比較的乾燥した二次林などの林床に生える常緑多年草で、地生ランとして知られる。長さが20センチから35センチほどになる線形の葉を叢生し、先が垂れ気味になる。花期は3月から4月ごろで、根元から太い花茎を立て、高さが10センチから25センチほどになり、茎頂に普通1花をつける。
花はラン科の特徴で、左右相称。3個の萼片と3個の花弁からなり、萼片の長さは3.5センチほど、黄緑色を帯び、小鳥が羽を広げたような姿に開く。花弁は萼片より小さく、萼片の内側にあり、2個の側弁は萼片と同色であるが、下側の唇弁は白地に濃赤紫色の斑点があり、よく目につく。この斑点を黒子と見てホクロ(黒子)、そばかすと見てジジババ(爺婆)の異名がある。私が子供のころ郷里の備前ではジジババと呼んでいた。なお、シュンラン(春蘭)の名は春に咲くランの意である。
北海道、本州、四国、九州(屋久島まで)に分布し、国外では中国に見られるという。観賞に適し、愛好者が多く、野生のものは見つかり次第持ち去られ、大和(奈良県)では里山で普通に見られていたが、激減し、今やレッドデータブックの絶滅危惧種にあげられるほど少なくなっているという。また、シカによる食害も報告されている。 写真は里山の落葉樹林の林床に株を張り、花を開き始めたシュンラン(左)、開いた花(中)、仲よく並んで咲く花(右)。奈良市郊外の山中ほか。 小さきは小さきなりに花はこべ
<2973> 大和の花 (1008) シラン (紫蘭) ラン科 シラン属
日当たりのよい湿り気のある斜面や崖地に生える多年草で、地中に扁球形の白い偽球茎が横に数珠つなぎに並び、花茎を地上に伸ばして高さ30センチから70センチほどになる。単子葉の葉は披針形で長く、茎の下部に3個から5個、基部が鞘になって互生する。花期は4月から5月ごろで、花茎の先に紅紫色の花を数個つける。ときに白い花も見られる。
本州の関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、中国と台湾に見られるという。園芸種が広く行き渡り、珍しくないが、自生は少なく、大和(奈良県)では十津川村や下北山村などの南部から中部にかけて見られるが、減少傾向にあり、レッドリストの希少種にあげられている。全国的にも自生のものが少なく、環境省も準絶滅危惧に指定している。
シラン(紫蘭)の名は紫色の花を咲かせるランの意によるもので、普通一般には観賞用として見えるが、「君知るや薬草園に紫蘭あり」(高浜虚子)と詠まれているように、地中の偽球茎を日干しにして煎じ、胃痛などの薬用としての実績も見られる。 写真は左から日当たりのよい湿った斜面の草地で花を咲かせる紫蘭、紅紫色の花に白い花も混生して見られる自生地、花群のアップ(いずれも十津川村)。 古都の奈良お水取りより春が来る
<2974> 大和の花 (1009) エビネ (海老根) ラン科 エビネ属
山野の落葉樹林下などに生える多年草で、地中に球形の偽球茎を連ね、この根茎がエビに似るのでこの名があると言われる。葉は長さが20センチ前後の長楕円形で、縦にひだが入り、暗緑色である。花期は4月から5月ごろで、高さが30センチから50センチの花茎を立て、上部に多数の花が総状につく。
花はラン科特有の萼片3個と花弁3個で、横向きに開く。萼片と側花弁は紫褐色で、普通唇弁が紅色を帯びた白色をしているが、花の色には変化が多い。花が黄色一色のものはキエビネ(黄海老根)と呼ばれる別種で、四国、九州に分布する。エビネは北海道(南西部)、本州、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島、中国の一部にも見られる。
エビネは地生ランの一つで、室町時代のころから花の観賞がなされ、江戸時代にはブームになってかなりの品種が生まれた。また、昭和40年代から50年代にかけ再びブームになり、この時代に自生のものが乱獲され、めっきり数を減らし、今では環境省のレッドリストに準絶滅危惧としてあげられ、大和(奈良県)でも減少が著しく、絶滅危惧種として見える。 写真は花を咲かせるエビネ(左)と花序のアップ(右)。ともに五條市大塔町。 古民家の座敷華やぐ雛祭り
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます