大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年05月24日 | 植物

<2696> 大和の花 (802) ホオノキ (朴木)                                      モクレン科 モクレン属

          

 暖温帯域から冷温帯域に生える落葉高木で、幹の太さが直径1メートル、高さが30メートルに達するものもある。樹皮は灰白色で、平滑。皮目が多い。葉は長さが20センチから40セントの倒卵形から倒卵状長楕円形で、縁に鋸歯はなく、裏面は白色を帯び、2センチから4センチの葉柄を有し、枝先に輪生状に互生する。

 花期は5月から6月ごろで、枝先の葉の展開後、輪生状の葉の中心に直径15センチほどの芳香のある乳白色の1花を上向きに開く。花被片は9個から12個で、外側の3個は萼片状で短く、淡緑色、ときに紅色を帯びることもある。内側の6、9個は湾曲した花弁状で、紅紫色の雌しべを紅色の花糸と乳白色の葯が取り囲み花の中央にそそり立つ形になる。雄しべは早落性で開花とほぼ同時落ちるので、完全な花を見るのは案外難しい。袋果が集まった集合果は長さが10センチから15センチの長楕円形で、秋に熟す。

 北海道、本州、四国、九州と一部南千島に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)ではほぼ全域的に見られる。古くから知られ、『万葉集』にはホホガシハの名で2首に見える万葉植物で、2首は花を詠んだものではなく、輪生状につく大きい葉のついた枝を折り取って翳し、その姿を傘のようだと形容した宴席での歌である。現代では「朴の花高々と咲く真昼間を水上にさみし高見の山は」と詠んだ吉野下市の歌人前登志夫の花の歌が思い出される。

 ホオノキ(朴木)のホオはホウ(包)の意で、大きい葉で食物を盛ったことによる。古名のホホカシハ(ホホガシハ)にも通じる。日本特産であるが、漢名の厚朴(こうぼく)に倣い和名のホオに朴を当てている。ホオノキは全国的に見られ、一般に馴染みが深く、地方名の多い木の1つである。

  なお、材は軟らかく、刀の鞘、朴歯の下駄、版木、ピアノの鍵盤、精密機械の木部などに用いられ、葉は朴葉味噌や朴葉寿司で知られる。また、樹皮は乾燥したものを厚朴(コウボク)と称し、利尿、去痰、健胃に用いられ、漢方の生薬にも名を連ねている。 写真はホオノキの花。花を咲かせる枝(左)、開き始めたツボミ(中)、完全に開いた花(右)。   朴の花ほぐれるやうに開きけり

<2697> 大和の花 (803) タイサンボク (泰山木)                           モクレン科 モクレン属

                    

 北アメリカ原産の常緑高木で、樹高20メートルほどになる。樹皮は灰褐色。葉は長さが10センチから25センチの長楕円形で、大きい。縁には鋸歯がなく、質は厚い革質で、表面は艶やかな濃緑色、裏面は赤褐色の細い毛が密生する。2センチから3センチの葉柄を有し、枝の上部に集まり、輪生状に互生する。

 花期は6月ごろで、枝先に直径15センチから25センチの芳香のある白い大きな花を上向きに開く。花は普通9個の花被片からなり、外側の3個は花弁状の萼片で、内側の6個は花弁の役目を果たしている。雌しべ多数を雄しべ多数が囲んでつき、花の中央にそそり立つ。実は袋果が集まった集合果で、晩秋のころ熟し、赤い種子を現わす。

 日本には明治6年(1873年)に渡来した外来種で、明治12年、アメリカのグラント大統領が来日したとき、東京の上野公園に記念植樹、大統領の名に因み「グラント玉蘭」と名づけられた。今もこの木は健在であるが、この植樹によってタイサンボクは一般に知られるようになったという。

   因みに玉蘭はタイサンボクの漢名で、タイサンボクの名は葉や花が大きいことに由来すると言われ、泰山木の字は当初、大山木と書かれていたのを園芸植物の権威松崎直枝の『趣味の樹木』(1932年)によって用いられ、以後、この泰山木が主流になったと言われる。大盞木とも書かれる。

 庭園樹や公園樹として植えられることが多く、樹木の多い公園で見られる。大和(奈良県)では広陵町の馬見丘陵公園に観察しやすい個体がある。 写真はタイサンボク。白い花が点々と咲く花期の樹冠(左)、花のアップ(中)、袋果が集まる若い集合果(右)。

     生の意を示唆し泰山木の花

 

<2698> 大和の花 (804) オオヤマレンゲ (大山蓮華)                               モクレン科 モクレン属

                

 寒温帯域(大和(奈良県)で言えば、最も寒冷な気候帯に当たる大峰、台高山脈の標高1500メートル以上の深山)に自生する落葉低木で、高さは大きいもので5メートルほどになる。樹皮は灰白色。葉は長さが6センチから20センチの倒卵形または広倒卵形で、先は短く尖り、縁に鋸歯はなく、裏面は白色を帯びる。2センチから4センチの葉柄を有し、互生する。

 花期は6月から7月ごろで、葉の展開後の枝先に直径5センチから10センチの白い1花を横向き乃至はやや下向きにつける。花には花被片が9個から12個見られ、外側の3個は短く萼状で、内側の6個から9個は花弁状になる。雄しべ多数が雌しべ多数を囲んで花の中央に立ち、淡紅色を帯びたその姿には仏塔パゴダが想像される。微かに香る花もあり、咲き始めの花は清々しい感がある。実は袋果が集まった集合果で、秋に熟す。

 本州の関東地方以西、四国、九州、屋久島まで点在的に分布し、中国にも見られると言われる。殊に大和(奈良県)の大峰山脈の産地はよく知られ、近畿の最高峰八経ヶ岳(1915メートル)周辺から南の明星ヶ岳(1890メートル)、北の弥山(1895メートル)の一帯は世界に類例を見ない大群落地として昭和3年(1928年)、国の天然記念物に指定された。その後、シカによる食害が著しく、壊滅的打撃を受け、激減して絶滅が懸念され、環境省は奈良県や地元天川村等の協力を得て、シカ避けの防護柵やネットを張り巡らし、トウヒやシラビソなどの貴重種も合わせオオヤマレンゲの保護対策に乗り出した。

 また、奈良県のレッドデータブックは絶滅寸前種に、近畿地方においても絶滅危惧種Bにあげ、保護の啓蒙に努め、現在に至る。結果、防護ネット内では生育状況がよく、絶滅のピンチを脱した感がある。しかし、他の植生にも言えることであるが、地球温暖化や酸性雨等の悪影響も考えられることから手放しで喜べるところまでには至っておらず、これからも十分な観察が必要と考えられる。

 別名はミヤマレンゲ(深山蓮華)。また、中国名に由来する天女花の名でも呼ばれる。 写真はオオヤマレンゲ。霧の晴れ間に花を見せる個体(左)、花のアップ(中)、袋果が集まった集合果(右)。いずれも八経ヶ岳の自生地。   大峰山大山蓮華天女花

<2699> 大和の花 (805) ユリノキ (百合の木)                                       モクレン科 ユリノキ属

                    

 北アメリカ原産の外来種で、明治時代初期に渡来。各地に植えられ、最近、公園などでよく見かける落葉高木で、幹は直立し、高さが20メートル以上に及ぶものもある。樹皮は灰褐色で、縦に浅く裂ける。葉は長さ幅とも10センチから15センチほどで、縁に大きな切れ込みがある独特の形をしている。質は薄く、両面とも無毛で、3センチから10センチの長い葉柄を有し、互生する。

 花期は5月から6月ごろで、枝先の葉腋に微かな芳香のある直径5センチから6センチのチューリップ形の1花を上向きに開く。花被片は9個で、外側の3個は緑白色の萼片状、内側の6個は淡黄緑色の花弁状で、基部にオレンジ色の斑紋が入る。雄しべは線形で、多数が円柱形の花床につく雌しべ多数を囲み、花を形成する。実は翼果が集まった集合果で、秋の遅くに熟し、風によって飛散する。

 街路樹や公園樹として植えられ、大和(奈良県)では公園に植えられているケースが多く、公園樹の印象が強い。ユリノキ(百合の木)の名は花の姿によるもので、別名のチューリップノキも同様、学名のLiriodendron tulipiferaはチューリップのようなユリの木の意。また、ハンテンノキ(半纏の木)とも呼ばれるが、これは大きい葉の形に半纏をイメージしたことによる。  写真はユリノキ。新葉の展開後に花期を迎えた樹冠(左)、花のアップ(中・ミツバチが来ていた)、花と翼果が同時に見られる花期の樹冠(右)。

  百合の木の花高く咲き日傘行く

 

 

 

 

 

 


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