<1091> アシナガバチの巣
ゆく夏や 足長蜂は 巣にゐたり
我が家にはアシナガバチが棲みついている。よく巣が見つかる。というよりも、アシナガバチは襲って来るというイメージを持っている庭いじりをよくする妻がアシナガバチの飛ぶのを見て、巣を見つけ出すというのが正しい。身近を飛ばれると怖いらしく、かなり気にしている。この妻のアシナガバチに対する動向はほぼ毎年のことであるが、一度は戸袋の中、一度はク―ラ―の室外機の内側にといった具合で、今年はニ階のベランダの下側に巣を見つけた。昨年は隣家の石垣の間に作っていた。
巣は幼児の握り拳ほどの大きさで、十匹ほどがその巣に取りついて巣を守っているように見える。頭上の高いところなので妻には手出しが出来ないようで、巣はそのままになっている。昨年も隣家の石垣だったのでこの巣も手出しが出来なかった。だが、石垣の巣はいつの間にかなくなった。誰か処分したのだろう。私には子供のころから馴染みのあるハチなので、直ぐ傍を飛んでいても全く気にならない気安さがある。アシナガバチも我が家が棲みよいからやって来るのだろうというぐらいに思っている。
アブの類は人を目がけて襲って来るから要注意であるが、アシナガバチはこちらが何も仕掛けなければ襲って来ることはまずない。人間の側から言えば、ハエやカの方が始末に負えない。ミツバチでもハナバチでも花があればやって来る。それだけのことで、何も手出ししなければ無害なハチたちである。もちろん、スズメバチやクマバチのような攻撃的で、刺されると被害が甚大なハチには注意が必要で、駆除することも止むを得ないが、アシナガバチは見かけほど怖いハチではない。
昨年同様、妻には今年もあきらめ気味であるが、アシナガバチには平穏な日々が続いていると言えようか。人間でも同じようなものであるが、敵対すれば如何なる場合もその関係はよくなくなり、争いごとになる可能性が強くなる。攻撃されれば、防御に止まらず、やり返すというのが常で、それが生き死に関わるほどであれば、弱い立場の虫でも抵抗して来ることになる。
無暗な排除などはせず、アシナガバチの棲息の場も提供してやるのがよいように思われるが、アシナガバチに恐怖心を抱いている妻には、この考えになかなか得心がいかないようである。ということで、生は葛藤、妻とアシナガバチには冷戦状態で、私は傍観者を決め込んでいるといった具合である。 写真はニ階ベランダの裏側に作られたアシナガバチの巣。 夕青き微光の中をあがりゆく足長蜂は足を垂らせり (北原白秋)