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ドル崩壊を自ら加速化させるアメリカ


『コールダー・ウォー』より

アメリカは無意識にであるかもしれないが、自らの首を絞めるような政策でドルの弱体化を早めている。アメリカの経済制裁が結果的にそのようなマイナスの影響を生んでいる。イランに対しては核開発を牽制するため経済制裁を科している。これに同調する国は同国からの石油輸入をやめた。二〇一三年十一月にプーチンの仲介で制裁が若干緩まっているが制裁そのものは続いている。

イランに対しては軍事行動は難しい。イランはイラクとは違う。仮にイランをペルシャ湾から攻撃すれば死を覚悟した戦闘機が現われるだろう。それがホルムズ海峡を通るタンカーを狙うだろう。世界の石油取引の二〇パーセント相当がこの海峡を通るタンカーによって運ばれている。アメリカがイランを攻撃すればロシアも動かざるを得ない。

イランヘの経済制裁にはヨーロッパとアジアの一部が加わり、イランからの石油輸入を完全にやめたり輸入量を減らした。その結果イランの石油輸出量は半減した。しかしイランは屈していない。

石油は金銭に換えやすい。いったんイラン国外に石油が持ち出されれば、その出所を確定することは困蝋だ。タンカーや貨物船で運ばれる場合でも難しさは変わらない。国際法では、貨物船はその位置を衛星に知らせる信号を出すことが決められているが、しかし何らかの安全上の問題があり、登録している国の許可があれば、その機器を止めても構わないことになっている。イランの所有する三十九のタンカーのほとんどが信号を送るのを停止している。現在イランのスーパータンカーで位置を知らせているのはわずか七隻だ。スエズマックスサイズ(スエズ運河を航行できる最大のサイズ--およそ一六万トン)のタンカーでも同様に七隻しかない。

イランのタンカーに積載された石油はどこかに消えている。誰もその消えた先を語ろうとしない。イランには中国に発注した十二隻のスーパータンカーが納入されている。このタンカーで運ばれる石油もどこかに消えていく。

イランは制裁の抜け道を知っている。それでもイランには高いものについている。イランが使うこうしたタンカーの運賃はバーレル当たり二ドル五十セントから四ドルのコストがかかる。また保険料も高い。制裁参加国の保険会社は利用できない。引き受けるのは中国かロシアの保険会社である。また買い手も売主(ナショナル・イラン石油会社:NIOC)の足元を見る。支払いまでに半年という条件もあるが、その場合イラン側が負担するコスト増はバーレル当たり五ドルからハドルとなる。このような諸経費は一回のタンカーでの輸出で得られる収入の一〇パーセントから一二パーセントにも達する。

経済制裁は買い手も束縛する。イランヘの送金ができない。SWIFTシステムによる支払いが拒否されるからだ〔訳注:SWIFTは国際銀行間通信協会の略、世界の銀行送金網のこと〕。

アメリカ主導の経済制裁に協力しない国は多い。正面きって経済制裁に反対する国もあれば、表面上は協力を約束しながら抜け道を使って取引を続ける国もある。第三国経由で支払うのである。この取引には中国が協力的である。また経済制裁するにはあまりにイランの石油に頼り過ぎている国もある。第一にインド、次に中国そして韓国が続く。イランからの石油が止まれば経済への悪影響が避けられない。

経済制裁を潜り抜けてイランとの取引を進めるやり方は芸術の域に達している。テクニックの大半はイランが考え出したものである。インドとの取引では金とインドルピーを使う。中国との取引は同額の中国製品である。韓国もひそかにイランに対して自国通貨で支払っている。

トルコとの取引では次のようなトリックが使われた。二〇二一年三月から一三年七月にかけて、トルコは百三十億ドル相当の金塊をテヘランに直接またはアラブ首長国連邦経由で送った。トルコは天然ガスや石油の買い付けに自国通貨リラで支払った。経済制裁でドルでの支払いができなかったためである。イランはそのリラで、トルコがすでにテヘランに送ってあった金塊を買い付けた。トルコは自国通貨をテヘランの同胞に送金しただけだと主張することで制裁のルールに違反しないと主張した。この取引にはトルコ国営ハルク銀行も関与していた。このやり方を知ったアメリカは二〇一三年一月以降の取引にはこれにも経済制裁の輪をかけた。

次に考えられたテクニックはバーター取引だった。イランはロシアとの間で月十五億ドルを上限にバーター取引を決めた。ロシアは自国の製品との引き換えで日々五〇万バーレルを引き受けたのである。ロシア自身はイラン産石油は不要なのでそのまま輸出に回し、支払いはルーブルで受けるのである。アメリカはロシアに抗議し、イラン産石油に対する締め付けを強化した。今後どのようなやり方が出てくるかは誰にもわからない。イラン産石油を積載したロシア・タンカーをアメリカが接収することはあるのだろうか。そんなことになれば米口の軍事衝突の可能性まで出てくる。

いずれにせよイランは、ドルを介さない国際貿易を認める友国との取引で生き延びている。ドル取引を前提とした対イラン制裁には抜け穴がある。その抜け穴を突いてイランのタンカーは石油を運んで行き来する。これが皮肉にも、イランにもその石油を仕入れる国々にも、どうやったらドルを介在させない石油取引が可能かを学ぶ教材を提供しているのだ。他の国も彼らのやり口を興味深く見ている。

アメリカの対イラン制裁は自らの傷口を広げている。ペトロダラーの強みを使った制裁が、結果的にその強みを消す方向に動いている。アメリカの過剰介入を嫌う国々に、ドルヘの依存から離脱する機会を与えることになってしまっている。アメリカはドルを使って圧力を行使することで逆にドルの弱体化を招いている。アメリカのウクライナを巡っての経済制裁も、対イラン制裁と同様の結果を生んでいる。

二〇一四年三月、カザフスタンのロシア大使館がソガス保険グループにJPモルガン銀行(ニューヨーク)を使って送金しようとしたが拒否された。これに憤ったプーチンはダブルイーグル・プロジェクトを発動した。このプロジェクトはロシア版国際経済システムを構築することが目的である。SWIFT(国際銀行間通信協会)に代わるシステムである。

ロシアは石油産出国に金による価格設定を要請している。これが成功すれば石油産出国も不換紙幣のドルやユーロからの離脱が可能となる。ロシアの金保有量は十分だ。ロシアの動きをBRICSは後押ししている。ロシア外務省は現行のSWIFTによる国際決済システムこそがドルを構造的に支えている接着剤だと分析している。ロシア版SWIFTが完成すれば、SWIFTなど二週間もすれば破壊できると豪語する。BRICS諸国も新システムを躊躇なく利用するだろうと期待しているのである。

アメリカの経済制裁にロシアは怒り心頭である。ロシア国会上院議長ワレンチナ・マトヴィエンコ(女性)の言葉にそれがはっきりと表われている。「石頭で低能な連中は二〇〇八年に何かあったかもう忘れている。あのリセッションで世界はいまだに苦しんでいるのだ。あれはアメリカ、イギリスなどの金融機関の崩壊から始まった。ロシアに対する金融制裁を行なえば制裁する側も返り血を浴びることを覚悟しなくてはならない。ほんのちょっとしたミスがあれば、ブーメランとなって、分からず屋の未開人程度の頭しかない連中を傷つけるだろう」
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認知症 九大法則

『認知症』より 九大法則

 記憶障害(上) 物忘れは正さないで

  同じ話を何度も聞き返したり、家族の顔や自分の家が分からなくなるI高齢者にそんな症状が見られたら、家族や周囲の人はどう対応したらよいのか困惑します。

 記憶障害(下) 過去の世界に逆戻り

  認知症をよく理解するための第一の法則--「記憶障害」に関する法則には前節でのべた二つ以外にもう一つあります。「記憶の逆行性喪失」です。

 症状の出現強度 身近な人にほど「意地悪」に

  認知症をよく理解するための第二の法則は、「症状の出現強度」に関する法則です。認知症の症状が「身近な人に対してより強く出る」という特徴です。

  「捜しているものが見つからないと『あんたが隠したんでしょう』と疑うのです。そのくせ、よその人に対してはしっかりした対応ができるのです。私をわざと困らせているに違いありません」と訴える介護者は非常に多くいます。

 自己有利 あからさまなウソは症状

  認知症をよく理解するための第三の法則は、「自己有利」の法則です。「自分にとって不利なことは絶対認めない」という特徴です。

  「大事なものがない」と大騒ぎ。家族も一緒になって捜すと、認知症の人が使っている引き出しの中から見つかったー。

 まだら症状 異常な言動は割り切って

  認知症をよく理解するための第四の法則は、「まだら症状」の法則です。

  認知症には、「正常な部分と、症状として理解すべき部分が混在する」という特徴があります。初期から末期まで見られ、これを「まだら症状」の法則と呼んでいます。

  認知症の人は、常に異常な行動ばかりするわけではありません。認知症の初期には、大部分はしっかりしていて、時々異常な言動をします。そのため周囲の人はその異常な言動を認知症の症状ととらえることができず、混乱に陥り、振り回されます。

 感情残像 よい感情が残る接し方を

  認知症をよく理解するための第五の法則は、「感情残像」の法則です。

  認知症の人は、第一の法則「記憶障害」に関する法則が示すように、自分が話したり、聞いたり、行動したことはすぐに忘れてしまいます。

  しかし、感情の世界はしっかりと残っています。瞬間的に目に入った光が消えたあとでも残像として残るように、その人がその時抱いた感情は相当時間続きます。このことを、「感情残像」の法則と言います。

 こだわり 割り切った対応が必要

  認知症をよく理解するための第六の法則は、「こだわり」の法則です。

  「あるひとつのことに集中すると、そこから抜け出せない。周囲が説明や説得、否定をすればするほど、逆にこだわり続ける」という特徴が、その内容です。

 九大法則⑦ 作用・反作用 介護者の心が鏡のように反映

  認知症をよく理解するための第七の法則は、「作用・反作用」の法則です。

  認知症の人に対して強く対応すると、強い反応が返ってきます。認知症の人と介護者の間に鏡を置いて、鏡に映った介護者の気持ちや状態が、認知症の人の状態です。

  介護者がイライラ、カッカしていると、認知症の人もイライラ、カッカします。介護者が余裕を持って穏やかな対応ができるようになると、本人も穏やかになります。これを、「作用・反作用」の法則と名付けました。

 症状の了解可能性 相手の立場で不安を理解

  認知症をよく理解するための第八の法則は、「症状の了解可能性」の法則です。

  認知症の症状のほとんどは、認知症の人の立場に立ってみれば十分理解できるものである、という内容の法則です。老年期の知的機能低下の特性、認知症の人の生活歴、第一~第七法則で紹介したような認知症の特徴を考えれば了解できます。

 九大法則⑨ 衰弱の進行 老化の進行が二~三倍速い

  認知症をよく理解するための第九の法則は、「衰弱の進行」の法則です。「認知症の人の老化の速度は非常に速く、認知症でない人の二~三倍のスピードで進行する」という特徴を言います。
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「うまくいく人」の人生観

『うまくいく人がやっている100のこと』より

 「うまくいく人」の人生観

 倫理観をしっかり持つ

  たとえ法に触れなくても、社会常識や社会通念に照らし、「これはあやしい」と思えたら、儲けにつながる話でも受け入れてはならない。明らかなルールがない領域で明確な判断を下さなければならないのが経営者。だから、高い倫理性が求められるのだ、と。

 目先の損得で判断しない

  できるだけ目先の損得で判断しない、と語っていた人は少なくありませんでした。これは割に合わなさそうだからやめよう。自分に後で返ってこないかもしれないからやめておこう。やったところで自分にプラスにはならないだろう……。そういう考え方をしないのです。

 いつも試されていると知つている

  お金持ちになれる人となれない人の違いはどこにあるのか、という問いかけに、お金持ちになる準備ができているかどうかだ、と答えた人がいました。思わず納得してしまいました。

 謙虚である難しさを認識する

  著名な成功者にたくさん会ってきて何よりも感じるのは、みなさん驚くほど謙虚なことです。ソファにふんぞり返っているような態度の人がいなかったわけではありませんが、そういう人は成功者の座に長くはとどまれませんでした。それこそ、試されていたのです。神様は本当によく見ているんだな、と思ったのを覚えています。

 大きな夢を持っている

  小さな目標を持ってコツコツと成長し、充実感のある人生を目指していくのも、ひとつの方法。一方で、遠大な目標を持って、それを自分に問いかけながら大きな成長を目指していくのも、ひとつの方法。どちらを選ぶかは、性格にもよるのかもしれません。

 性急に結果を求めない

  まずは、やるべきことをしっかりやる。目先の結果ばかり求めていたら、それもおろそかになる。うまくいっている人たちは知っています。やるべきことをしっかりやってさえいれば、いずれ大きな結果が待っている、と。

 変化を求め、変化を楽しむ

  世の中はどんどん変化していきます。まわりが変わっているのに、自分が変わらなければどうなるか。置いて行かれることになる。安定は心地いいものだけれど、そこに浸っていたら危険なのです。

 自分はツイている、と思う

  自分は運がいい、と思っている人は、起きていることすべてを幸運に結びっけて考えます。一見、不運に思える出来事も幸運だと思ってしまう。なぜなら、長い目で見れば、それは幸運かもしれないから。就職が決まったときに感じた幸運は、その会社が倒産したときには不運に変わります。起きていることが本当に幸運だったか不運だったかというのは、先になってみないとわからないのです。

 無駄な経験は何ひとつないと知る

  もとより、人生は自分の思い通りに行くはずなどありません。思いがけない出来事が次々に襲ってくるのが当たり前、と思ったほうがいい。大事なのは、そのときにどう自分の気持ちをコントロールするかです。

 成功ではなく幸せを目指す

  成功を目指すのか、それとも幸せを目指すのか。きちんと考えておいたほうが良さそうです。理想的なのは、成功もして幸せにもなること、かもしれません。いずれにしても、ゴールは幸せになること。それを忘れないようにして生きていくのが大切。これもまた、取材で教わった心得のひとつです。

 人生は有限と知っている

  明日も今日と同じようにやって来る、と思ってしまいがちですが、まったくそうではないのです。明日がやって来ない人もいる。それは現実。だから、いつでも後悔することのないよう、今日を大事にしなければいけないのです。

 ものごとを善悪で判断できる

  だから、この人間性をこそ立派にしないといけない。そうでなければ、人の上に立つことなどできないし、人を動かすこともできない。では、人間性が高い人とはどういう人か。経営者は言っていました。損得ではなく、善悪でものごとを判断できる人だ、と。自分にとって損か得かではなく、人間として何か正しいのか、という善悪を判断基準にできる人。自分にとっては不利益でも、それが善であれば選択できる。そんな心の持ち主である、と。

 夢や思いを周囲に語る

  目指すべき夢や思いがあるのなら、周囲に語ったほうがいい、と言っていた成功者は少なくありませんでした。理由はシンプルです。そうしたほうが、周りの支援を得られる可能性が高いから。目指しているものがわからないと、サポートのしようがありません。もし知っていたなら、その夢はこんなふうに応援できるよ、ということになる。こうした力が積み重なれば、大変なパワーになる可能性があるのです。

 偶然を大切にする

  実際、人生はつながっています。ひょんな出会いが、後にびっくりするほど大事なものになったりする。あのとき、あのご縁がなかったら今はどうなっていたか、と思えるような出来事となったりする。

  まずは偶然を大切にする。そこから人生は開けていくのです。

 努力しないという選択肢はない

  いずれにしても、努力をしないという選択肢はないのです。ならば、楽しんでしまったほうがいい。努力を楽しむ方法を見つけたほうがいい。それができるかどうかが未来を分ける、のかもしれません。

 自分の幸せが定義できている

  成功するとはどういうことなのか、うまくいく人は何か違うのか。そんな疑問を頭に置いてたくさんの人に取材してきて、間違いなくひとつわかったことかありました。それは、誰でも幸せになれるし成功できる、ということです。なぜか。成功も幸せも、誰かが決めるものではない。自分が決めるものだからです。

 すべては心が決めている、と知っている

  それこそ世の中は、自分の意識が決めているのです。だから、いつもポジティブでいょうとすることです。できる限り、ポジティブな見方をしようとする。そうすれば、世の中はポジティブになるのです。うれしい出来事にもたくさん出会える。たとえ苦しいこと、嫌なことがあっても、ポジティブにとらえられれば、後の糧にできる。ものごとが違って見えてくるのです。
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ドイツ人のいう「ルール」とは?

『逆流するグローバリズム』より ドイツの過剰な「ルール至上主義」

それでは、ドイツの経済観はどのようなものか? 金融危機が起こるまでは、それはどうでもよい問題だったのです。ユーロという共通通貨のおかげで、欧州全体にまたがる資本取引が自由な地域ができた。そうなると、スペインとか、アイルランドとか、投資が有望な新興地域に目がいき、伝統的な生産システムの下で、伝統的な生活を送っているドイツ国民のことは、灰色で面白くない存在として映る。実際、ドイツに投資をするといっても、どこに投資したらよいかわからないわけです。こんな面白くもなんともないマーケットのことなど、関心をもつ人がいるのか?

ところが、金融危機が起こってこれがガラリと変わります。突然、ドイツが危機に立ち向かうリーダーとして浮上してきた。他の国もマーケットに攻撃されるのがいやだったら、ドイツを見習わなければならないことになる。もはやユーロ圏には、フランス的文化も、イタリア的文化も、スペイン的文化もない。一流のドイツ人(ここに入るのはドイツ人だけでしょう)、一流半のドイツ人(ここにはオーストリアとか、オランダとか、ルクセンブルクとか、文化的近似性の大きい国が入ります。あまり文化的近似性はないかもしれませんが、最近この仲間に入るために積極的に売り込んでいるフィンランドも入る)、二流のドイツ人(フランスとか、ペルギーとか)、三流のドイツ人(イタリアとか、スペインとか)、それに非ドイツ人(ギリシャとか)がいるだけということになる。

え、面白い話だが、どこに根拠があるのか? いや、いまのはユーロ圏各国の国債の格付け、それにドイツ国債の金利に対するスプレッドに従って、ユーロ圏の国を整理してみたのです。格付けとスプレッドはだいたい対応しています。スプレッドというのは、最近はユーロ圏の国の新聞にはしょっちゅう出てくる言葉で、イタリアの新聞にもイタリア語に翻訳しないで、「スプレッド」とそのまま出てきます。

それが何か? 要するに、ドイツにどれだけ近いかについてのマーケットの評価なのです。スプレッドが下がれば、ドイツ人に一歩近くなったとマーケットに認められたわけで、赤飯を炊いて祝うべき話です。ユーロ圏の各国が、どれだけドイツ人に近づけるかのコンテストに熱中するようになったのは、資本取引における国境の障壁を全部取り払って、しかも通貨まで共通にしたからなのですね。

それでも金融危機が起こるまでは、マーケットはそこまで「ドイツ性」を評価しなかった。ドイツのドレスデンに投資するより、スペインのバルセロナに投資するほうが、気が利いているとドイツの銀行でも考えたわけです。それが、危機が起こるとスプレッド一色の世界になる。これで危機が収まったらどうなるでしょう。必ずしも「ドレスデンよりバルセロナ」という感覚には戻らないような気がします。

少なくともマーケットに危機の感覚が残っている現状で、共通通貨の下で欧州がまがりなりにも機能していくためには、欧州国民の行動が「ドイツ的な規範」に従って規律付けられなければなりません。一時は、そのように自然になっていくだろうと思われたのですが、二〇一五年一月のギリシャ総選挙の結果、ギリシャではドイツのヘゲモニーに反旗を翻す政権が誕生した。ところがこの政権は、あまりに手際がまずいために、いまや逆に追い込まれています。

もしそこでギリシャのユーロ離脱が発生するなら、ユーロ圏に一つの原則が確立することを意味します。それは、「非ドイツ人はユーロ圏を出なければならない」ということです。

いまは欧州で危機感覚が緩んでいるようにみえて、たとえ「Grexit」が起こっても、他の国は、問題国も含めあまり影響を受けないだろう、とタカをくくっているようなところがあります。いや、Grexitはたいへんでしょう。たちまちマーケットは「ギリシャの次に非ドイツ的な国はどこか」を探しはじめるでしょう。そうなればドイツ的な「規範」を受け入れることが、各国にとっての死活問題になります。

ではいったい、「ドイツ的規範」とは何なのか? はっきりいって、少なくとも表面上は悪いものではありません。合理的な規範といってよいと思います。でもそれは当然でしょう。合理的でなかったら、ドイツ人白身がそれに従うわけがない。ドイツ人はこの規範を他の国も受け入れるべきだと考えています。別にドイツに固有な規範ではなく、ドイツ人だけが受け入れられるというようなものでもない。だから欧州の国はすべてこの規範を受け入れるべきだ、と彼らは心の底から信じているのです。

いったいその規範とは何かといったら、みなさんびっくりされるでしょう。「そんなことなの!」といって。要するに、その規範とは「ルールを守れ」ということなのです。なんだ当たり前じゃないか、と思いませんでしたか? 実際、日本だって「交通ルールを守りましょう」くらいはいうだろう。警察だって、そういうポスターをつくっているじゃない、と。

ところが、ドイツが「ルールを守れ」というとき、それはどこかのんびりした日本の交通ルールと、ちょっと違うんです。ドイツのいうルールは、どんなときでも、どんなことがあっても守らなければならない。「運転するときにシートベルトをしなければいけないことはわかっているけど、すぐ先のコンビニだから」といって、シートべルトをしない。そういうことが、ここでは許されないわけです。

「非救済条項」をめぐっての、ドイツとECBのやりとりを思い起こしてください。パニックによって金利が急騰した問題国を助けるためだろうと、デフレを防ぐためにECBが量的緩和をするのだろうと、ともかくECBが国債を大量に購入することを、ドイツ人は受け入れないのです。中央銀行が国債を購入したというだけで、もうダメ。理由が何であれ、それは「非救済条項」という大事なルールが侵されることを意味するのです。もちろんルール違反の懸念がある以上、憲法裁判所に提訴することが国民の義務だと考えるわけです。それでもし憲法裁判所が、ルール違反があったと評決した場合、ドイツはユーロ圏を速やかに脱退しなければならない。

どうです。「運転をするときにはシートベルトをしましょう」というより、いくらか深刻な話だとおわかりいただけたでしょうか。なぜ、ドイツ人はそこまでルールにこだわるのか?そこには国民のアイデンティティが関わっています。

そもそも、アイデンティティというのは、「神話」と密接な関係がある。「神話」とは、自分たちがどういう国家をつくるつもりなのか、どういう価値観をもっているのか、何を理想にしているのか、といったことを、誰もが覚えやすいストーリーにして、国民全体で認識を共有するための手段です。ドイツの神話というと、ヒトラーが好きだったニーべルング伝説とか、英雄ジークフリートとかが思い浮かびますが、いまのドイッ人でそんなものに興味をもっている人はいません。いまのドイッ人は「英雄」なんか崇拝しない。もっと小市民的なのです。              
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豊田市図書館の30冊

134.1『ライプニッツ』知の教科者

121.55『志の見つけ方』話し言葉で読める言志四録

910.2『楽しき日々に』学び直しの古典

124.57『非情のススメ』超訳 韓非子

518.8『リノベーションの新潮流』レガシー・レジェンド・ストーリー

182.1『寺院消滅』失われる「地方」と「宗教」

809.6『論理が伝わる「議論の技術」』世界標準の Win-Winへと導く5つの技法

596.04『ちゃんと食べてる?』おいしさへの51の知恵

674『明日のプランニング』伝わらない時代の「伝わる」方法

673.3『営業スイッチ!』お客様の期待を超え続ける

195.8『修道院の歴史』聖アントニオスからイエスズ会まで

210.5『メディアの展開』情報社会学からみた「近代」

134.2『カントと動力学の問題』

689.4『ツーリズムの都市デザイン』非日常と日常の仕掛け

290.93『ドイツ』地球の歩き方

312.1『戦後ニッポン総理の決断』内閣制130年 戦後70年 池上彰が読み解く!1945-いま

338.23『逆流するグローバリズム』ギリシャ崩壊、揺らぐ世界秩序

316.81『ヘイトスピーチ』「愛国者」たちの憎悪と暴力

336.2『なぜあの人は定時に帰るのにNo.1なのか?』残業ゼロの仕事術

304『ぼくらの民主主義なんだぜ』

956『ジハーディストのベールをかぶった私』

193.1『文語訳 旧約聖書Ⅰ 律法』創世記 出エジプト記 レビ記 民数紀略 申命記

493.18『呆れたカントに「理性」はあるか』

493.75『認知症』最初に知っておきたい

236ササ『スペイン文化入門』

319.38『コールダー・ウォー』ドル制覇を崩壊させるプーチンの資源戦争

336.49『プレゼンをキメる30秒のつくり方』話し下手でも提案が通る勝ちパターン

159『うまくいく人がやっている100のこと』3000人の成功者に学んだ

222.01『中国史(上)』

289.3『ローラ・ブッシュ自伝』【脚光の舞台裏】
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未唯宇宙は膨大な世界

未唯宇宙は膨大な世界

 つくづく、膨大な世界です。宇宙といっても、まだまだ、小宇宙です。その裏には、文献があります。文献も、自分がOCRしたものだけを対象にしているけど、その後ろにはザナドゥ空間を為す、本の空間があります。

 それらが空間上に配置されている。体系だっていない。体系を付けるつもりはない。空間上でどうやって見ていくかです。半順序で、大小はあるけど、見る時に、その都度、空間はできていく。宇宙に体系がないのと同じように。ただし、バラつきはあります。まずは、心の底から反映を味わいましょう。

時間の無駄使い

 孤独だからと言って、時間の無駄使いはやめましょう。心をもっと、自由にさせよう。

 なぜ、テレビに期待するのか。孤独に耐えないからなんでしょう。そこには何もないのに。人間の悪意しかないのに。

 土日の朝は7時から、スタバに行きましょう。一日を有効活用。

幻想を潰す

 日本という国民国家という幻想をいかに潰すか。フェースブックを見ていても、その範囲の中に居ます。膨大な未唯宇宙にひとりで立ち向かう。

 反映のダイジェスト版を見ていると、言語空間です。当然ながら、ディストビュートな空間です。やはり、動くとしんどいですね。
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