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ドル崩壊を自ら加速化させるアメリカ


『コールダー・ウォー』より

アメリカは無意識にであるかもしれないが、自らの首を絞めるような政策でドルの弱体化を早めている。アメリカの経済制裁が結果的にそのようなマイナスの影響を生んでいる。イランに対しては核開発を牽制するため経済制裁を科している。これに同調する国は同国からの石油輸入をやめた。二〇一三年十一月にプーチンの仲介で制裁が若干緩まっているが制裁そのものは続いている。

イランに対しては軍事行動は難しい。イランはイラクとは違う。仮にイランをペルシャ湾から攻撃すれば死を覚悟した戦闘機が現われるだろう。それがホルムズ海峡を通るタンカーを狙うだろう。世界の石油取引の二〇パーセント相当がこの海峡を通るタンカーによって運ばれている。アメリカがイランを攻撃すればロシアも動かざるを得ない。

イランヘの経済制裁にはヨーロッパとアジアの一部が加わり、イランからの石油輸入を完全にやめたり輸入量を減らした。その結果イランの石油輸出量は半減した。しかしイランは屈していない。

石油は金銭に換えやすい。いったんイラン国外に石油が持ち出されれば、その出所を確定することは困蝋だ。タンカーや貨物船で運ばれる場合でも難しさは変わらない。国際法では、貨物船はその位置を衛星に知らせる信号を出すことが決められているが、しかし何らかの安全上の問題があり、登録している国の許可があれば、その機器を止めても構わないことになっている。イランの所有する三十九のタンカーのほとんどが信号を送るのを停止している。現在イランのスーパータンカーで位置を知らせているのはわずか七隻だ。スエズマックスサイズ(スエズ運河を航行できる最大のサイズ--およそ一六万トン)のタンカーでも同様に七隻しかない。

イランのタンカーに積載された石油はどこかに消えている。誰もその消えた先を語ろうとしない。イランには中国に発注した十二隻のスーパータンカーが納入されている。このタンカーで運ばれる石油もどこかに消えていく。

イランは制裁の抜け道を知っている。それでもイランには高いものについている。イランが使うこうしたタンカーの運賃はバーレル当たり二ドル五十セントから四ドルのコストがかかる。また保険料も高い。制裁参加国の保険会社は利用できない。引き受けるのは中国かロシアの保険会社である。また買い手も売主(ナショナル・イラン石油会社:NIOC)の足元を見る。支払いまでに半年という条件もあるが、その場合イラン側が負担するコスト増はバーレル当たり五ドルからハドルとなる。このような諸経費は一回のタンカーでの輸出で得られる収入の一〇パーセントから一二パーセントにも達する。

経済制裁は買い手も束縛する。イランヘの送金ができない。SWIFTシステムによる支払いが拒否されるからだ〔訳注:SWIFTは国際銀行間通信協会の略、世界の銀行送金網のこと〕。

アメリカ主導の経済制裁に協力しない国は多い。正面きって経済制裁に反対する国もあれば、表面上は協力を約束しながら抜け道を使って取引を続ける国もある。第三国経由で支払うのである。この取引には中国が協力的である。また経済制裁するにはあまりにイランの石油に頼り過ぎている国もある。第一にインド、次に中国そして韓国が続く。イランからの石油が止まれば経済への悪影響が避けられない。

経済制裁を潜り抜けてイランとの取引を進めるやり方は芸術の域に達している。テクニックの大半はイランが考え出したものである。インドとの取引では金とインドルピーを使う。中国との取引は同額の中国製品である。韓国もひそかにイランに対して自国通貨で支払っている。

トルコとの取引では次のようなトリックが使われた。二〇二一年三月から一三年七月にかけて、トルコは百三十億ドル相当の金塊をテヘランに直接またはアラブ首長国連邦経由で送った。トルコは天然ガスや石油の買い付けに自国通貨リラで支払った。経済制裁でドルでの支払いができなかったためである。イランはそのリラで、トルコがすでにテヘランに送ってあった金塊を買い付けた。トルコは自国通貨をテヘランの同胞に送金しただけだと主張することで制裁のルールに違反しないと主張した。この取引にはトルコ国営ハルク銀行も関与していた。このやり方を知ったアメリカは二〇一三年一月以降の取引にはこれにも経済制裁の輪をかけた。

次に考えられたテクニックはバーター取引だった。イランはロシアとの間で月十五億ドルを上限にバーター取引を決めた。ロシアは自国の製品との引き換えで日々五〇万バーレルを引き受けたのである。ロシア自身はイラン産石油は不要なのでそのまま輸出に回し、支払いはルーブルで受けるのである。アメリカはロシアに抗議し、イラン産石油に対する締め付けを強化した。今後どのようなやり方が出てくるかは誰にもわからない。イラン産石油を積載したロシア・タンカーをアメリカが接収することはあるのだろうか。そんなことになれば米口の軍事衝突の可能性まで出てくる。

いずれにせよイランは、ドルを介さない国際貿易を認める友国との取引で生き延びている。ドル取引を前提とした対イラン制裁には抜け穴がある。その抜け穴を突いてイランのタンカーは石油を運んで行き来する。これが皮肉にも、イランにもその石油を仕入れる国々にも、どうやったらドルを介在させない石油取引が可能かを学ぶ教材を提供しているのだ。他の国も彼らのやり口を興味深く見ている。

アメリカの対イラン制裁は自らの傷口を広げている。ペトロダラーの強みを使った制裁が、結果的にその強みを消す方向に動いている。アメリカの過剰介入を嫌う国々に、ドルヘの依存から離脱する機会を与えることになってしまっている。アメリカはドルを使って圧力を行使することで逆にドルの弱体化を招いている。アメリカのウクライナを巡っての経済制裁も、対イラン制裁と同様の結果を生んでいる。

二〇一四年三月、カザフスタンのロシア大使館がソガス保険グループにJPモルガン銀行(ニューヨーク)を使って送金しようとしたが拒否された。これに憤ったプーチンはダブルイーグル・プロジェクトを発動した。このプロジェクトはロシア版国際経済システムを構築することが目的である。SWIFT(国際銀行間通信協会)に代わるシステムである。

ロシアは石油産出国に金による価格設定を要請している。これが成功すれば石油産出国も不換紙幣のドルやユーロからの離脱が可能となる。ロシアの金保有量は十分だ。ロシアの動きをBRICSは後押ししている。ロシア外務省は現行のSWIFTによる国際決済システムこそがドルを構造的に支えている接着剤だと分析している。ロシア版SWIFTが完成すれば、SWIFTなど二週間もすれば破壊できると豪語する。BRICS諸国も新システムを躊躇なく利用するだろうと期待しているのである。

アメリカの経済制裁にロシアは怒り心頭である。ロシア国会上院議長ワレンチナ・マトヴィエンコ(女性)の言葉にそれがはっきりと表われている。「石頭で低能な連中は二〇〇八年に何かあったかもう忘れている。あのリセッションで世界はいまだに苦しんでいるのだ。あれはアメリカ、イギリスなどの金融機関の崩壊から始まった。ロシアに対する金融制裁を行なえば制裁する側も返り血を浴びることを覚悟しなくてはならない。ほんのちょっとしたミスがあれば、ブーメランとなって、分からず屋の未開人程度の頭しかない連中を傷つけるだろう」
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