『29歳で図書館長になって』より
資料購入費の使い方
資料の購入費は中長期的な視点に立って計画的に使わなければならない。一年だけで考えるのではなく、どのような品揃えにするのか計画を作る。来館者の反応を見ながら計画の継続・修正をおこなっていく。資料購入費は商品を買って陳列するための貴重な原資である。本やCDを買って棚に並べることは、服や靴のセレクトショップで働くバイヤーの仕事に似ている。
資料購入費に関わる用語は整理する必要がある。実は人によって捉え方が若干違っている。まず、資料購入費といった場合は図書館資料の購入に費やす総称である。これから本を買う図書費、新聞や雑誌を買う新聞雑誌費、CDやDVDを買う視聴覚資料費などに大きく分かれる。「資料費が減った」と誰かが言ったときに資料購入費を指すのか、それとも図書費だけが減ったのか確認をしたほうがいい。次に図書費は装備費を含んでいるのか否か確認をしたい。図書館に置いてある本は書店にあるものとは違って図書館名が記されたバーコードや背ラベルなどを貼って、本の表紙を透明のラミネートフィルムで包んでいる。これを業界では「装備」といっている。もちろんお金がかかる。装備費という。仕様や形態によって一冊につき二百十円、二百六十円などの単価になる。前述のように、この装備費が購入経費に入っているか否かは大きい。ほかの自治体と比較するときにA自治体では装備費を含まない金額、B自治体では含んだ金額になっていることがある。事情がわかっていなく「B自治体のほうがA自治体より購入経費が高い」と言っても、実は装備費を除けばA自治体のほうが予算をもっていることもある。資料購入費は業界でもよく話題になっている。議論をするときは注意したほうがいい。特に予算編成の時期には担当者から隣接する自治体と比較されがちである。「うちは近隣の自治体より高いから同じくらいにしてもいいのではないか」と言われたときに、何も知らないと反論もしづらい。
図書の資料選択の方法としては大きく三つある。一つ目は、書店や取次といわれるところから定期的に本が図書館に送られてくるものがある。業界用語で「見計らい」といっている。二つ目は図書館員が書店に行って買う。三つ目は新刊書のカタログを使って買う。この三つをうまく組み合わせれば、資料購入費を適切に使うことができる。筆者は過去に見計らいを経験したことがある。毎週、所定の図書館に各館の担当者が集まって書店から段ボールで送られたものを取り出し、棚に並べて購入するか否かを決める。買わないものは段ボールに詰めて書店に返す。買わない数が多いと段ボールに入れる作業が大変である。全体的に返本が多いと「返本率が高い」と言われる。実際に手に取ってみることができるのはメリットである。しかし、高額な専門書は見計らいからはずされることが多い。たとえば、四千円以上するものが送られてくることは多くはない。返本される可能性が高いからである。特定の分野の本を買いたいときには、書店に行って現物を見たほうが専門書や高額な図書も手に取ってみることができる。新刊図書の買い漏れをなくしたり、どのような本があるのか網羅的に見たいときには新刊カタログが有効である。カタログによっては本の表紙が掲載されていて想像しやすく、簡易な紹介文が記されている。隣にはバーコードがあり、スキャンすることで発注がすみやかにおこなえる。
資料購入費の内訳にも関心をもったほうがいい。資料購入費のなかで図書費は予算が多い。多いため、予算の使い方次第でその図書館のレベルがわかる。新刊書を買って商品の鮮度を保つことは大切である。しかし、出版年が古いからといって安易に新刊書に入れ替えるのではなく、いまもっているものの利用を促すことも考えなくてはいけない。図書館としての得意分野の充実度やレベルを維持していくために、ある程度の蓄積は必要である。半年や一年で使われなくなる本の購入を控えることもあるだろう。情報の速報性という観点から、特定の専門新聞や専門雑誌を購入するために図書費の一部を新聞雑誌費に入れることも考えるべきである。本だけではなく資料購入費の内訳と現状を認識すれば予算を上手に使うことができ、置いてあるものが充実する。
図書館グッズの販売
図書館でも博物館のようにグッズの販売をおこなってみてはどうだろう。理由は二つある。一つは収入のためである。二つ目は図書館のPRである。後者のことについては河合美穂が「外国の公共図書館では、収益を財政に当てるためというより、図書館のPR活動として意義付けしている」と述べている。日本の公立図書館では物販はまだ少ない。今後、それぞれの図書館が地域の特性を生かして販売を実施していくべきである。
大阪市立中央図書館では二〇一三年から一階エントランスにライブラリー・ショップをオープンした。文房具や書籍、食品を販売している。千代田区立日比谷図書文化館には一階に本や文具を扱うショップと、無線LAN完備(コンセントが三十口以上)の六十席のカフェが融合した店がある。山梨県の山中湖情報創造館では○七年からライブラリー・ショップを始めた。山中湖にゆかりのあるものが販売されている。山中湖村在住、あるいは活動拠点にしているアーティストの作品もある。埼玉福祉会は日本図書館協会と提携し、アメリカ図書館協会のグッズを販売している。サイトを見るとマグカップや帽子、傘、カードフォルダーなどさまざまである。
グッズは売れるもの、儲けがあるもの、PR効果があるものにしなければならない。地域の名産や伝統工芸と連携して図書館オリジナルのグッズを作るのもいいだろう。ヒントになるのは大学で販売しているオフィシャルグッズだろう。エコバッグ、クラッチバッグ、クリアファイル、ポストカード、文房具、タオル、ハンカチ、Tシャツなど。図書館で大規模な展示をおこなう場合は博物館のように期間限定の商品を開発するといい。
グッズには図書館のことがわかるような目印を入れる。安易に図書館名だけ入れても売れない。想像してほしい。エコバッグに大きく図書館名が入っていたら使うだろうか。あまり使いたいとは思わないだろう。
目印として図書館を象徴するシンボルマーク、図書館名を象徴的に表現したシンボルロゴ、公式キャラクターなどを考案しグッズに入れる。昔、サブバックとして高級ブランドの小さな紙袋を使うのがはやったことがある。デザインがよく、丈夫である。また、一種のステータスの誇示でもある。高級ブランドとまではいかなくとも、外で使えるもの、「あのロゴはどこの?」「あのキャラクターはなんだろう」と見た人が気になるもの、ちょっとした自慢ができる目印がほしい。
このように売れるグッズを作れば収入もある程度見込める。収入は図書館活動を充実するため、本の購入や家具の購入、新商品の開発費用など多岐に使えるだろう。
地元企業の商品を置く
地元企業と連携して収入を得ることも考えられる。地場産業の支援は役所の部署としては産業振興課になる。図書館でも、地元企業で作っている商品の一部を館内に広告として置く。広告料を企業からもらうのである。自治体の施設のなかでも図書館は多くの人が来館する。来館者は幅広い年齢層だ。新聞やテレビ、チラシなどの広告はいまでも有効だが、見た人の生の反応は見ることはできない。購入があれば反応があったとわかるだけである。地元企業の人が図書館内でチラシを手に取る来館者の様子を観察してみてもいい。消費者の率直な感想を聞けるだろう。地元企業にとっても商品開発のヒントになる。産業支援の場を図書館で提供していることになる。
飲食物では生ものを実際に図書館内に置くのは難しい。写真や解説を記したチラシが限界だろう。乾物や製品は安全上問題がなければ図書館に置く。大型製品であれば館内のある区画に置く。小物であれば、本棚の間や本棚に関係する本と一緒に置く。図書館は本をテーマ別に分けて本棚に入れているから何かしら関係するものはある。実物と関係する本があると実際に使ってみたいと思ったり、その本を読んでみたいと思う。相乗効果を発揮する。館内秩序を乱さないのであれば、製品の使い方を家電量販店でおこなわれているデモンストレーションのように、地元企業の担当者が来館者に紹介してもいいと考える。実際におこなうときは、時間と場所を決めて入り口に来館者にわかりやすく掲示する。図書館は場所を提供するだけである。
図書館の来館者には地元にどのような企業があり、どのようなものを生産しているのか知ってほしい。日本国内だけではなく世界でも売れているものがあるかもしれない。そして一般の人が購入できる製品なら購入して使ってほしい。自治体内ではフェアなどの催しものがおこなわれ地元企業が出展している。そこには、興味をもって行こうと思っている人しか行かないのである。いっそのこと、特に興味があるわけでもなく図書館に本を返しにきた人がたまたま置いてある製品を見たときの反応を企業が見たほうが、売り上げを増やすためのヒントになると思う。
図書館は製品の番をしたり、来館者に紹介したりはしない。図書館は、地元企業と置く製品の打ち合わせをする、関係する本を考える、ブックリストを作成する、後日に広告料金をもらうだけである。手間がかかるのは最初の打ち合わせである。けがなどの危険があるものは置かない。この打ち合わせが両者噛み合ったものになれば、製品を上手に宣伝することができる。
資料購入費の使い方
資料の購入費は中長期的な視点に立って計画的に使わなければならない。一年だけで考えるのではなく、どのような品揃えにするのか計画を作る。来館者の反応を見ながら計画の継続・修正をおこなっていく。資料購入費は商品を買って陳列するための貴重な原資である。本やCDを買って棚に並べることは、服や靴のセレクトショップで働くバイヤーの仕事に似ている。
資料購入費に関わる用語は整理する必要がある。実は人によって捉え方が若干違っている。まず、資料購入費といった場合は図書館資料の購入に費やす総称である。これから本を買う図書費、新聞や雑誌を買う新聞雑誌費、CDやDVDを買う視聴覚資料費などに大きく分かれる。「資料費が減った」と誰かが言ったときに資料購入費を指すのか、それとも図書費だけが減ったのか確認をしたほうがいい。次に図書費は装備費を含んでいるのか否か確認をしたい。図書館に置いてある本は書店にあるものとは違って図書館名が記されたバーコードや背ラベルなどを貼って、本の表紙を透明のラミネートフィルムで包んでいる。これを業界では「装備」といっている。もちろんお金がかかる。装備費という。仕様や形態によって一冊につき二百十円、二百六十円などの単価になる。前述のように、この装備費が購入経費に入っているか否かは大きい。ほかの自治体と比較するときにA自治体では装備費を含まない金額、B自治体では含んだ金額になっていることがある。事情がわかっていなく「B自治体のほうがA自治体より購入経費が高い」と言っても、実は装備費を除けばA自治体のほうが予算をもっていることもある。資料購入費は業界でもよく話題になっている。議論をするときは注意したほうがいい。特に予算編成の時期には担当者から隣接する自治体と比較されがちである。「うちは近隣の自治体より高いから同じくらいにしてもいいのではないか」と言われたときに、何も知らないと反論もしづらい。
図書の資料選択の方法としては大きく三つある。一つ目は、書店や取次といわれるところから定期的に本が図書館に送られてくるものがある。業界用語で「見計らい」といっている。二つ目は図書館員が書店に行って買う。三つ目は新刊書のカタログを使って買う。この三つをうまく組み合わせれば、資料購入費を適切に使うことができる。筆者は過去に見計らいを経験したことがある。毎週、所定の図書館に各館の担当者が集まって書店から段ボールで送られたものを取り出し、棚に並べて購入するか否かを決める。買わないものは段ボールに詰めて書店に返す。買わない数が多いと段ボールに入れる作業が大変である。全体的に返本が多いと「返本率が高い」と言われる。実際に手に取ってみることができるのはメリットである。しかし、高額な専門書は見計らいからはずされることが多い。たとえば、四千円以上するものが送られてくることは多くはない。返本される可能性が高いからである。特定の分野の本を買いたいときには、書店に行って現物を見たほうが専門書や高額な図書も手に取ってみることができる。新刊図書の買い漏れをなくしたり、どのような本があるのか網羅的に見たいときには新刊カタログが有効である。カタログによっては本の表紙が掲載されていて想像しやすく、簡易な紹介文が記されている。隣にはバーコードがあり、スキャンすることで発注がすみやかにおこなえる。
資料購入費の内訳にも関心をもったほうがいい。資料購入費のなかで図書費は予算が多い。多いため、予算の使い方次第でその図書館のレベルがわかる。新刊書を買って商品の鮮度を保つことは大切である。しかし、出版年が古いからといって安易に新刊書に入れ替えるのではなく、いまもっているものの利用を促すことも考えなくてはいけない。図書館としての得意分野の充実度やレベルを維持していくために、ある程度の蓄積は必要である。半年や一年で使われなくなる本の購入を控えることもあるだろう。情報の速報性という観点から、特定の専門新聞や専門雑誌を購入するために図書費の一部を新聞雑誌費に入れることも考えるべきである。本だけではなく資料購入費の内訳と現状を認識すれば予算を上手に使うことができ、置いてあるものが充実する。
図書館グッズの販売
図書館でも博物館のようにグッズの販売をおこなってみてはどうだろう。理由は二つある。一つは収入のためである。二つ目は図書館のPRである。後者のことについては河合美穂が「外国の公共図書館では、収益を財政に当てるためというより、図書館のPR活動として意義付けしている」と述べている。日本の公立図書館では物販はまだ少ない。今後、それぞれの図書館が地域の特性を生かして販売を実施していくべきである。
大阪市立中央図書館では二〇一三年から一階エントランスにライブラリー・ショップをオープンした。文房具や書籍、食品を販売している。千代田区立日比谷図書文化館には一階に本や文具を扱うショップと、無線LAN完備(コンセントが三十口以上)の六十席のカフェが融合した店がある。山梨県の山中湖情報創造館では○七年からライブラリー・ショップを始めた。山中湖にゆかりのあるものが販売されている。山中湖村在住、あるいは活動拠点にしているアーティストの作品もある。埼玉福祉会は日本図書館協会と提携し、アメリカ図書館協会のグッズを販売している。サイトを見るとマグカップや帽子、傘、カードフォルダーなどさまざまである。
グッズは売れるもの、儲けがあるもの、PR効果があるものにしなければならない。地域の名産や伝統工芸と連携して図書館オリジナルのグッズを作るのもいいだろう。ヒントになるのは大学で販売しているオフィシャルグッズだろう。エコバッグ、クラッチバッグ、クリアファイル、ポストカード、文房具、タオル、ハンカチ、Tシャツなど。図書館で大規模な展示をおこなう場合は博物館のように期間限定の商品を開発するといい。
グッズには図書館のことがわかるような目印を入れる。安易に図書館名だけ入れても売れない。想像してほしい。エコバッグに大きく図書館名が入っていたら使うだろうか。あまり使いたいとは思わないだろう。
目印として図書館を象徴するシンボルマーク、図書館名を象徴的に表現したシンボルロゴ、公式キャラクターなどを考案しグッズに入れる。昔、サブバックとして高級ブランドの小さな紙袋を使うのがはやったことがある。デザインがよく、丈夫である。また、一種のステータスの誇示でもある。高級ブランドとまではいかなくとも、外で使えるもの、「あのロゴはどこの?」「あのキャラクターはなんだろう」と見た人が気になるもの、ちょっとした自慢ができる目印がほしい。
このように売れるグッズを作れば収入もある程度見込める。収入は図書館活動を充実するため、本の購入や家具の購入、新商品の開発費用など多岐に使えるだろう。
地元企業の商品を置く
地元企業と連携して収入を得ることも考えられる。地場産業の支援は役所の部署としては産業振興課になる。図書館でも、地元企業で作っている商品の一部を館内に広告として置く。広告料を企業からもらうのである。自治体の施設のなかでも図書館は多くの人が来館する。来館者は幅広い年齢層だ。新聞やテレビ、チラシなどの広告はいまでも有効だが、見た人の生の反応は見ることはできない。購入があれば反応があったとわかるだけである。地元企業の人が図書館内でチラシを手に取る来館者の様子を観察してみてもいい。消費者の率直な感想を聞けるだろう。地元企業にとっても商品開発のヒントになる。産業支援の場を図書館で提供していることになる。
飲食物では生ものを実際に図書館内に置くのは難しい。写真や解説を記したチラシが限界だろう。乾物や製品は安全上問題がなければ図書館に置く。大型製品であれば館内のある区画に置く。小物であれば、本棚の間や本棚に関係する本と一緒に置く。図書館は本をテーマ別に分けて本棚に入れているから何かしら関係するものはある。実物と関係する本があると実際に使ってみたいと思ったり、その本を読んでみたいと思う。相乗効果を発揮する。館内秩序を乱さないのであれば、製品の使い方を家電量販店でおこなわれているデモンストレーションのように、地元企業の担当者が来館者に紹介してもいいと考える。実際におこなうときは、時間と場所を決めて入り口に来館者にわかりやすく掲示する。図書館は場所を提供するだけである。
図書館の来館者には地元にどのような企業があり、どのようなものを生産しているのか知ってほしい。日本国内だけではなく世界でも売れているものがあるかもしれない。そして一般の人が購入できる製品なら購入して使ってほしい。自治体内ではフェアなどの催しものがおこなわれ地元企業が出展している。そこには、興味をもって行こうと思っている人しか行かないのである。いっそのこと、特に興味があるわけでもなく図書館に本を返しにきた人がたまたま置いてある製品を見たときの反応を企業が見たほうが、売り上げを増やすためのヒントになると思う。
図書館は製品の番をしたり、来館者に紹介したりはしない。図書館は、地元企業と置く製品の打ち合わせをする、関係する本を考える、ブックリストを作成する、後日に広告料金をもらうだけである。手間がかかるのは最初の打ち合わせである。けがなどの危険があるものは置かない。この打ち合わせが両者噛み合ったものになれば、製品を上手に宣伝することができる。