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南北戦争で北軍だった共和党の地盤がなぜいまは南部なのか?

『いまがわかる 世界史の教科書』より

共和党の南下を生んだ第37代ニクソン大統領

 大統領選挙を迎えると、アメリカは「赤い州」と「青い州」に分裂します。選挙結果の報道で、そのような図を見たことのある方も多いのではないでしょうか? 「赤い州」は保守的な共和党を支持する人々が多い地域であり、「青い州」はリペラルな民主党を支持する人々が多い地域。現在のアメリカでは、だいたい「赤い州」=共和党が南部・中西部などを占め、「青い州」=民主党がニューヨークなどの北部を占めています。

 しかし、これはアメリカ建国以来の構図ではありません。元来は「奴隷解放宣言」で有名なリンカーンが共和党出身だったように、北部が共和党の地盤で、南部が民主党の地盤でした。その構図が入れ替わったのは、リチャード・ニクソン大統領の登場からです。

 ニクソンは1913年、カリフォルニア州に生まれました。大学卒業後、弁護士を経て、共和党の政治家に転身。下院議員、上院議員を経て、53年、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領政権の副大統領を務めます。

 1960年に大統領選挙に出馬しますが、民主党のジョン・F・ケネディに敗北。62年にはカリフォルニア州知事選挙に出ますが、これも大差で落選してしまいます。ニクソンが有能であるのはたしかなのですが、アメリカ人が好む人間的魅力や、上流階級出身者特有の華麗さに欠けるのが大きな要因でした。

 しかし、1968年の大統領選挙ではみごとに勝利し、第37代大統領となるのです。ニクソンの勝利を解明するためのキーワードは「ディキシークラット」「南部戦略」「サイレント・マジョリティ」の3つです。

 まず、ディキシークラット。元来、南部の農場主などの権益を擁護する政党だった民主党は、フランクリン・ルーズベルト大統領のとき(第32代、1933~45年)、北部を地盤とするリペラル政党に変貌します。これにより南部の保守的な民主党支持層は、自らの声をあげる術を失ってしまいます。この民主党支持でありながら保守派に属する層がディキシークラットと呼ばれました。ちなみにこれは、「南部(Dixieland)の民主党「Democrat」という意味をもつ造語です。

 そこで南部戦略の登場です。ニクソン陣営は、民主党右派に属する南部の人々を共和党支持に取り込むことができれば勝利は確実とみて、彼らの琴線にふれる選挙戦を展開するのです。

 そして、サイレント・マジョリティ。これは「声なき多数派」という意味です。ここでいう多数派とは、伝統的なアメリカ社会、「古きよきアメリカ」 への回帰を求める人たちであって、日本でいう無党派層とはやや異なります。

 というのも、当時のアメリカでは、革新的立場から政府や社会への糾弾が声高に叫ばれていました。中心となったのは新左翼反戦運動家、公民権運動家、フェミニストといった人々。実際、この時期にはマイノリティや貧困層優遇のため、税金から莫大な補助金が使われました。またヒッピーのように、アメリカの伝統的生活様式から好んで逸脱する人も増えました。

 南部ばかりでなく、全アメリカの潜在的な保守層がこの状況を嫌悪していました。ここで登場したのがニクソンでした。ニクソンはこうした保守層をサイレントーマジョリティと呼んで支持を訴えかけたのです。

 保守層の多くは、勤勉でコツコツと努力を重ねて現在の地位を築いた人たちです。二クソンも裕福とはいえない家庭に生まれ、努力一筋でやってきました。つまり、サイレント・マジョリティの代弁者としては最適だったのです。

道徳が争点になる大統領選挙に終わりはあるか?

 ところで、ニクソンの大統領就任は、これ以後の「文化戦争」のきっかけとなりました。これは文化や道徳をめぐる価値観が政治争点となることで、その苛烈さから「第二の南北戦争」とも呼ばれるものです。

 文化や道徳が選挙の争点になるのは違和感があります。しかし、これはニクソン陣営が保守層に訴えるため、政策のほかに文化や道徳も争点とした結果、生じたのです。保守の玖和党が「人に中絶反対、同性婚反対、マリファナ合法化など言語道断・・・・・・」と張すれば、民主党は対抗上、反対のことを主張するという具合に、文化や道徳をめぐる両党の論争が、大統領選挙の定番となったのです。

 事実、1972年の大統領選挙では、ニクソンの対抗馬となった民主党のジョージ・マクガバンが、マリファナ合法化容認や人工中絶に対する姿勢を問われて劣勢を強いられています。また、第42代大統領だった民主党出身のクリントンは、共和党のレーガン大統領(第40代)が禁止した診療所での中絶相談を解禁しました。

 共和党のジョージ・W・ブッシュ (第43代大統領)と、民主党のアル・ゴアが戦った2000年の大統領選挙では、同性愛者の問題や人工中絶に対して、前者は反対か曖昧、後者はどちらかといえば賛成という態度をとっていました。

 ちなみに同性婚問題は、2015年6月に、最高裁がアメリカ全土で容認する判断を下しました。ですから今後は争点になることはないでしょう。しかし、ほかの案件は大統領選挙があるかぎり蒸し返されるはずです。

 ニクソンの当選が生み出した文化戦争。表層的にはみえづらいこの戦争が、今後もアメリカのゆくえを決める一因であることは間違いないようです。

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タイトルはありません (アメリカ駐在の愛知県民さん)
2022-12-20 13:51:30
アメリカに駐在している身です。たまたま気になって調べていたところ、こちらのブログ記事に辿り着きました。ここに来る前に、このトピックに関するサイトや記事を読みましたが、貴方様のブログ記事が一番簡潔で、またわかりやすかったです。

ちなみに私も愛知県民で、最近の記事も拝読させていただき、大変親近感を覚えました。調べ事で辿り着くブログは、数年前で更新が止まっていることが多いのですが、こちらは今でも続いており、近況を知れて嬉しかったです。ブログ頑張ってください。
 
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