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インドの「ガンジーエンジニアリング」

『「嫌消費」不況からの脱出』より

インドなどの新興国でも面白い共鳴現象が見られる。インドには、「ガンジーエンジニアリング」や「節約エンジニアリング」と呼ばれる技術がある。シンガポールや中国でもこのような技術への投資がある。彼らが目指しているのは、単なるコスト削減ではない。世界人口のおよそ70億人のうち40~50億人、約70%の年間世帯所得が3000米ドル(年収約23万円、月収約2万円)以下の層である。

こうした市場での成功で知られているのは、インドでは、「タタ」というメーカーの自動車「ナノ」(2200米ドル、約17万円)、「ゴドレジ」の冷蔵庫「チョツクール」(55米ドル、約4300円)、ノキアの携帯電話「ノキア1100」(15~20米ドル、約1170~1550円)などである。

これらの製品は単に安いだけではなく、徹底的に消費者のニーズと収入条件に適合するように、従来のものづくりとはまったく異なる発想でつくられている。それが戦後にインドを独立に導き、非暴力主義で民衆の側に立った指導者の名から「ガンジーエンジニアリング」と呼ばれている。

タタの「ナノ」は三輪車がベースになり、販売価格の上限からコスト制限が厳しく、ラジオ設置スペースは、消費者がラジオの設置パフォーマンスより高い価値を認めてくれる収納スペースになっている。

チョツクールは冷蔵庫なのにコンプレッサーがない。ただ、どこの村にも12ボルトの発電機があるので、気軽に利用できようになっている。太陽電池でも作動し、冷却にはコンプレッサーではなくインバータが利用される。食品は毎日購入されるので食品や飲料の在庫量は少なくていい。したがって、容量も6リットルに抑えることができる。

ノキアの携帯は、外出が多く、家族とのコミュニケーション頻度が高くて利用ニーズが高い農民層向けのものである。農作業に出る際に使われるのでアウトドア仕様になっている。そして、音声通話とショートメッセージだけに機能が限定されている。

こうした製品開発の発想は、日本の品質重視のものづくりの発想や部品メーカーとの長期取引関係に縛られていてはできないものである。中国、インド、ブラジルなどの新興国へ市場参入するのに要求されるのは異質な発想であり、さらに個々の新興国での対象商品への固有ニーズ、受容条件や購買力が反映されなければ、売れるものは開発できない。

しかし、これらのニーズは、自動車、家電製品などほとんどの製品が100%以上普及し、成熟あるいは衰退している現在の日本の新しい世代の市場と同質であり、収入条件こそ違え、通底している。製品の機能を多く、高くすることによって付加価値を上げることは限界にきているのだ。

従来のものづくりの発想や部品の取引関係を変えなければ、消費者が求める製品革新は生まれない。例えば、1980年代以降に生まれ、自動車にステータスやプレステージを求めない若い世代に自動車購入希望条件を聞くと、「ふつう」と「50万円までのキャッシュ払い」という答えが返ってくる。しかし、今の日本には50万円で買える車は中古車以外にない。まさに従来のものづくり発想では国内でも対応できない。日本でも「ガンジーエンジニアリング」が要求されているのである。
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議論を生む地球温暖化シミュレーション

『戦略決定の方法』より コンピューターのお告げに騙されてはいけない

シミュレーションモデルをつくる際にはいろいろな変数が入ってきます。変数が変わると計算の結果も変わってきます。変数の値を一つに決めるために、実際に観測されたデータの数値をシミュレーションモデルに入力して、計算の結果が観測データと一致するよう、変数を調整していきます。

この作業を「チューニング」と呼びます。まずは適当に何か数値を入れておいて、それからラジオの受信周波数を合わせるときのチューニングと同じように、適当にその変数を動かしてみて、「どのくらいにしたときに観測結果と合う数字(計算結果)が出るか」を見ながら、変数の値を決めてゆくのです。

チューニングの結果、シミュレーションモデルが過去の観測データをなぞるようになったら、その上で時間軸を動かして、未来の数字がどうなるかを見るわけです。

これがシミュレーションモデルによる予測という作業であり、広くシミュレーションと呼ばれているものです。

チューニングの問題点は、その答えが一通りには決まらないということです。

過去のデータをなぞるように調整するといっても、変数は通常、かなりの数に上るので、その変数の組み合わせ次第で、一つの観測結果への合わせ方も何通りも出てきます。

結果としてチューニングの仕方に、シミュレーションモデルをつくる人の個性が出てくることになります。

地球温暖化予測の場合でも、温暖化現象に関係する要因は非常に多いので、CO2に対する気温上昇の感度をどの程度と見るかは、シミュレーションモデルのつくり方によって違ってきます。結果的に、わずかなCO2濃度の上昇によって温度が非常に上がっていくモデルもあれば、それほど上がらないモデルもあるというように分かれてきます。

二〇〇九年一二月に行われた「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」についてのコペンハーゲン会議でも、「このモデルでは非常に高い温度になる」「こちらのモデルでは低い温度になる」というシミュレーションモデルごとの違いが問題になりました。

つまり同じ観測結果を基にしても、それをベースにシミュレーションした未来予測の結果は一通りではなく、研究者の考え方次第で大きくばらついてしまうということです。

さらに言えば、過去のデータ(観測結果)をベースにシミュレーションモデルをつくるといっても、過去の現象と未来との間に連続性があるとは限りません。

たとえば過去に何度か、「三日雨が続いたら翌日は晴れる」という観測結果があったとします。けれども未来についても本当に同じことが繰り返されるかどうかは、そのときになってみなければわかりません。

過去のデータをきちんとなぞるシミュレーションモデルをつくったとしても、未来が過去の延長線上にあるとは限らないのです。

気候とCO2濃度の関係について、今のところ過去のデータからわかっているのは、「この何十年か地球の気温が上昇してきていて、その間、大気中のCO2濃度も同時に上昇してきている」という事実です。しかし果たして過去の気温の上昇がどの程度、CO2濃度の上昇に起因するものなのかははっきりしないし、将来的にもその二つの数値の関係がこれまで通りの関数になるとも限らないのです。

そうした曖昧さが地球温暖化問題でも議論を引き起こす原因になっています。

「CO2がこれ以上増えたら、地球はとんでもなく暑くなってしまう」

とシミュレーションモデルの結果を盾に主張する人たちに対して、

「おまえのつくったモデルが正しいかどうか、誰もわからないじゃないか」

という疑問が出てくるのは、その意味では当然です。だからといって、「そんなものは間違っている」とか、「全く当てにならないから気にする必要はない」とも言えない。そこが難しいところです。

シミュレーションモデルは今のところ、そうした限界から完全には逃れられません。

一部の人たちには未だに、「大量の数式を設けて大型コンピューターで計算を行えば、未来が見えてくるはずだ」という幻想が残っているようです。
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プレゼン3 社会編

未唯へ

 床屋に行ってきました。少ない髪の毛を見るのが嫌で空返事です。これも外なる世界です。

プレゼン3 社会編

 3.1.1 コンビニ戦略
  ・コンビニ戦略のきめ細かさとグローバルの力
  ・コンビにはアルバイトを活かし方次第
  ・ケータイは密関係の道具だが、緩やかな関係
  ・ファーストフードをソーシャルに活用

 3.1.2 社会の動き
  ・政治の動きを監察したいが、なかなか見えない
  ・経済の動きも百貨店ぐらいしか見えない
  ・マスメディアは当てにならない。
  ・行政はサトからの力でしか動けない

 3.1.3 情報の入手
  ・心理がわかる、女性の視点から見ていく
  ・仕事を通じて、社会につながる会社の情報
  ・最大の情報は本です。多読に徹する
  ・歴史の循環性から未来を見る

 3.1.4 地域から見ていく
  ・循環の考えを使って、地域から全体を見る
  ・全体を考えることと地域の行動する
  ・持続可能性のために、サファイア循環を想定
  ・全体を捉えるのに、複雑性の考え

 3.2.1 ボランティア活動
  ・図書館で返本しながら、本と市民の関係を調査
  ・万博では、インタープリター教育
  ・インタープリターは世界を一緒に作る
  ・グループで市民参画は楽しかった

 3.2.2 地域行政の分析
  ・行政の行動計画は市民から分からない
  ・パブリックコメントに応えたが、参考扱い
  ・行政は企業の力を意識している
  ・新しい行政を標榜しているが、内容がない

 3.2.3 さまざまな問題
  ・人口減少で活力がなくなるが、方向が不明
  ・社会に対して、北欧の環境問題から入った
  ・エネルギー問題解決の決め手は生活の変化
  ・一気に問題解決するのは超国家

 3.2.4 全体と地域
  ・メーカー体質を変えるために販売部署へ
  ・個人、地域、全体を考えてきた
  ・地域と社会全体の接点の仕組みを分析
  ・社会の関係分析にトポロジーを活用

 3.3.1 地域での活動
  ・地域活動支援のグループ作成
  ・行政へ提案は不発。思いだけでは通じない
  ・レジ袋有料など。行政は実勢を求めている
  ・市民を考えない。環境学習が必要

 3.3.2 全体から支援
  ・行政は市民に直に働きかける
  ・市民からの発言に対して、情報共有を図る
  ・コミュニケーションなどの専門家
  ・市民は行政と一緒になり、行政業務を減らす

 3.3.3 地域のあり方
  ・企業はお客様の生活を直接支援する方向
  ・限界に達しているグローバルをローカルが助ける
  ・支援されるには地域は活性化
  ・サファイア循環で持続可能な社会を実現

 3.3.4 市民参画
  ・市民グループを作成し、メンバー役割分担
  ・市民グループである以上は、行政を超える
  ・専門家も含めて、市民への支援
  ・行政の存在理由を問い、市民ニーズを実現

 3.4.1 全体の限界
  ・環境問題・エネルギー問題への方向が不明
  ・温暖化原因追求よりも、有限であることが課題
  ・生活・店舗は変えないといけない
  ・全体の先が見えないことが、個人の孤立感

 3.4.2 地域の自律
  ・全体の方向に従う、地域での自律した活動
  ・地域での経験・認識による思いの集約
  ・地域ごとに偶然を生かして、課題を決める
  ・グループとして、提案して、成果につなげる

 3.4.3 サファイア社会
  ・地域のエネルギーを全体につなげる静脈
  ・ローカルとグローバルが循環する全体の構造
  ・ローカルの知恵を使い切る仕組み
  ・市民活動の主旨を徹底するサファイア理念

 3.4.4 地域の活性化
  ・グループとしての活動で市民が主体的に動く
  ・市民活動を推進するのは発想力豊かな女性
  ・行政は地域ポータルを提供し、新しい行政
  ・個人を生かす社会モデル

 3.5.1 クライシス
  ・インフラは壊されることを前提とする
  ・全体での勝手読みではなく、地域で対策
  ・グローバルに頼らない、新しい仕組み
  ・ローエネルギーで社会コスト削減

 3.5.2 地域からの構築
  ・エネルギーは地産地消で全体効率を実現
  ・EUの発想は、個人の知恵が全体に伝わる方式
  ・地域が国家・企業に対抗
  ・地域の再構成のためのコミュニティの独立

 3.5.3 自分たちで守る
  ・市民の意識を変えるには、生活の目的
  ・生活の場を狭めると同時に思考範囲を拡大
  ・自分たちで確保するためにはコンパクト
  ・国・企業・地域が市民生活の活性化を支援

 3.5.4 役割分担
  ・国の役割は徹底防衛することと弱さを晒す
  ・企業は市民の中に入り、いい町・いい社会
  ・NPOは市民のハブとして、活動
  ・地域社会は安全・安心に向けて再配置

 3.6.1 社会問題の認識
  ・エネルギー問題は地域が幸せになれる方法
  ・人口減少問題はコンパクトなインフラで対応
  ・環境問題は情報共有で市民生活を変える
  ・市民と企業の関係は使い切ることで変革

 3.6.2 新マーケティング
  ・情報共有で市民グループを作り、ローコスト
  ・マスコミはソーシャルネットで情報共有
  ・企業は使うことに総力を挙げて、切替
  ・行政は市民意識を切り替える提案

 3.6.3 市民がつながる
  ・ソーシャルネットでコンテンツとつなげる
  ・グループとして、個人の状況を把握
  ・コラボレーション環境で集合知
  ・会社・行政が地域社会で共存

 3.6.4 地域から変える
  ・新しい行政として、市民コミュニティ要望
  ・バラバラな市民からグループで知恵の共有
  ・クライシスを想定して、市民の意識を変える
  ・市民主体社会から、新しい民主主義をめざす

 3.7.1 市民レベルの向上
  ・ソーシャルでの市民ポータルで状況を示す
  ・知識と意識の向上のために市民ライブラリ
  ・市民の知恵を展開するコラボレーション
  ・行政などへの提案を作成する仕組み

 3.7.2 市民エネルギー
  ・グループでの合意形成を提案につなげる
  ・市民はさまざまな専門性を持っている
  ・ソーシャルネットで柔らかいつながり
  ・行政への要求で市民エネルギーを増大

 3.7.3 市民ネットワーク
  ・組織とは異なり。個人を生かすシステム
  ・ゲーム使用のデバイスと時間を活用
  ・インターネット上のコンテンツを最大活用
  ・図書館機能などは国家レベルのクラウド

 3.7.4 市民主体民主主義
  ・ローコスト・ローエネルギーで生き抜く
  ・個人の多様性を生かして、皆で考える
  ・市民の情報共有のマスコミ
  ・必然性と将来性を明確にして、付加価値

 3.8.1 コミュニティ種類
  ・アラブ革命に見られるコミュニケーション
  ・図書館クラウドを使う生涯学習
  ・企業に対応したエネルギーの受け口
  ・新しい行政の市民協働の進化

 3.8.2 コミュニティ機能
  ・自己研鑽は個人の能力と意識を支援
  ・フェースブックなどのコラボは必須
  ・専門家を配置し、行政機能をカバー
  ・行政には、全体効率を求める

 3.8.3 企業の役割
  ・メーカーの論理をローコストにシフト
  ・シェアするコミュニティを拠点から志向
  ・ソーシャルネットで市民活動と連携
  ・モノつくりのエネルギーが市民活動に影響

 3.8.4 行政の役割
  ・サファイアの社会モデルでの再構成
  ・地域コミュニティをベースに社会全体設計
  ・国の方向を変えるには、迅速な意思決定
  ・市民コミュニティを展開することで平和
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『成長の限界』

『戦略決定の方法』より 「コンピューターのお告げに騙されてはいけない」

コンピューターによるシミュレーションとシステム分析は不可分の関係にあるものの、コンピュータ・シミュレーションのソフトウェアを操作できるようになれば、正確な分析が直ちにできるようになるほど事実は単純ではありません。

シミュレーションの要諦を考えるための手掛かりとして、シミュレーションを過信したための失敗例や、シミュレーションを行う上で避けられない不確実性の問題についてお話ししておこうと思います。

シミュレーションによる未来予測の中でも世界的に有名になった例として、一九七二年に出版された『成長の限界』という本があります。「ローマ・クラブ」という団体が企画したもので、現在に至るまで環境保護や食料危機説に大きな思想的影響を与えてきた本です。

ローマ・クラブは一九七〇年に設立された民間組織で、「今のような急速な工業化と人口増加、環境破壊を続けていたら、地球は壊れてしまう」という危機意識を持った人たちの集まりでした。

『成長の限界』のプロジェクトでは、ドネラ・H・メドウズ、デニス・L・メドウズという二人の数学者を中心とするMITの分析チームが、ローマ・クラブから委託を受けて「世界モデル」と命名したシミュレーションモデルを作成し、当時はまだ珍しかったコンピューターによるシミュレーションを行っています。

メドウズはコンピューター・シミュレーションの専門家で、このモデルでは天然資源、人口、資本、農業生産など、文明の成長におけるいくつかの制限要素を取り上げ、それぞれの要素と文明との関係を数式化し、時間の経過とともにそれらの要素が文明にどのような影響をもたらすかをシミュレートしたのです。モデル作成にあたってはさまざまな専門家に取材し、そのヒアリング結果を基に数式をつくったとのことです。

この世界モデルによるシミュレーションで得られた結論は、「世界の経済成長や人口増加は、食料、エネルギー、環境といった地球資源の制約によってやがて限界に達する」というものでした。

『成長の限界』では最大の問題として人口の急速な増加と食料生産力の限界を挙げており、「世界の人口が一〇億人から二〇億人になるのに、一〇〇年以上かかった。人口が二〇億人から三〇億人になるのには三〇年しかかからなかったし、三〇億人から四〇億人になるまでには二〇年しかかからなかったことになるであろう。人口は五〇億、六〇億へと増え続け、おそらくは二〇〇〇年までには七〇億人に達するであろうが、これは現在から三〇年以内のことなのである」

「今日の世界には食料に対する強い要求があるにもかかわらず、FAOの報告書は、新しい農耕地を開拓することは経済的に不可能になっているとしている」

「トラクター、肥料、灌漑などの農業技術や資本投下を通じて、土地生産性を二倍もしくは四倍にもしうると仮定することができる。この二種類の生産性向上に関する仮定の結果は、それぞれ約三〇年、すなわち人口の倍増期間程度、危機点を先に延ばせるにすぎない」と述べ、農地の拡大には限界があり、肥料や栽培技術向上による生産性の向上も、急速に増えていく人口の前では無力であると結論しています。

『成長の限界』で唱えられたこの主張は、実は経済学の世界では伝統的なものです。

イギリスの経済学者トマス・R・マルサスは、『成長の限界』に先立つこと一七〇年前の一七九八年、著書『人口論』の中で、「幾何級数的に増加する人口は、算術級数的に増加する食料生産によっては維持できない。人口は何も制限しなければ無限に増えてゆくが、食料供給は農地という制約を受けるために、一定以上は増やせない。その結果として貧困、食料供給に対して適正な人口を維持するための飢餓や病気による死亡率の増加、そして人口調節のための戦争が発生する」と説いています。

『成長の限界』の結論はこの一八世紀のマルサスの説そのままなのですが、「世界的な数学者が、システム分析という斬新な手法を使い、コンピューターを使って世界をシミュレーションモデル化した」というインパクトが大きかったのか、この本は日本を含めた世界的なベストセラーになりました。

さらに『成長の限界』が出版された直後、一九七三年に第一次石油ショックが起きて、原油価格と食料価格が高騰し、世界中が二桁のインフレに見舞われるという事件が起きました。これにより「地球資源の有限性」が全世界の人々に強く意識されるようになって、以後、「地球の人口がこのまま増えていけば、いずれ食料が足りなくなる」という説が広く流布していったのです。

世界的に非常に大きな影響を与えた本ではありましたが、今になって見返してみると「未来予測としては、ずいぶん外れたな」というのが正直な感想です。

二〇一一年現在、世界人口は七〇億人と、『成長の限界』が出版された一九七〇年代の初めに比べて八割ほど増えていますが、当時に比べて世界的に食料が不足しているという事実はありません。

これは第二次世界大戦後の化学肥料の普及によって、農地の単位面積あたりの生産性が数倍に向上したためです。この化学肥料による生産力の増加は、今も世界中で進行中です。

現時点で、世界の農地は大きな生産余力を維持しており、アメリカ、ヨーロッパ、日本など先進各国では、主要生産穀物の価格低下を防ぐために巨額の補助金を支払って生産調整を行い、関税や輸入制限によって他国から安い農産物が入ってくるのを食い止めている状態です。

一方で人口の増加も、『成長の限界』で予想されたように「二〇〇〇年までに七〇億人に達する」ことはありませんでした。予想から一〇年ほど遅れて二〇一一年に七〇億人に達しましたが、人口増加率は発展途上国を含め世界中で低下しています。日本など一部の先進国では既に人口は減少に転じており、二〇五〇年頃からは世界人口全体としても減少に向かう可能性が高くなっています。
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